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51.選べるわけがない
しおりを挟む「…ち…」
ずっと何か遠くから聞こえていた。
手が離せないの分かるでしょ?
ギャギャ
「あっ、外したじゃない!」
わずかだけど的がずれ気持ちの悪い声をあげる生き物。
次は大丈夫よ。
あら、逃げるなんて珍しい。追いかけようとすれば。
「お…ん」
ほら、まただ。とても煩わしい。
「邪魔しないでっ…え?」
武器を大きく回し声のする方、後ろを振り向こうとしたら、その前に。
「嬢ちゃん」
そんな呼び方をするのは一人しかいない。
何回か手を差しのべてくれた大きな手は私の肩を包み。
「リューさん」
「もう大丈夫だ」
顔を見たくて首をひねれば、先に肩に置かれていた手が視界に入った。それが信じられないまま手から腕、腕から顔へ辿っていくと。
「あ~。まぁ、少しな」
「っ! 何がっ! 全然大丈夫じゃないじゃない!」
あんなに筋肉質だった腕は干からびて、まるでガラスにヒビが入ったような模様が顔の半分を覆っていた。
暗がりで俯いていたから気がつかなかった。
リューさんは、固まった私の様子をみて何を思ったのか。
「あっ、嬢ちゃんが治してくれた足はなんともないからな」
「そこじゃないわよ」
なんかずれているのも彼らしいけれど元に戻るよね?
前だってなんとかなったし。大丈夫だと自分に言い聞かせ不安な気持ちに無理矢理蓋をし彼からの言葉に耳を傾けた。
「なぁ。嬢ちゃんに一つ頼みたいんだが」
「何でも言って」
低くなった声に直ぐに答えた。
「嬢ちゃんらしいな」
私は真面目なのに何で笑ってるのかが分からない。不満の気持ちが伝わったのか。
「わりぃ」
そう言いながら、私の頭を楽しそうに軽く撫でてきたリューさん。でもそれは一瞬だけで、すぐに消え一ヶ所を指差し、小さくでもはっきりと。
「出してやりたい」
その方向は、ミュリさんが入っている丸い器だ。
「恥ずかしい話だが、この腕じゃあ無理でね。ただ力はまだ使えるから嬢ちゃんのソレと合わせたら出してやれるかもしれない」
リューさんは、苦しそうな顔をしてミュリさんがいる一点だけをみていた。それしか見えないかのよう。そんなリューさんをみて私はつい口からでた。
「羨ましい」
私は、今まで付き合ってきて、そこまで想った事も想われた事もない。
チリチリと何処か奥深い箇所で鳴る。決して綺麗なモノじゃない感情がじわじわと広がっていく。
「嬢ちゃん?」
「なんでもない。周りも収まっているようだし、今やってみますか」
下らないわ。それに考える事でもないし。
ギギッッ
まだ奇怪な声はするけれど数は随分減った。少し離れた先には皆がチラチラと視界に入る。顔は見えないけど、ラジの変わらない背中になんだか安心した。そんな一瞬の間に。
「やれやれ、ろくに酒ものめんのぉ」
老人がミュリさんの閉じ込められている器によりかかっていた。気配は勿論なかったし何者?
「ジジィ! ミュリから離れろ」
「ジャミロステル様と呼びなさいと何度も教えたじゃろ」
本当に影なのかのぉと芝居臭い仕草で器に入っている液、おそらく酒を飲みガラス越しとはいえミュリさんの頬あたりを指で撫でているのが気持ち悪い。
「触るんじゃねぇ!」
リューさん、マジ切れだ。
でもわかる。私も嫌。
『光、力貸して』
光からの返事はなかったけれど槍に強い光が集まる。もう、これだけ手を汚したんだ。今更なんだ。
「ちょっ」
「俺がやる」
力を切っ先に集めた私の武器はリューさんの手に奪われ、更に青い光が混ざり辺りを明るく照らす。
「くたばれ!」
綺麗に飛んでいく槍は気味悪いお爺さんめがけて飛び。
「ほっほっ、血の気が多いのぉ」
老人は、身に槍を受けながら笑っていた。ただし効果はあったようで杯が落ちたと思ったら、手がなくなっている。さらさらと腕も。
「残念だがワシは死なぬよ。この体は無理だがの。ああ、土産に望みは叶えよう、ほれ」
お爺さんの声が合図のようにミュリさんが入っている器にヒビが。
「もうこの場に用はないのでな。ついでにこの器が壊れるとそこからサスナも出る。あとなぁ、出口はあそこじゃが内側からなら閉まるようになっておるぞ」
展開が早くてついていけない。どういう事? すぐに後ろから助け船が来た。
「相変わらずですね」
「スフィー君」
剣についた何かを振り払いながらスフィー君が近づいてきて。
「誰かが内側から扉を閉じないと毒が外にでるという事ですよ」
それって誰かを犠牲にしろって事?
嫌だ。そんなの無理よ!
「僕がやりますから大丈夫ですよ」
何アッサリ言ってんのスフィー君。
「どうせ、もう源がなくなれば時間の問題だし」
源ってシュリさん?
「無理」
なんにしろ却下だよ。
死なせるってわかっていて頼めるわけがないじゃない。どうしたらいい? なにか他に。
「ちょっと! なんとかなんないの!?」
ジャミロとか言う名前の、体も崩れかけている爺さんに近づく為前に踏み出したら、誰かに止められた。
「俺がやる」
私の腕を掴んだのは、リューさんだった。
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