11 / 46
11.夕呑みにて
しおりを挟む「食べると眠くなるのは、異世界でも変わらないわ」
夕暮れの空を眺めながら時間には早いお酒をチビリと呑めば。
「あっまい」
「これを加えると変わる」
ベランダ、いやバルコニーか。その一部屋分ありそうな場所に長椅子を引っ張り出し横になっている私の横に瓶が置かれた。
「へぇ。お洒落ね」
騎士団長様自ら一般市民の護衛なんて、しかも洒落た瓶に入ったお酒も追加された。
「ラングさんは、何か頼み事でもあるんですか?」
「貸してみろ」
渡された瓶を傾けグラスに注ごうとすれば横から掠めとっていく。彼はグラスに円を描くように新たな液体を回し入れていく。大きな手なので瓶が小さく見えてなんか面白い。
あと意外にも彼の手付きは丁寧だ。
「おおっ綺麗」
なんの仕組みか知らないがグラスの中身は淡い光を発生させた。いや、ランタンみたいだな。
「組み合わせで直後に光るんだ。暫くすれば収まる」
ラングの言うとおり、金属っぽい棒でかき混ぜれば眩しいから柔らかい光になった。
「美味しい」
レモンベースのスパイシーな味になった。やるじゃん、団長さん。
「アンタは、変わってんな」
「お酒の好みが?」
「ちげーよ」
壁に寄りかかるラングは呆れた様子だ。ハイハイわかってますよ。
「取り乱してないって事?」
ちらりと斜め横のラングを見るけど彼は無言だ。
「そんなわけないじゃない」
仕事疲れで頭は働かなかったけど、若干動揺はしていた。
「泣き叫ぶには、年齢とプライドが勝まさっただけ。それに」
一気に喉へと流し込み空なったグラスを回せばカラリと氷が音をたてた。
「泣くなら本当に諦めなければいけない時にかな」
大きな影ができ、音もなく彼は近づきグラスの中を再び満たした。淡い光が温かさんてないのに優しい。
「そして、泣くなら一人きりがいいわ」
くるりくるりとグラスの中身は回され光が消えていく。
「まあ、たまには飲め。ただし飲みすぎんな」
頭を大きな手が撫でていく。加減はしているんだろうけど、どうもぎごちないし力が強い。
「用件は?」
離れていく手を感じ再び聞いた。
「ランクルは、あいつは真面目だから傷つけんなと忠告するつもりだったが、やめた」
「ちょっと、護衛じゃないの?」
振り返れば本当に部屋に入りかけている大きな背に文句を投げた。
「奴が来た。おれはお役御免だ。じゃあな」
ひらりと手だけを振り去っていた。
ラングは、私より年上で多分元花婿候補の中で一番歳が近い。
だからなのか。
「ふん、なんか良い奴じゃん」
悔しいかな、ほんわかしちゃったじゃない。
「いや、酒のせいだ!」
この後一気に二杯目を飲んだ奏の背後に立つランクルにやれ飲みすぎだの、もっと上品に飲めだの、くどくどとお説教を受ける事になる。
59
あなたにおすすめの小説
恋愛は見ているだけで十分です
みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。
そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。
色んな意味で、“じゃない方”なお話です。
“恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?”
今世のナディアは、一体どうなる??
第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。
❋主人公以外の視点もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。
❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
期限付きの聖女
波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。
本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。
『全て かける 片割れ 助かる』
それが本当なら、あげる。
私は、姿なきその声にすがった。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる