私は、聖女っていう柄じゃない

波間柏

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16.それは、本当のモノなの?

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 朝、うっすらと霧が出ているなか目に見えない遥か先の的まとめがけて矢を飛ばしていた手を止めた。

「あと、一つ」

 地図には無数の小さな穴だけが空いていた。ただ一つだけ透明な杭を残して。 

「特に眺めても何にも出てこないわよ?」
「失礼。気分を害されましたか?」

 背後に向けて声をかければ靴の音を響かせ白い霧から出てきたのはギュナイルだ。魔術を仕事にする人は暇なんだろうか? いやこの人だけではなく元婿候補は、かなりの頻度で私の視界に入っている。

「ここ、ランクル君に教えてもらった穴場スポットなんだけど、何で皆来るの?」
「貴方を護る為でしょう。気づいているかわかりませんが、その弓を使用している時、とても無防備なんですよ」

えっ、そうなの?

「自分ではそれなりに集中できてると思っていたんだけど」

 弦を矢を作り出すとき、わたしの神経はかなり研ぎ澄まされていると自画自賛さえしていたのだ。

「そうですね。畏怖を感じるくらいの力が出ています。恐らくある程度の攻撃を受けてもかすり傷くらいで済むでしょう。ただ、矢を放つ瞬間だけは別です。力が全て矢じりに集まり防御はほぼされてない」

もっと早く教えなさいよ。

 もう終盤もいいとこなんですけど。ジト目になる私を無視し彼は私の高い位置で結んである髪を触ってきた。

「濡れていますね」
「しっとり程度でしょ? 霧のせいよ」

 何か楽しいのかくるりくるりと私の毛先を指に絡ませ遊んでいる。そんなギュナイルの銀髪は、変わらずの艶サラヘアである。何かが私と違うのか。異世界人だからとか?

「なにすんの」
「お慕いしております」

 掴まれた髪の一房にキスをされただけではなく、視界は紺色に支配された。

「私なりに伝えてきたつもりなんですが」

 左右には銀色の髪がカーテンの様にサラサラと落ちてくる。両手を前にギュナイルの身体から離れる為に押すも動かない。

それどころか両手を掴まれた。

「ほんと、何してんのよ」

 掴まれた両手の指一本づつ順に唇が触れていく。乾いた唇がかすめるだけだ。

「直接的に示さないと私を見てくれないでしょう?」

 じっと視線を合わせられながら指先に唇をあててくる姿とその感覚は強烈だった。私は、熱に浮かれた視線を浴びながら温度のない口調で問いかけた。

「それは…本物なの?」
「え?」
「物珍しさを勘違いしているんじゃないの?」
「違います」
「貴方の周囲にいるお嬢様方みたいに媚びない、容易に触れない。今までにないタイプだからじゃないのかな」
「そんな事は」

バサッ

 羽音がすぐ近くでした。小さな鳥らしくギュナイルの手のなかにあった右手を空にのばせば腕に小鳥は着地した。

『完成した』

 その青い鳥はくちばしを開きレイルロードの声で言葉を発した。

「やれやれ、なんとか帰れそうね」
「タカミヤ様」
「最後の仕上げといきますか」

 ちょっとは傾いたわよ。慣れてきたからか時々みせる素の顔とか。お慕いなんて台詞を初めて聞いたし言われたし。

「悪いけど離れて」

 私は、残された左手も綺麗な手から引っこ抜き地面に転がる弓を掴んだ。

「さて、やりますかね」

 私は、何か言いたそうなギュナイルに背を向け、最後になるであろう矢を静かに放った。


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