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29.一石三鳥
しおりを挟む「本当に何にもない所ね」
「確実に周りに被害が及ばないという場所は、付近では此処ぐらいしかない。兵を配置してはいますが、結界の外だという事をくれぐれも忘れないで下さい」
「ハイハイ」
私の少し後ろにいる、まだ何か言いたげなラジに分かってるわよと遮りヒラヒラと手を振った。
今、私とラジは水の国から少し離れた場所にいる。目的は、風と火の穢れを祓う為である。
「私だって学習したもの」
前回、水の時は派手にやったから今回は、手間だと難色を示されたが、頑なに人がいない場所を選んだ。
風と火なんて不味くない? しかも、大火事になったら私の責任になるじゃない。
「面倒事は回避しないとね」
カラカラ
風が吹くと小さな石が転がっていく。地面は乾いており草は申し訳程度に生えているだけ。
「とりあえず、やってみるか」
「キュッ」
小さくなり私の左肩にいるノアが鳴いた。
「なんか、ホント飼い猫だわ」
「キュ?」
「こっちの話」
不思議そうに首を傾げるノアの首には真っ赤な首輪がつけられている。
「赤が似合うわね」
だが、ただの首輪ではない。
自称、水の国ナンバーワン魔法使いシルビアさんにお願いして作ってもらった品だ。
なんと、この首輪をすると神気が察知されないのだ。これから他国へ行く際には必ず役に立つだろう。
「ん?」
足に何か硬い物が触れたので、しゃがみこみ土を払うと錆びた剣だ。
「残っているのは珍しい。埋もれていたんだろうな」
いつの間にか隣に移動したラジがいた。
「随分と刃が長い」
私は立ち上がり刃を視線まで上げる。
なかなか立派であったろう刃は錆びてガタガタだ。
それより何が珍しいんだろう。好奇心で軽く尋ねた。
「ここに剣があるのが珍しいの?」
「利用価値があるんです。以前この場は激戦地となったので、多くの者が息絶えました」
かなり重たそうな内容になりそうで、聞いた事を後悔するもどう言えば良いかと悩む間に話は続いていく。
「死んだ後、死者の服から剣、金目になるのは持っていくそれ専門の奴らがいます。良い儲けになったでしょう」
「…そう」
戦争を経験したことがない私には、何と言っていいのか分からず相づちしかできなかった。
……気まずい。
ラジの視線を追うとその目は私を見ていない。
まるで彼の視線は何かを見ているようだ。
私には、乾いた何もない場所にしか見えないけれど、彼には何かが見えているのだろうか。
「よっと」
私は剣を拾い上げたものの、ラジから話を聞いてしまった事により、なんとなく生理的に気持ち悪いと思ってしまって、手を離そうとした。
──だけど。
もし、自分が剣の持ち主だったら。
そう思われたら悲しいだろうな。
剣を軽く振ってみる。私でもなんとか持てそうかな。
「ノア、少年えっとナウル君呼んできて」
「クー…」
「背中じゃなくて咥えてきていいから」
「キュ」
ボフン!
納得したのか大きくなったノアは、近くで見張っているであろうナウル君を探しに行った。
「何故、彼を連れていく事にしたんですか?」
ラジは、少し機嫌が悪そうに私に聞いてきた。
「やる気のある子は嫌いじゃないから」
そして付け加える。
「ただ、ケガさせたりしたら嫌だなとは思う」
遊びじゃない。
本当は、ラジやリューさん、ノアだって連れて行動したくない。でも1人では難しいし、なにより寂しい。最近、特に周りの人達との距離が近くなっていくと仲間意識というか、ぼっちが嫌というか。
なにオバサンが言ってるのって感じだ。
「騎士になるという時点で死は覚悟しています」
当たり前のように言うラジ。そうなんだろうけど。けどさ、私のせいでケガをしたり最悪、死んでしまうのは避けたいのよ。
ああ、私は責任を負おいたくないだけか。
「ただ、自分が可愛いだけなのかも」
「可愛い?」
「ううん何でもない」
ただ、死んでほしくないと思うのは嘘じゃない。それだけはハッキリ言える。
「フンッ!」
「おぃっ!」
降り立ったノアが、咥えたナウル君を無造作に落とした。痛そうなのに元気なナウル君。
「あー、暗いのは、やめた!」
私は土埃を払っているナウル君にお願いした。
「ちょっとひと働きしてもらえる?」
*~*~*
ヒュー
私は、ナウル君が吹く笛の音と共に足を踏み込む。
剣を振り上げ振り下ろす。
剣舞は、緩やかではなくはっきりと動く。
舞いながら思う。
戦で死ぬってどんな感じなのだろうか?
殺るか殺られるか。
逃げ場なんてないし、戦うしか選択肢はない。
怖いよね。
きっと痛くて辛くて。
死の瞬間は恐ろしさしかなさそう。
ねえ、生まれ変わりとか信じてないけど、もしあるならば今度こそ楽しい人生を送れるとよいね。
浄化って神器だけでなくて苦しんで痛い思いをした動物や人にも効果があるといいのに。
「あっ」
『きますよ。出来るだけ防御はしますが』
光の言葉が頭の中に響いた直後。
「くっ!」
物凄い熱風が空へ突き抜けていく。
「えっ、地面が揺れてる?」
思わず倒れそうになった時誰かに支えられた。
薄く目を開き見上げれば光だ。
『どうやら貴方の望み通りになったみたいですよ』
あそこと光が指差す先には、噴水のように高く涌き出ているそれは。
シュー
湯気がたちこめていた。
そう源泉、温泉だ。
「やった! あっ、光ってる?」
拾った剣が光っている。
「何?」
それは徐々に剣の型をなくし、やがて消えた。
『戦で無念の死を遂げ、穢れたヒトの魂も祓えたようですよ』
「そうなの? あっ、風の少年とあれは」
『お姉さん、楽になったよ』
『まあまあってトコだな』
ふわふわと空中に浮いている二人。
ニコニコしている緑色の目と髪の少年と不機嫌そうな15.6歳くらいの真っ赤な髪と瞳の青年がそれぞれ話しかけてきたと思ったら、二人の姿が薄くなり、緑と赤の光のみになったそれは、私の腕に巻きつき、やがて腕輪になった。
色は、マスカットのような緑と珊瑚のような真っ赤な腕輪。
「やれやれ、なんとか終わったかな」
それにしても。
「神器と戦で亡くなった人の穢れも祓えて温泉もできる。 いや~、私、結構いい働きしたんじゃないかしら」
満ち足りたご機嫌な私に失礼な言葉が聞こえた。
「貴方は呑気だな」
『それには私も同意します』
「キュ!」
ラジに賛同する光と何故かノアまでひと鳴き。
「俺、こんな奴に惨敗したのか」
嫌そうに呟くナウル君。
「いやいや、オカシイよね?」
貴方達、酷くない?
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