笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸

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26 古き礼拝堂にて

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 ラングリフ様がお戻りになられるまで、あと数日という頃。
 私は、王宮に呼び出されました。

 王宮の片隅にある、古びた小さな礼拝堂。
 私達の結婚式が執り行われたそこで、その御方は待っておられました。

「あの……」
「来たか。時間通りだな、リリエッタよ」

 綺麗に掃除された広くない礼拝堂の中、待っていたのは一人の老紳士。

「……はい、陛下」

 何と、国王陛下でした。
 そこにおられたのは陛下一人で、他には誰もいません。

 陛下も、華美なお召し物ではなく、随分と目立たない服装です。
 とはいえ、いくら王宮内とはいえど、お一人でいらっしゃるのは不用心では?

「その顔、余の心配をしておるな」
「ぁ、いえ……」
「構わぬ。そなたの懸念は当然のことであるからな。だが、心配は無用だ。ちゃんと供回りはつけておる。ただ、この場に顔を見せておらぬだけよ」

 陛下は、ニコリと笑ってうなずかれました。
 私にはわかりかねますが、周りにどなたかいらっしゃるのかもしれません。

「そなたと顔を合わせるのは、何か月ぶりになるかな?」
「はい、陛下。王妃様の葬儀以来となります」
「そうか……。そうなると三か月ぶりであるな。時の流れは早きものよな」

 そう呟くと共に、陛下は少し陰のある表情を浮かべます。
 三か月前、かねてより病床にあった王妃様がお亡くなりになられたのです。

 私とラングリフ様も、葬儀には列席しました。
 王妃様は気性の激しい方でしたが、友人も多く、葬儀は盛大に行われました。

「それで、あの……」

 と、私は陛下に用件を窺おうとします。
 でも、激しい緊張に身が震えて、舌が上手く回りません。どうしましょう……。

「む? ……ああ、そうであったな」

 私の変化に気づかれて、陛下はポンと手を打ちます。

「――いや、すまないね。どうにも気を張るのが普通になっていて」
「え……」

 急に、空気が和らぐのを感じました。
 陛下のお姿に変わったところはないのに、纏う雰囲気が完全に変わっています。

「これでどうだね、リリエッタさん。楽になったんじゃないかね?」
「あ、あの……」
「ああ、喋り方は気にしないでくれ。こっちが素でね。公には出せないけど」

 一瞬前まで貫禄溢れる印象だったのに、今は穏やかさが優っています。
 とても優しそうな、子供に好かれそうなお顔をしておいでです。

「国の顔となる立場に、大人しさというのはマイナスなんだよ。困ったことに」
「そ、そうなのですね……」

 まだ驚きから立ち直れずにいる私に、陛下は柔らかく微笑まれました。

「今の今までお礼を言えてなかったけどね、ラングリフによくしてくれて、本当に感謝しているよ。君と出会えたことは、あいつの人生最大の幸運だろう」
「……ありがとうございます、陛下」

 やっと、認識が現状に追いついて、私は陛下にお礼を言うことができました。

「私こそラングリフ様には大変よくしていただいております。あの方と出会えたことは、私にとってもまさしく至上の幸運で、今は、とても幸せです」
「そうか、そう言ってくれるか。嬉しいな。……ああ、とても嬉しいよ」

 国王陛下は、噛み締めるように言って、何度もうなずかれました。

「サミュエルとラングリフと、他にも幾人か娘がいるが、どれも年をとってから授かった子供達だ。それだけに可愛くてね。サミュエルは甘やかしてしまったが」
「きっと今頃は鍛えられていますよ」
「死んだという話は届いていないからねぇ。頑張っているんだろう、あいつも」

 なかなかとんでもない会話ですが、第十三騎士団とはそういう場所らしいです。
 一度入隊したら、肉親の葬儀に出席することも許されない、という。

 それから、私と陛下は数分ほど近況報告や世間話をしました。
 素の陛下はとてもお話がしやすくて、ついつい、話し込んでしまいました。

 私ったら随分と不敬なことをしているのではないかしら。
 ある程度話し終わったところで、やっとそんなことを考えたくらいです。

「あの、それで陛下、本日はどういった御用件で私をこちらに……?」
「おっと、そうだったね」

 陛下も気づいたように笑って、おもむろに懐に手を差し入れます。

「君にこれを」
「これ、は……?」

 陛下が差し出されたのは、古びた鍵のようでした。
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