久我くん、聞いてないんですけど?!

桜井 恵里菜

文字の大きさ
6 / 10

突然の告白

しおりを挟む
「蒼井さん。新商品についての詳細とキャッチコピー、いくつか案を用意しました。目を通していただけますか?」

「分かりました、ありがとう」

私と久我くんのデキル関係は続いている。
デキルであって、デキてるではない。

「蒼井くん、ちょっと」

「はい」

珍しく課長に呼ばれた。

「どうかな?久我くんの様子は」

「はい。自ら進んで考えて行動してくれます。パソコンにも長けていて、資料作りやデータの分析も、私よりはるかに戦力になります」

「そうか、なかなか良いコンビだな。これからもこの調子で頼むよ。歓迎会については話してみた?」

「いえ、まだです」

「聞いておいて。こちらとしては、ぜひやりたい」

「かしこまりました」

お辞儀をしてデスクに戻る。

「ね、華さん。久我くんの歓迎会のことですか?」

美鈴ちゃんが前のめりに聞いてきた。
久我くんも、何の事かと顔を上げる。

「そう。もう久我くんが来てから1か月以上経ったしね」

そう言うと、久我くんに説明する。

「うちの会社は、強制参加の飲み会はNGなの。やりたかったら、個人的に声をかけてやるってスタンス。だから久我くんの歓迎会も、私達からは誘わない。久我くんがやりたいって思うならセッティングする。そんな感じなの。どう?別にやらなくてもいい?」

最近の若い人は、飲み会は敬遠しがちで、会社のこの方針はありがたいらしい。

てっきり久我くんもそういうタイプだと思っていた。

「僕は、皆さんさえよろしければ、一緒に飲みに行きたいです」

「えっ、意外!どうして?上司と飲んだって、面白くないよ?」

「蒼井くーん、聞こえてるよ」

すみません、課長。
空耳です。

「じゃあ、私がセッティングします!」

美鈴ちゃん、生き生きしてるわ。
当分仕事は放棄ね。
まあ、いいでしょう。
よろしく頼むよ。

という訳で、早速その週の金曜日に、希望者を募って久我くんの歓迎会が行われた。

*****

「久我くん、ようこそ。かんぱーい!」

課長の音頭で、みんなは一斉に乾杯する。

久我くんはお誕生日席で、周りの上司と愛想良く会話をしている。

「あーん、もう。課長達、久我くん離してくれない。よーしこうなったら、さっさと課長達を酔わせて久我くん奪還よ!課長~ぅ。お酒、お注ぎしま~すぅ」

美鈴ちゃん、仕事の時もそれくらいやる気がみなぎってくれるといいな。

私は一番遠くの席で、ちびちびと手酌で飲む。

ふと目が合った久我くんがいきなりすくっと席を立ち、私の隣にやってきた。

「華さんに手酌はさせられません」

そう言ってグラスに注いでくれる。

「いいよ、気を遣わなくて。久我くん、クールなキャラだから無理してない?最近の男の子は、こういうお酒の席でお酌して回るの、面倒くさいって思うんでしょ?」

久我くんはキュッと眉を寄せた。
あ、またムッとしてる。
拗ねるといつもこんな顔するよね、久我くん。

何に拗ねてるんだろ?
小言のうるさいオバハンとか思われてるのか?

4歳違いだけど、22歳の久我くんからしたら、オバサンの類なのだろうか?

まあ、仕方ない。
私だって4歳も年下の男の子、どう接していいか分かんないしね。

美鈴ちゃんなら、1つ違いだから気が合うかも?
そう言えば、美鈴ちゃんはどうした?

キョロキョロ探すと、課長達に囲まれてヘベレケになっている美鈴ちゃんがいた。

あらら、酒は飲んでも呑まれるな、ですよ。
仕方ない、助け舟を出すか。

立ち上がろうとしたが、右手が動かない。

ん?なんだ?
視線を落とすと、テーブルの下で久我くんが私の右手を掴んでいるのが目に入った。

「久我くん?離して」

「嫌だ。離さない」

…は?なに、若者の逆襲?
だから無理して飲み会なんて来なくて良かったのに。

私は仕方なく座り直した。

「どうしたの?何か言いたいことでも溜まってる?」

「ものすごく溜まってる」

「そっか。まあ、入社して1か月以上経つと、色々見えてくるものあるよね。普段は言わないように我慢してたの?」

「めちゃくちゃ我慢してました」

「そうなの?言ってくれたら良かったのに。でも今からでも聞くよ。何を言いたかったの?」

「華さんが好きです」

ハナサンガ スキデス。
はなさんが すきです。

色々変換してみるがピンとこない。

「なに?はなさんって。花金の仲間?」

「違いますよ、あなたのことです。僕はあなたが好きです」

「あら、ありがとう。私も久我くんみたいにいい後輩ができて、ほんとに助かってるよ」

すると久我くんは、最大級にムッとした顔になる。

「ねえ、そんなに顔しかめてると、眉毛の間に梅干しできるよ。ほら」

久我くんの眉間のシワシワを触ると、パシッと手首を掴まれた。

「ちょっと来て」

「はい?」

久我くんは私の手首を掴んだまま個室を出る。

通路を奥へと進み、角を曲がった所でグイッと腰を抱き寄せられた。

そのまま後ろの壁に私を押しつけ、片手を壁について逃げられまいと囲う。

え、これって、壁ドンと腰グイの合わせ技?

「ちゃんと話を聞いてくれるまで離さない。いい?」

「は、はい。聞きますとも。企業コンプライアンスは遵守いたします」

「俺とつき合って欲しい」

「何に?」

「はあー?もう…、分からないなら身体で教える」

そう言うと久我くんはジワジワと顔を寄せてきた。

待て!まさか、これはっ…

「わー!ちょっと待った!分かった、分かったから!」

久我くんの顔を両手でグニャッと押し返す。
変顔にしちゃってごめんなさい。

「ね、ちょっと、おかしくない?」

「何が?」

「私、久我くんより4歳年上だよ?おまけに地味だし可愛げないし、恋愛にも興味ない。久我くんなら、もっとこう…、年下の可愛い女の子を彼女にした方がいいと思うよ?」

「余計なお世話です。俺は華さんがいいので」

「なんでそうなるかな。納得いかない」

「納得いかせますよ。だから俺とつき合ってください」

「それは無理」

「どうして?」

「私、結婚するから」

久我くんは、ハッとしたように目を見開く。

「嘘だ」

「ほんと」

「だって、恋愛に興味ないって…」

「恋愛と結婚は別だから」

「どういう意味?」

「どうもこうもない。そのままよ」

スッと久我くんの腕から力が抜ける。
私はスルリとその腕をかいくぐってその場を去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました

あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。 それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。 動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。 失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。 「君、採用」 え、なんで!? そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。 気づけば私は、推しの秘書に。 時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。 正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

処理中です...