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21.私が急ぐもう一つの理由
しおりを挟む「逃げるように、というか逃げたけど皆大丈夫だったかな?」
「あそこの連中は体力はありますが、頭の中身はとても軽いので気にやむ必要はございません」
「わっ」
危機感を感じ自分だけ転移で一目散に逃げてきたはいいけど、ちょっぴり罪悪感もあり呟けば。至近距離からの声にびっくりして、飛び上がりそうになった。
「失礼。気配を消していたかもしれません」
振り向けば、予想以上の至近距離にフローラさんが立っていた。お屋敷内、自宅だからか格好はシャツにぴったりとしたパンツだ。ただ1つ細身の剣だけは、ここは別の世界なんだと実感させられる。
「ヴィトを弾かれるようでしたら、ご案内します。もしかして、連中が何かされましたか?」
いつもより険しい顔のフローラさんに慌てて弁解をする。
「いえ! 私が昨日急に騎士団さんの部屋に転移して床まで汚したお詫びに言っただけなんですが…」
更に腕を組み近づいて来る様子は、女の人なんだけど無駄な肉なんてものがついていないのもあり、やっぱり中性的で。夜にさしかかり通路には灯りが灯され、それに反射したピアスが光を作る。
「それで、どうされましたか?」
「賭けをしていると」
「何のですか?」
「ダンさんは、私が団長さんの……お嫁さんになるのに全額賭けているらしいです」
ショートカットの癖のない髪が揺れている姿にみとれていて自分の口が弛くなっていたのに気づいた時にはフローラさんの雰囲気が変わった後だった。
「ほう」
道案内、兼護衛をしてくれる為に私の前を歩きはじめたフローラさんは、とても低い声をだした。
「あ、あの! こんな変な怪しい者とは勿論ありえないので! ただの遊びだと思います」
だから怒らないで下さいという気持ちで話せば。
「私も、それに賭けよう」
「……え?!」
「ここだ。鍵を壁につけて下さい」
廊下の行き止まりの壁を触れといわれ戸惑ったけど、フローラさんは真面目な顔をしているし、冗談で言っているわけではないと判断し、言われた通りに首から下げたままの状態で鍵を壁にあてた。
「凄い」
ヒュンという音と同時にぽっかりと穴が現れ、どうやら上に向かう階段があるようだ。
「自然に明かりは灯ります」
フローラさんの言葉通り小さな灯りが階段を照らした。
「早くたどり着かないと道の途中で出られなくなります」
「あ、はい!」
こんな人が一人通れるかくらいの場所で閉じ込められたらと想像し慌ててフローラさんとの距離をつめれば。
「兄上もこれでは気になるだろうな」
フローラさんは、クスリと笑い呟いた。どういう意味なんだろう?
聞こうとしたら、もう目的地の部屋のドアの前だった。
「鍵を差し込んでみて下さい。部屋が危険な者でないと判断すれば開く。逆に認められなければ、鍵を持っていても入室できない」
なんかファンタジーだけど人間くさい仕掛けというか。
「開きました!」
よかった不審人物じゃなくて。ほっとしたのがバレていたようで、またフローラさんに小さく笑われた。
その姿をみて、もうカッコ可愛いからいいやと開き直ることにした。
「お借りします」
「兄も言っていたが、ご自由に。何かの際は、この呼び鈴を鳴らして下さい。これは特殊で音は出ないが屋敷の者達には聞こえます」
「はい。ありがとうございます」
私に背を向けたフローラさんは、再び私に向き直り、その瞳はあまりにも真剣でちょっとビックリした。
「ど、どうしたんですか?」
間が長くて耐えきれなくなった私は先に口を開いた。フローラさんは、まるで懇願するような口調で聞いてきた。
「先程の賭け、少し真面目に考えてもらいたい。あと、やはり早急さが必要なのだろうか?」
いやいや、お嫁さんは無理でしょ。それに私の残りの日数をフランネルさんから聞いたんだろうな。真剣なフローラさんに、ふざけた回答はできないと思い正直に返答した。
「作業は、早いほうがいいみたいです。じゃないと」
「理由があるのか。どうなるか知っているのか?」
蝶々さんからは、別に禁止されてない。なら伝えるべきなのかな。
「未曾有の大災害になるそうです」
「まさか」
私をじっと見て嘘じゃないと理解したフローラさんのその後の動きはとても速やかで。団長さんや宰相さんを呼ぶから詳しく聞かせて欲しいと足早に去っていった。
「えっと。少しは時間あるのかな?」
やっと一人になれたので、私はこの時間を有効に使うべくヴィト、ピアノを弾くことに没頭し始めた。
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