離した手の温もり

橘 凛子

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再会

ep.5

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『そうなんですね』
「別れた時とか考えると面倒じゃん?
絶対嫌」

じゃあなんで相澤さんはあんな風にあからさまな態度を取っているのだろう。

その気がないのなら変に期待させない方がいいのでは、と思ってしまった。

『なんで……』
「?」
『……いや、いいです。
それよりどこに行くんですか?』
「え?なにが?」
『行きたいとこあるんですよね?』
「ああ…うん。
私もまだ行ったことないんだけど、友達がおすすめしてくれたの。六本木にあるんだけど…」
『じゃあ近いですね。
タクシーで行きましょうか』
「うん」

本社ビルから出て私達はタクシーを拾った。

六本木までは車で数十分くらい。

ただ通勤ラッシュの時間帯なのでもう少しかかるだろう。

道中、私は聞き役に徹して相澤さんのマシンガントークに耳を傾けた。


—————
—————

「あ!ここだ」
『え……』

相澤さんに連れられて案内されたそのお洒落なバー、とやらは私の知ってる店だった。

六本木にバーは山ほどある。

なぜここなんだろう。

私の足は自然と立ち止まる。

鉛が括り付けられているかのように足が重い。

ゆっくりと顔を上げてその店の外観を見上げる。

黒を基調としたシックなその外観に金色の店看板には〝SiX〟と掲げられていた。

間違いない。

彼の店だ。

「?
どうかした?」
『い…いえ…』

私の不審な行動に気づいた相澤さんが不思議そうに見つめてくる。

どうしたものか。

ここで別の店にしよう、と提案出来る程の度胸はない。

「行こ?」
『ぁ……は…い…』

相澤さんは木目調の真っ白なドアを引いて店内に入っていく。

覚悟を決めて私もそれに続いた。

もう彼がいないことを祈るしかない。

チャリン、と入店を知らせるベルを鳴らした。

「いらっしゃ……」
「?」
『………』

にこやかな笑顔で迎える彼は私の姿を認識した途端、笑顔が消えた。

やっぱりいるよね。

彼の店だもん。

カウンター越しのその彼は一宮 彗くん。

二十八歳。

家の近所に住んでた幼馴染。

会うのは三年ぶりだ。

相変わらず優しげな目元は子供の頃から変わってない。

「……お好きな席へどうぞ」
「カウンターでいいよね?」
『ぇ……』

相澤さんは私の返事も聞かずにカウンター席に座った。

店内は広々としていて、人もまだ少ない。

テーブル席もまだいくつか余っている。

にも関わらず、彼女はカウンター席を選んだ。

もう逃げられない。

「座りなよ美愛」
『…うん』
「え、知り合い?」
『幼馴染です』

立ち止まっていた私を見兼ねて彗くんが席へ促してくれた。

明るすぎない栗色の髪も右目元にある泣き黒子も三年前と変わらず、懐かしい。

私は諦めて相澤さんの隣に腰かけた。

「そうなの?」
『はい。もう随分会ってなかったですけど』
「……帰ってたんだね」
『うん。ついこの間。
本社勤務になったの』

コトン、と私と相澤さんの目の前にショットグラスに白い液体が注がれたものを彗くんは差し出してくれた。

飲むお通しだ。

不思議そうに相澤さんはそのグラスを見つめる。

バーのお通しといえばだいたいナッツだ。

この形状のものはあまり見ないだろう。


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