私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏

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11.夕呑みにて

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「食べると眠くなるのは、異世界でも変わらないわ」

 夕暮れの空を眺めながら時間には早いお酒をチビリと呑めば。

「あっまい」
「これを加えると変わる」

 ベランダ、いやバルコニーか。その一部屋分ありそうな場所に長椅子を引っ張り出し横になっている私の横に瓶が置かれた。

「へぇ。お洒落ね」

 騎士団長様自ら一般市民の護衛なんて、しかも洒落た瓶に入ったお酒も追加された。

「ラングさんは、何か頼み事でもあるんですか?」
「貸してみろ」

 渡された瓶を傾けグラスに注ごうとすれば横から掠めとっていく。彼はグラスに円を描くように新たな液体を回し入れていく。大きな手なので瓶が小さく見えてなんか面白い。

あと意外にも彼の手付きは丁寧だ。

「おおっ綺麗」

 なんの仕組みか知らないがグラスの中身は淡い光を発生させた。いや、ランタンみたいだな。

「組み合わせで直後に光るんだ。暫くすれば収まる」

 ラングの言うとおり、金属っぽい棒でかき混ぜれば眩しいから柔らかい光になった。

「美味しい」


レモンベースのスパイシーな味になった。やるじゃん、団長さん。

「アンタは、変わってんな」
「お酒の好みが?」
「ちげーよ」

 壁に寄りかかるラングは呆れた様子だ。ハイハイわかってますよ。

「取り乱してないって事?」

ちらりと斜め横のラングを見るけど彼は無言だ。

「そんなわけないじゃない」

 仕事疲れで頭は働かなかったけど、若干動揺はしていた。

「泣き叫ぶには、年齢とプライドが勝まさっただけ。それに」

 一気に喉へと流し込み空なったグラスを回せばカラリと氷が音をたてた。

「泣くなら本当に諦めなければいけない時にかな」

 大きな影ができ、音もなく彼は近づきグラスの中を再び満たした。淡い光が温かさんてないのに優しい。

「そして、泣くなら一人きりがいいわ」

 くるりくるりとグラスの中身は回され光が消えていく。

「まあ、たまには飲め。ただし飲みすぎんな」

 頭を大きな手が撫でていく。加減はしているんだろうけど、どうもぎごちないし力が強い。

「用件は?」

離れていく手を感じ再び聞いた。

「ランクルは、あいつは真面目だから傷つけんなと忠告するつもりだったが、やめた」
「ちょっと、護衛じゃないの?」

 振り返れば本当に部屋に入りかけている大きな背に文句を投げた。

「奴が来た。おれはお役御免だ。じゃあな」

ひらりと手だけを振り去っていた。

ラングは、私より年上で多分元花婿候補の中で一番歳が近い。

だからなのか。

「ふん、なんか良い奴じゃん」

悔しいかな、ほんわかしちゃったじゃない。

「いや、酒のせいだ!」

 この後一気に二杯目を飲んだ奏の背後に立つランクルにやれ飲みすぎだの、もっと上品に飲めだの、くどくどとお説教を受ける事になる。


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