気がつけば異世界

蝋梅

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26.お疲れさん会

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パラパラ

雨が窓を打つ音がする。

 私は、ソファーにだらしなく座り片ヒザをたて肘をつきながら外を眺めていた。出窓から見える景色は夜の為もちろん真っ暗である。

 誰にともなく文句を言いたくなり、遠慮なく口に出す。


「あ~、せっかくなら月を眺めながらの一杯がいいんだけどなぁ~」
「嬢ちゃん、それ、ホントーに強いやつだからな。俺は忠告したぞ!ラジも止めさせろよ」

 先程から二人いる内の1人、リューナット、いや、もう面倒くさいからリューさんと呼ぶことにした。

 リューさんは、ローテーブルを挟み1人用のソファーで同じく私よりもお酒がたっぷり入ったグラスを片手にブツブツと私にお酒の飲み方に対してピッチを落とせと言ってくる。

「ユラには言っても無駄だ」

 私達から少し離れドア近くに立ちながら上品に飲むラジは、珍しく気怠げさを醸し出していた。

 彼の呼び方も年下だし、他の人がいない時はラジと呼び捨てにすることにしたのだ。それにしても珍しい。堅物そうに見えるのに。

「ラジも飲むのね」
「最近、疲れがとれないので」
「…」

 もの凄く疲れているんですよ俺は。

と聞こえてきそうな、ため息をつくラジだが、これ見よがしなんですけど。

 それって私が原因だって言いたいのかしら?

うん、スルーしよ。

「ふ~ん。まぁ今日はおつかれさん会だしね」

 あの騒ぎから3日が程経過しているのに今になって何故に酒盛りパーティーかって?

 たんにガス抜きをしたかったのよね。

 だってね。こっちに来てから一滴も飲んでいない事に気づいたのよ!

 まあ普段だって週末くらいだけど家より外、お店で飲むのが好きなのよね。元気な時は、1人飛び込みでバーに入ったりもしてお気に入りのお店を増やしていくのが楽しい。

「月がそんなに好きなのですか?」

 そういえば、あそこのお店にしばらく行ってないなぁとぼんやり考えていたら、いつの間にかリューさんの隣の1人用ソファーに移動していたラジが聞いてきた。

「空気とか匂いは全く違うけど月は何故か一緒なの」

この世界に来て思う事。

 それは、夜は本来ならば真っ暗なもの。

 普段、街灯や自動販売機の明るさなんて普通過ぎて気にもとめていなかった。

 この世界の夜の暗さは落ち着く反面、心細くもなる。それに違う事を上げたらきりがないけれど、テレビも携帯もない夜って、何をすればいいのか分からない。電気なんてないから灯りは、夜になると光る石を使用していて困りはしないけれど明るさは弱い。

 だから月を眺めると馴染みのある景色とその月の光の強さに安心する。

あっ。

 急に月で神器の光を思い出し聞きたい事もあったから、忘れる前に話をしようとラジに許可をとる。

「ごめん。今、光を呼んでよい? すぐ腕輪に戻ってもらうから」

 神器は、力を使用したり人の姿になると神気が出るらしいので、念のため。

「構わないですよ」

よし、許可はとったぞ。

ブアァン

『どうしましたか?』

 キラキラオーラの光が呼び掛けに応じ人型で現れた。

 いや~。夜に光を見るとまた存在感がすごいな。

 前にも同じ事を思ったけれど、光が天使や神様って言われたらイメージ通り! と迷うことなく即答する。

『ユラ?』
「あっ、ごめん。とりあえず隣に座って」

みとれている場合じゃなかった。まずは質問をしないと。

 別に立っていても疲れないと言う光に、私が気になるからと無理やり私の隣に座らせ、半ば無理やり持たグラスに並々とお酒を注いでいく。

「飲んだり食べたりも出来るんでしょ?」
『味覚もあり可能ですが、あまりしません』
「なら光も飲んで食べよう。じゃ、カンパーイ!」
『…』
「いや、そこ真似てよ!のって!」

 無言な光にじゃ、皆で仕切り直しと言いもう一度。

「カンパーイ!」
『…カ…カンパイ…』

カチン。

 ラジ、リューさんともグラスを軽くあて、光は、物凄い小声でカンパイと言った。

なんか、可愛い。

「そうだ。聞きたかったのは、あの風と火の戦の時、なんで私に防御なかったのかと思って」

 あの時、風の兵から魔法攻撃1回、火の国の王子から、これは自分からだけど腕を刺されたので計2回。

 光は意外とオールマイティーにこなすので防御もできるのだ。

 なのに攻撃を受けた時、全く防御の膜がなかったように感じていたのだ。

気になる光からの返答は。

『ユラの生命に問題がないと判断しました』
「えっ、死なないからいっかってこと?!」
『はい』
「基準がそこか!」

 つい手がでてビシリと光の肩にチョップをした。

「なんつーか、微妙な神器だな」

 リューさんの失礼な呟き。まあ、ですよね。

いや~、死ぬ程ではなかったけれど。けどさ…。

一瞬遠くをみてしまった。

 やっぱり光は、色々鍛え直したほうがいいわ。

「とりあえず今後は、生命じゃなくて攻撃に対しては全て防いで欲しいんだけど」
『わかりました』

 この天然の神器に不安は残るが、仕方がない。そしてふと、この居間にいる3人の男性達をみた。

「いや~、お酒のつまみに最高じゃない」
「ああ、これですか?」

 ラジがテーブルの上にある木の薄いトレーの中に並んでいる数種類のおつまみのうちの1つを指差す。

 うん、そのキノコの素揚げは塩加減といい確かに美味しい。

「いや違うって!」

君もある意味天然だ。

「皆の事よ」
『「「?」」』

三人とも不思議そうな表情。

本当にわからないの?


光の顔は神レベル。

 ラジは、金の髪と琥珀の瞳で野生のひょうみたい。

 リューさんも実はカッコいい。ガタイはずば抜けて大きく髪は黒に近い灰色に水色の瞳。なにより、この話し方が良き。

「う~ん、リューさん結構好みかも」

あまり深く考えず口にした結果。

「リューは妻がいる。額でわかるのでは?」

 何故か機嫌が悪るそうな口調でラジが教えてくれた。

「やっぱりそうか」

 リューさん落ち着いてるもんね。ん? ラジが早口で最後言ったのがひっかかった。

「ひたい?紋様みたいのはあるけど」

 リューさんの額をみてみれば、髪の隙間から小さく紺色の葉の様な印が刻まれているのが見えた。

「戦などの時は知られるのを嫌がる奴もいるから額あてをしてるのも多いな」

人質とか弱点になるからかな?

 ふと、ラジを見ると髪の隙間からは印は見えない。独身ってことかな。印って何か魔法とかで?

 ラジがザックリ説明してくれた。

 結婚式を神殿で挙げると額に二人お揃いの印が刻まれるらしい。

そんなの初めて知りました。

あれ?

 なんか、ラジの顔がすごくぼやける。

「そんな飲んでないのに」
「嬢ちゃん?」

 まぶたが自分の意思と関係なく閉じていくのが分かるけど、コントロールが自分では出来ない。

 体は、お酒のせいかぽかぽかして気持ちがいいな。最後に聞いたのは、リューさんの。

「だから言わんこっちゃない」

というセリフだった。




✻~✻~✻



『これ、酒ではないですよね?』

 光がユラのグラスを指差し俺に聞いてきた。

「ああ。中身が成人でも体の年齢はは16くらいだと言っていたから、酒に似た成分の果実水を与えた。飲んだ後、短時間で強い眠気がくる。もちろん体に害はない」

 我が国では17歳で成人になり酒も成人してから飲めるようになる。ユラは、納得しないだろうから、彼女の瓶だけその果実水にしておいた。

 色も似ている為、案の定気づかれなかった。

「止めない時点でなんか引っ掛かったんだが、そういう事か」

 リューは、途中から気づいていたようだ。

『とりあえず寝室にユラを運び私は腕輪に戻ります』

 光の神器は、ユラを細腕のわりに軽々と抱き上げ、ずっと彼女の側で寝ていたノアが起き出し先導するように尾をふりながら光の前を歩き出した。

 去り際に光が此方に顔を向けた。

『その額の色。あなたの片割れは死にかけているようですね』
「…オマエさんには関係ない」

 ユラが寝ていてよかったと俺は思った。

 それほどの殺気をリューは、出した。

『確かにそうですね』

 これだけの殺気を受けても全く動じない光は、やはりヒトではない。

 寝室へ続いているであろうドアは静かに閉まった。

「ちっ! わりーもう少し飲んでくる」
「ああ」

 頭をガシガシと掻きながらリューは部屋を出た。

 一気に静けさが訪れる。あるのは雨音のみ。

 ユラは次は地の国にするかと言っていたが、地の国、グラーナスにはリューの妻であるミュリが捕らえられている。

リューは。

"ほっとけない、何かを期待したくなる存在"

今は夢の中であろうユラ。俺は…。

『護りたい』

 それだけではなく、ユラがリューが好みだと言った時に感じた違和感。

俺は、彼女に惹かれているのか? あの異世界人に?

 グラスに残っていた酒を一気に喉へ流し込む。

いや、まさか。

 俺は、光が腕輪に戻ったのか寝室から神気が消えたのを確認し、部屋を後にした。



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