離した手の温もり

橘 凛子

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再会

ep.15

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「さっき…」
『?』
「なんで気にかけるか聞いたな」

如月さんはビールを呑み、口元に小さな白いひげを作りながら話題を変えた。

彼の視線はこちらを見据えている。

可愛いらしいビールの泡の髭にどうしても目がいってしまう。

なんとも指摘しづらい。

『はい』
「原田が太田店にいた頃、次々人が辞めて最終的に一人だけになった時…」
『如月さんが応援でしばらく手伝ってくれましたよね。ニ、三ヶ月くらい』
「ああ。
正直、原田もすぐ辞めると思ってた」
『辞めれないですよ。お店回んなくなっちゃうし』
「だけどほぼ休みなしだっただろ。
普通は辞めるぞ」
『そんな無責任なこと出来ません。店長ですよ』

県外に異動になり店長として私は太田店を任された。

最初は社員たちが沢山いて、店長としてのやり甲斐を感じながらがむしゃらに働いた。

人間関係も良好。

だが、色んな諸事情が重なって次々に人が辞めていった。

あの時の絶望感は忘れない。

「疲れてる筈なのに原田は笑顔でお客様に対応してて、バケモンかと思ったな」
『バケモンって…
あの頃私、お客様が癒やしだったんですよ』
「……癒やし?」
『お客様とお話しさせていただいている時だけは本当に心から笑顔でいれたんです。
それ以外、スタッフがいないから孤独との戦いで…』
「なるほどな…。
販売員は原田の天職というわけか」

自分でもそう思う。

販売員の中にはお客様の対応が苦痛な子もいる。

何を話せばいいかわからない、と。

だが、私はファッションを通じてお客様の色んなお話を聞けるあの瞬間が大好きだ。

『ありがとうございます』
「…戻りたいか?」
『え?』
「店舗に」
『……正直言うと少し。
でもせっかくのキャリアアップなので頑張りたいです』
「原田らしいな」

如月さんは目尻を下げて優しく笑った。

今日は彼の色んな表情を見れる。

一緒に食事に来てよかった。

こんな沢山の表情を見れるのは今日だけかもしれない。

『そうですか?』
「ああ。
人が居ない状態でも原田、週報や月報欠かさず作ってただろ」
『まあ、一応…
決まりでしたし』
「それ見て俺は原田は本社に向いてると思って、上に口利きした」
『え…』
「条件は満たしてたし、太田店の人員が潤えばという確約付きで上も頷いてくれたか」
『………。
そう…だったんですか…』

知らなかった。

まさかそんな裏事情があるとは。

言われてみれば太田店に人員が潤って間も置かずに本社の異動辞令が下った気がする。

そういうことだったんだ。

「俺が引っ張ったも同然だ。
気にかけるのも当たり前だろうか」
『ありがとうございます。
ちゃんと評価してくださって。嬉しいです』

知らないところで如月さんが動いてくれてたんだ。

おかしいと思ったことが今日解決した。

なんで私の上司が彼なのかずっと疑問だった。

立場的に如月さんはエリアマネージャー。

複数店舗の統括を担っている。

そんな人が何故私の上司なのかずっと謎に思っていた。

千葉さんや相澤さんが上司になる方が自然だ。

自分が引っ張ってきた人材だから責任もって面倒みる、ということなのだろう。

如月さんらしい。

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