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52.ある日の温室での私
しおりを挟む「こんなに素敵な場所になるんて。お父様がみたら驚かれるわね」
シンシアさんが、周囲を見渡しながら楽しそうに笑った。柔らかな日差しが彼女の髪をいっそう輝かせる。柔らかそう。触ってみたいと思う私はちょっと変質者かな。
「そうだな。使用する者によって雰囲気も随分変化した」
なんとも恥ずかしいような夜から数日後、温室でフランネルさんと私の為に来てくれた彼の妹シンシアさんの三人でお茶をしている。
「あの、やり過ぎたかもしれません」
二人と会話により勝手に家具を入れ苗を育てたり、考えたらお父さんの場所なのに。今から撤収するべきかと焦る。
「あら、違うわ。お姉様の好きに使って下さって構いませんわ。むしろセンスがとても良いと思うの。ね、お兄様」
え、そうなのかな? フランネルさんを恐る恐る見ると。
「ああ」
本当かな。フランネルさんの顔をみたけど残念ながら感情は読み取れない。
「お兄様、その顔、なんとかならないかしら?」
可愛らしいとしか表現できないふっくらほっぺに金髪巻き毛の妹さんの口からため息と共に出る言葉はかなりストレートだ。
それは、この数日で学んだ。
だけど、フランネルさんに対しては特にオブラートが無いような気がする。
「いつもと変わらないが」
そして響かないお兄さん。流石です。じゃなくて。
「あの、大丈夫ですから!」
さらにフォロー出来ない私。なんて言えばいいのよ。
「多分、私からするとこの国の人達の表情は元々わかりづらいので」
嘘ではない。この国の人はだいたいが金髪かシルバーの髪に薄いビー玉のような澄んだ目の色で色素がとても薄く硬質な印象だった。
「あ、悪い意味では。皆さんとても綺麗なんです。ただ最初は冷たく見えて。でも、違うって今は知っています」
そりゃあ私を気に入らない人もいる。その反面、かけられる言葉や向けられる視線が以前より柔らかくなったと感じるのは間違いないと思う。
ただ、まだ相手の様子を完璧に理解できてるとは言い難いけど。
「そういうものかしら。でも、確かにお姉様の雰囲気は珍しいですわね」
えっと私は珍獣?
「今、変にとりましたわね。そうではございません。独特な気配がしますの。一度踏み込んでしまえば、お姉様の側はとても居心地がよいのです」
うーん。
「やっぱり髪の色とかですよね。でも魔法も効かないから色は変えられないし。顔や体型のつくりも不可能です」
大きな帽子を使えばいいのか。でも逆に怪しげで目立ちそう。ボブカットの髪をつまみ考える。
「シンシアが言いたいのは、見た目ではなく貴方そのものの気配だろう。私は、髪を切ってしまった事は少し残念に思っているが」
「えっ? 変ですかね」
確かに男女共々長い髪の人が多いかも。浮いてるって事かなぁ。でも、もう見た目で既に目立っているし。
「いや。似合ってはいるが、手から離れていくのが…なんでもない」
なにやらハッキリしない言葉で顔を横に向けた彼は様子がおかしい。
あ、まさか。
「お姉様わかります? 今、お兄様は盛大に照れてますわよ。いったいお二人で何をなさったのかしら?」
あの二人っきりの時、頭を撫でられながら髪をすかれていたのを思い出した。しかも人様の膝の上で。私まで顔が赤くなる。
「仲がよろしくてなによりですわ。私が来る必要もなかったのではないかしら」
「そんな! 礼儀作法や手紙の書き方を教えてもらって、話を聞いてくれたり助かってます!」
大袈裟に肩をすくめているシンシアさんに慌てて伝えた。いや本当に基本は学んだけど応用はまだまだだ。なによりこの明るい彼女に救われている。
「あら、お兄様よりも?」
「はい!って」
つい勢いに押されて返事しちゃった。
「ですって。精進が足りてないようですわ」
シンシアさんは、ちらりという言葉がしっくりする視線をフランネルさんへ送る。
「努力しよう」
怒らないどころか、微かに彼の口元が上がった。
ちょっと笑ってくれるだけでなんか嬉しくなる。
「あそこの花、とても美しいわ。見せていただいてもよろしいかしら?」
「はい」
こうしてお茶の時間はゆっくりと過ぎていった。
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