離した手の温もり

橘 凛子

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同窓会

ep.122

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「はいはい、ストップ。美愛の彼氏は一宮くんじゃないって何回言えばわかるの、文乃は」
「そんな嘘は通用しないって。いっつも一緒にいるじゃん、二人」
『そうでもないよ。最近は会ってなかったし』
「本当にー?」
『本当。私、べつに彼氏いるから』
「え、誰?」
『文乃の知らない人』

ここで蒼ちゃんの名前を出すわけにはいかない。

変な噂を立てられては困るのだ。

一緒に来ていた彗くんはいつの間にか私の元を離れており、同級生と昔話に花を咲かせていた。

こういう回避が彼は上手い。

巻き込まれないよう逃げたのだろう。

『私、ちょっと飲み物…』
「ちょ…」
「文乃は私と話そうね」

これ以上文乃と一緒に話しているとボロが出そうでそそくさ、と私は飲み物を取りいくふりをしてその場から離れた。

菜乃がフォローして彼女を引き止めてくれている。

『はぁ…』
「原田?」
『?』

文乃から逃れてレストランのスタッフからウェルカムドリンクを受け取った私は一息ついて、店内を見渡した。

立食形式で各々、用意された料理をお皿に乗せていくスタイルらしい。

ぼんやり、と菜乃や彗くんが顔馴染みの友人たちと談笑している後ろ姿を眺めていた時。

一人の男性が私に近づいてくる。

見覚えはない。

誰だろう。

焦茶色の短髪を綺麗にセットし、ストライプのスーツを身に纏った少し小柄な男性。

一五六センチの私より少し高いくらいだろうか。

『……えっと…?』
「覚えてない?池田だよ」
『……池田…?
……ああ、池田くんか。久しぶり』
「久しぶり。綺麗になったね、原田」
『……どうも』

名乗られてようやく、誰だか認識できた。

学生時代の面影が全くなかったのでわからなかったが、私の知ってる男性の池田は一人しかいない。

一年の時に同じクラスだった。

そこまで仲良くはなかったが、数回言葉を交わしたことがある。

「ずっと参加してなかったよね、同窓会」
『ああ…うん。仕事で県外出てたから』
「仕事って…何してるんだっけ?」
『アパレルだよ。本社勤務になったの』
「凄いじゃん。出世?」
『まぁ…』

なんだろう。

池田くんはじりじりと私に近づいて距離を詰め、会話をしてくる。

話すだけならこんなに近寄る必要はない。

口説かれようとしているのだろうか。

勘弁してほしい。

『ちょ…近いんだけど』
「いいじゃん。二人で抜けない?退屈でしょ」
『は…?』

池田くんは私にさらに近づいて、耳打ちしてきた。

この男は何を言い出すんだろう。

私の知っている池田くんはこんなこと言わない。

十年で人ってこんなにも変わるのか。

彼は軽い人間になってしまったよう。
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