私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏

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8.外出

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「んー!約10日ぶりの外だわ」

 といってもお城の与えられた部屋から一歩を踏み出しただけなんだけどね。

「おはようございます」
「おはよ。さて行きますか」

 ランクル君に出口を案内してくれと促すも、彼の足取りが重い。そんなに嫌なのか?

「タカミヤ様。おはようございます」
「おはよう」

 曲がり角であまり会いたくない人物、元花婿候補①ギュナイルに遭遇した。

「何方に行かれるのですか?」

 僅かに首を傾け、それによりサラサラと流れる銀髪は魅力的だけども。

「引きこもりが外に出るって知って来たんじゃないんですか? まあ優秀で多忙な魔術師様がそんなわけないと思いますが」

 たかだか冴えない女にと普段の私ならスルーするが、初日の術が効かないとか不穏な言葉を私は忘れていない。

「そのように私を警戒されるとは。とても悲しいです」  

全然悲しくないだろうに。君の演技には騙されないぞ。

「所で、少し時間ができたのでご一緒させて頂く事は」
「却下」

冗談じゃないわよ。

「ですが、邪魔にはならないかと」

どうやら私達の目的地を把握済みらしい。

「どうする?」

 ランクル君に意見を求めるも彼は渋い表情をして。

ひたすら無言である。

「立場上言えないとかかな。じゃあ、ギュナイルさん。貴方が同行してくれると利点は何かな?」

 うちらにメリットがあるなら連れて行こうじゃないか。

「そうですね。地位の高い私が行くことで他者への牽制にはなるでしょうか。また病は対処できませんが、術にはあらかた対応できますよ」

 地位か。上下関係や派閥など正直興味はないけど、ランクル君の家には影響がでそう。

「吉と出るか凶とでるか」
「どのような意味でしょうか?」
「こっちの話」

ギュナイルに煩いという口調で切り捨てる。うーん、悩んだときは。

「じゃあ、これから見た事を他言無用に出来るならよいですよ。口約束は嫌なので指切りしましょう」
「ゆびきり?」

 何か言われる前に美し過ぎる小指に自分のガサツいた指を絡ませ歌を歌いながら手を放す。

「……恐ろしい歌ですね」
「ふっ、破らなきゃ発動しないから」

 さも盛大な仕掛けを施したとばかりに笑顔をつくれば、あら不思議。勝手に勘違いをしてくれました。

「じゃあ、そんな感じで収まったことだし行きましょう」




*~ * ~*


移動はなんとバスに似た乗り物だった。

 違う箇所は魔法石という物を使用している。また管理・運営は、国がしているとかかな。

 気になりランクル君に聞けば運転手には此方の会話は仕切りで聞こえないようになっており用事がある際には、窓枠に設置されているボタンを押しながら会話可能との事。

「嬉しい誤算だわ」

 自分がいた場所より遥かに文明が遅れていると勝手に判断していたけれど、移動手段を体験して考えを少し改める事になった。

「ここで降ります」

 貸し切りにしてくれた乗り物から降りれば、目の前には背の高い門が。

「私だ」

 ランクル君のそう大きくない声により門は勝手に開かれていく。

「すっごいじゃない」

 城まではいかないまでも大豪邸なお屋敷に立ち止まり眺めた。

 左右対称のアイボリーの建物の前には馬鹿でかい噴水。その周囲は花々が埋め尽くしている。

「何も見えなければ、更に素敵なんだけどね」
「どうかなさいましたか?」
「なんでもない。ランクル君、案内よろしく」

私の言葉を拾ったギュナイルに気にするなと手を振り、ランクル君に先を促した。

 なんだか面倒になる予感だと黒いモヤが見える窓の一箇所を眺めながら思う奏であった。



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