気がつけば異世界

蝋梅

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55.次の行き先は

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「睡眠はとれたけれど」

 自分を見れば、寝たときと変わらない。でも、この怠さは夢ではなかったと教えてくれている。

「最低だ」

 あの嫌な夢は、ラジのお陰でみなかった。

 というか途中から記憶がないのよ。

「あれ? ノア?」
「フン」

 起きたらすぐに飛びついてくるはずのノアは、家具の上にいてそっぽを向いていた。この鼻息の返事といい機嫌がとても悪い。

 なんか、叱られているような気持ちになる。

「……悪かったわよ。でも、私だって普段はこんな軽くないのよっ! 本当に!」

 こりゃあ駄目だわ。冷たい視線を受けなんだか悲しくなった。というかノアが昨日ずっといたって事? 

「いや、なんだろう。かなり恥ずかしい」

 二度寝しようかな。そんな逃避をしようとしたらドアがノックされ、リアンヌさんが呼びにきてくれたので慌てて着替えた。準備をしながらも、頭を悩ませていた。

「ラジと気まずい」



※ ※ ※


結果を言ってしまうと、そんな気持ちは全くの杞憂だった。

  むしろ、彼はいつもと同じか、それ以上にアッサリしている。

「他に何かあるか?」

 慣れてたもんなぁ。

 まあ、そうだよね。本人は顔にある傷といい周囲から怖がられていると思っているんだろうけどさ。

 ラジは、とても見目よろしいのだ。

 それに、一見無表情だけど気を許せばとても面倒見が良い。いわゆる仕事仲間に慕われる、私とは真逆な存在だ。

「大丈夫か?」
「うわっ」

 眼の前にラジの顔面アップが現れた為、のけ反り椅子から落ちそうになった私を見て彼の眉間にシワが増えた。

何よ、その顔は!

 待てよ。使えない部下をみるような視線にやはりあれは、昨夜のコトは私の妄想だったのかもしれない。

「ユラ?」

いや、今は大事な話の時間である。しっかりしないと。

「ごめん。片割れの神器は見つかってないって事だよね?」
「ああ」

 ラジとの会話中にリアンヌさんからもっともな質問を受けた。

「ユラ様は、神器と距離が近ければ、やり取りが可能のように見受けられましたが」

 そう。実はかなり深刻なのだ。どうしてよいかわからない。

「今、全く神器達の声が聞こえないんです。地下で気を失う前に光からの声は聞こえたけれど、その時に既に繋がりが悪くて。夢中だったから気にしてられなかったんだけど」

 落ち着いてくると、ジワジワと不安になってきたのよ。

「どうせ暫くこの国は出入りが多くなるし援助する隊がやってくるからいても混乱するよな。早めに一度ミュランに戻るんだろう? 帰り寄り道していくのはどうだ?」

 リューさんが提案してきたけど、何処に?

「聖域ジュノールだ。嬢ちゃんは、知らないだろうが有名な場所さ」
「良いかもしれません。冬の神と春の神がまだ二人になる前に住まわれていたと言われている場所ですね」

 リアンヌさんが私をみてにっこり。

「水が豊富なのでタップリの湯につかれますよ」

 私はその言葉に文句なしに賛成をした。

「行く! 行きます! お風呂!しかもたっぷりなんて!」

 身体を拭うか、小さな器のぬるま湯で濡らす生活は風呂好きの私には贅沢とわかりつつ物足りない気持ちでいっぱいだったのだ。

「嬢ちゃんが乗る気だし決まりだな」

 新女王、メルべ様が神器の探索を約束してくれたので、この場を離れる事にした。

「失礼します」


 話が丁度終わった時、ドアベルと共にスフィー君が、なにやら色鮮やかな果物を抱えて入ってきた。

「おはようございます。女王陛下から特に一部の女性に効果抜群で人気だから、ユラ様に是非にと」

ナウル君、君は。

「いっ、何するんですか!」

 何に効果があるのか、スフィー君の視線で理解したのは私だけではなく隣にいたナウル君もだったようで、肘を脇腹にくらわした。 

「理不尽だ!」 
「笑うからいけないのよ」

 ボインのメルベ様にもらって素直に喜べない。いやいや、でもな。

「どうやって食べるの?」

 だって、あそこまでは望まないから、ある程度は欲しいんだもの。皆の微妙な視線を無視し、私はナイスボディになるべく果物に手を伸ばした。


***


「なぁ、いつもアンタにくっついてんのに珍しいな」
「…さあ、親離れかしら?」
「キュイッ!」

 ノアのご機嫌は、お昼頃に出発してからも継続中で、私から明らかに距離をとり宙に浮いたり歩いたりといくら誘っても肩に上ってこない。

「自分の匂いが消されたからでしょうか」
「消されたって、どういう意味ですか?」

 リアンヌさんの言葉にナウル君が反応しすぐに質問をしているが、私はリアンヌさんと視線を絡ませていた。

「ナウル、そちらに乗船させて頂きましょうか」
「えっ、俺はあっちじゃ」
「行きますよ」
「待って下さい!」

 離れていく後ろ姿を見ながらなんとも言えない気持ちになった。

 リアンヌさんは、ラジと何があったかお見通しだろう。

 でも、目があった時の彼女の様子は穏やかだった。

 ラジをとても大切にしているであろう彼女から一言くらいは釘をさされるかと思ったんだけど。

 まあ、私もラジも成人しているしな。

「いや、もしや言わない事が怒っているとか?」
「なんかやらかしたのか?」

 さっきからべらべら煩い人物にずっと気になっていた事を聞いた。

「そもそも君が何故いるの? 王子様なら国にいないと駄目なんじゃないの?」

 そうだ、こいつがノアの事を言い出すからだ。

「俺だって出たくないさ。だけど女王は国を離れられない。結果、水のミュランに援助の礼も兼ねて挨拶しないといけないんだよ」
「マート君、珍しくまとも発言で驚いたわ」

 私の言葉が気に入らないのか効果音をつけたいほどの勢いで振り向き睨まれる。

「それに馴れ馴れしく呼ぶな!俺は、マトリュナス・ベル・ナ・ヴィン・グラーナスだ!」

えー、ごめん。

「お姉さんには長くて無理。偽メルベ様かマートのどっちがいい?」

 睨み付けられても周りの存在が凄いから残念ながら小物にしかみえない。

「…マート」

 本来の姿のマート君は、濃い茶色の髪と瞳の14歳だ。ふくれた顔が可愛い。

「ユラ、話がついた」
「了解~」

 ラジに呼ばれた。どうやら話はついたようだ。

「気安くさわんな!」

 マート君の髪をワシャワシャ撫でれば、また怒っている。そのまだ残る子供らしさに、つい口角を上げてしまう。

「さて、行きますかね!」

 嫌がるマート君にちょっかいを出しながら、私達はラジの方へ走った。


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