生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑

文字の大きさ
2 / 40
第0部-アネクシロア共和国-

002_決意

しおりを挟む
 真夜中、リリアはふと目を覚まし時刻を確認すると、ゆっくりと起き上がった。眩暈が落ち着いてからベッドを降りると、テーブルの読み終わった本を手に取って、誰もいない真っ暗な廊下へ出た。
 部屋以外の生活すべてにおいて行動を監視されているリリアだが、こうして真夜中だけは、自由に部屋の外に行くことができた。とはいえ、体力がないことには変わりなく、少し歩いては座り込んで休憩してを繰り返し書庫へと向かう。暗闇しかない廊下も、慣れてしまえば案外不自由なく歩くことができた。

 書庫につくと、備え付けられている蝋燭に火をつけて本を探す。まだ読んだことのない本を、背表紙に書かれているタイトルを読み探す。
 
「『川辺の野生植物』、『木の実の効用』、『葉と根-薬と毒-』それからあとは……」
 
 いくつかの本を抜き出して腕へと重ねていく。食事に混ぜられている毒を摂取しているものの、リリアは心の底から屈しているわけではなかった。手に取った本はどれも毒について調べるためのもの。ぱらぱらとめくって内容を確かめてから、五冊ほど選ぶ。床に本を置いて一息つき、動悸が収まったのを確認してから廊下に出た。
 まだ仕事が終わらないのか遠くからは話し声と足音が響いていて、リリアは人に会わないよう手近な部屋で休みながら自室を目指した。何度めかに隠れた部屋で人が通り過ぎるのを待っている間、暇つぶしがてら普段訪れないこの部屋はなんなのだろうとリリアは見渡していた。
 荘厳な作りのテーブルに、暖炉の上には二振りの剣。どうやらスウィフト公爵の書斎らしい。壁には彼の絵画コレクションがずらりと並んでいた。リリアは興味津々で普段近づくことすら許されないテーブルに備え付けられた引き出しに手を伸ばす。何か見つかれば、滅多に言葉を交わすことのない父親の気持ちがわかるかもしれないという期待半分、どんな仕事をしているのだろうという興味も半分。
 中に入っていた書類を順番に見ていくが、どれも領地の統治についての施策の資料や提案で、興味はそそられるものの、リリアの望むようなものはありそうにない。がっかりしてリリアが部屋に帰ろうと、引き出しを戻したとき奥のほうにある何かが引っ掛かり、もう一度開いて書類を片付けなおす。引っかかっていたのは崩れた資料の奥の奥に押し込まれた小さな袋。隠すように入ってた袋を開いてみると、中には真っ赤な石が付いた黒いチョーカー。
 
「レオ……」
 
 大切な思い出がつまったリリアの宝物だった。リリアが幼少期を過ごしたファフニール王国で出会った友人からもらったとても大切なもの。何年も前、スウィフト公爵に取り上げられ、もう二度と戻ってこないと覚悟していたリリアだったが、予期せぬタイミングで手にした宝物に、目から涙が零れる。
 リリアがレオと呼んでいた友人が、少し乱暴な口調で『お前がお前でいられるように』と言われてもらったチョーカー。諦めるなとそう怒られたようにさえ感じて、リリアは涙をぬぐって顔をあげる。
 
「――思い通りにはならない」
 
 誰も助けてくれないのなら死んでもいいと思っていた気持ちはすっかりなくなっていた。今まで何もせず成り行きに身を任せて諦めていた。
 だが、諦めるのはまだ早い。生きている。リリアの中で奥底に閉じ込められていた気持ちが動き出す。それと同時に、突然の別れとなってしまった友人にもう一度会いたい、そんな気持ちが湧き出てきて想いは留まることを知らなかった。
 普段の生活に支障が出ている今となっては、今逃げるのが最後のチャンスだとリリアもわかっていた。それでも会いたい。まだ死にたくない。

 リリアは廊下に出ると再び自室へ向かって歩き出す。その歩みは頼りないものの、しっかりと地面を踏みしめていた。
 

 部屋に戻ってすぐ、リリアは物をまとめだす。だがすぐに荷物の少なさに自嘲した。この屋敷で過ごした10年はなんだったのか。私物と言えば先ほど取り返したばかりのチョーカーが一つっきり。あとは、逃げ出した後の資金にする宝飾と着替えのドレス。念のためと、ルイから受け取った解毒剤も入れたが、手で持てる小さめのバッグすら空きがあるほどの荷物だった。
 形ばかりの荷物の準備を終えると、ベッドの下に念入りに押し込んで、再び寝るためにベッドに入る。普段動かすことのない体を動かしたせいで、疲れ切っていた。

 朝の支度に備えて起きだした侍女たちの物音を聞きながら、リリアは再び眠る。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

処理中です...