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12話
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好きだと口にしても空気を叩くようなものだ。伝わっていないという訳ではない。意味は分かっているのだと思う。
まぁ、分かった上でスルーされているってことになるよな。
サファルは内心苦笑する。それでも恋愛について何も知らないよりは多分マシだろう。森の奥にひっそり暮らしているカジャックの知識がどんなものなのか分からないが、いくら多少口達者なサファルでも愛についてを人に教えるのはおこがまし過ぎて無理だ。
ただ、分かった上でスルーされる時点で脈がないとはっきりしている。明確に言われた訳ではないが、同性での恋愛に対しても不毛だと考える人だとも思われる。要は始まったと同時に失恋している。
……でも決定打となった訳じゃない。
諦めるつもりはまだなかった。とはいえ上手い方法などない。
そもそもサファルは性格上消極的ではないだけで、経験豊富とは全く言えない。手練手管をもってして落とす、などとは到底言えたものではない。よって、具体的な対策など皆無だ。
「はぁ」
商売ならまだ浮かぶんだけどな。
人とのやり取りも苦手ではないが恋愛に関しては予測不可能だ。ましてやカジャックは恐らく人を避けている。
思わず漏れたため息に、カジャックが「疲れたのか? だったら眠るといい」と立ち上がった。
「どこ行くんですか」
違うと否定する前に、立ち上がられたことのほうが気になった。
「別にどこも……。お前の寝床を用意するだけだ」
「あ、なるほど……」
「さっき酒を取りに行く時も聞いてきたな」
「あはは……」
ここはカジャックの家だ。それでもカジャックがどこかへ行ってしまうのではないかと、サファルはどうやら心底で心配したり不安に駆られたりと無意識に思っているのだろうか。
人間に不信感を持っているかもしれないカジャックにさらりと見放されそうな気がして、自分もだが何よりもカジャックが寂しいのではないかと感じてしまい、そんな上から目線のような傲慢な感情を持っている自分が浅ましい。
カジャックが黙々と寝床を整えているのを見ながらサファルはつい、口にしていた。
「あんたは人が苦手ですか」
するとカジャックはベッドですらない簡易寝床を整え終えて、サファルの方を向きその場に座った。
「ああ」
飾り気も何もない返事に、聞いてしまってから「何聞いてんだ」と内心自分に突っ込んでいたサファルは言い淀み、少し俯く。サファルの心情を表すかのように蜜蝋のロウソクに灯された火が揺らいだ。
それでも、好きだとサファルが言っていても躊躇することなく簡潔に答えてくるカジャックに対してむしろ更に好感を抱く。
「じゃあ俺が来て、実は少し迷惑だったり?」
「……いや」
同じく「ああ」と頷かれる可能性は高いと思っていたサファルは顔を上げてカジャックを見た。
「お前は……苦手じゃない」
「ほ、んとに?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ好き?」
「……その呆れるほど一本線な思考はどうにかならないのか」
実際、カジャックは呆れたような顔をしている。だがそこに嫌悪はない。
ゼロじゃない。
サファルは座っていた腰を上げて歩くというよりは這うようにカジャックへ近づいて行った。カジャックは引いたような顔をしているが気にしない。
ゼロじゃない。少なくとも完全に不毛という訳じゃない。コンマ単位でもいい、ゼロじゃなければかけ算は出来る。ということは油断したらマイナスにもなりかねないが、ゼロよりは断然にいい。
「すみません、俺、わりと単純なんです」
そばまでくるとニコニコとしながらカジャックの手を取った。カジャックは何故かギョッとしたような顔を一瞬したが、すぐにまた呆れた顔になる。
「そのようだな……」
「好きです」
「またか……。いい加減分かったから言わなくていい」
「駄目ですよ、こういうのは口にしないと。じゃないとずっと同じ気持ちかなんて相手に伝わりませんし」
「……そうかもしれないな。だがお前は頻繁過ぎる。あと俺はお前の言う通り、生産性のないそういった関係は意味がないと思っている」
飾り気のない言葉でカジャックははっきりと言ってくる。またもや脈がないと言われている訳だが、サファルはもう落ち込まなかった。いっそ清々しいほどに率直でありがたいとさえ思う。
商売をしていると騙し合いなど日常茶飯事な勢いで見る。サファルは実直でありたいと思っているが、それでもそういったことにも対応出来る時点で率直で素直、とは言えない気がする。
そんな表とは裏腹な掛け合いはカジャックにはない。それが嬉しいし好きだと思う。
「俺はあんたが好きだなぁ……」
「……。お前は男が好きなのか?」
微妙な顔をしながらカジャックはサファルの握った手をほどいていく。
「そうではなくて、拘らないってだけです。好みで言うなら柔らかい女の子が好きですよ」
「俺は固いとおもうが」
「ですね。でもカジャックの腕の筋肉とか、撫でていたい感じで好きですよ」
「……」
引いたような顔でカジャックはサファルを見てきた。だがサファルは構わず続ける。
「……きちんと生きてきた感じがします。素敵だと思う」
「お前もきちんと生きてきただろ」
「俺は……うん、俺も精一杯生きてますけど、基本は怠惰なんで。魔力がほぼなくても努力してさ、鍛えようとする人もいるけど俺は諦めた。格好いいから剣士になりたいって思っても向いてないって言われてこれも止めた」
「……合理的なんじゃないのか」
「剣士になるには才能がないのはもちろんですが、その他にあまりに力がなくて。でも俺は体をしっかり鍛えようとはしなかったんです。で、弓ならなんとかって思って。ね、怠惰でしょ」
あはは、と笑いかけるもカジャックは笑わなかった。
「お前がどうしてもなりたいものじゃなかっただけだろう。怠惰というなら親を亡くしても妹を支えるために商売なんかしていない。適当にその日暮らしで幼馴染の畑を手伝ったりしていたんじゃないか」
商売をしていると話した時も流しつつやはりちゃんと聞いてくれている。
それに、ああ、やっぱり好きだ。
「えへへ、俺、情けないところをあんたに助けられましたが、これでも弓はわりかし得意なんです」
サファルはくしゃりと顔を歪めながら笑った。
まぁ、分かった上でスルーされているってことになるよな。
サファルは内心苦笑する。それでも恋愛について何も知らないよりは多分マシだろう。森の奥にひっそり暮らしているカジャックの知識がどんなものなのか分からないが、いくら多少口達者なサファルでも愛についてを人に教えるのはおこがまし過ぎて無理だ。
ただ、分かった上でスルーされる時点で脈がないとはっきりしている。明確に言われた訳ではないが、同性での恋愛に対しても不毛だと考える人だとも思われる。要は始まったと同時に失恋している。
……でも決定打となった訳じゃない。
諦めるつもりはまだなかった。とはいえ上手い方法などない。
そもそもサファルは性格上消極的ではないだけで、経験豊富とは全く言えない。手練手管をもってして落とす、などとは到底言えたものではない。よって、具体的な対策など皆無だ。
「はぁ」
商売ならまだ浮かぶんだけどな。
人とのやり取りも苦手ではないが恋愛に関しては予測不可能だ。ましてやカジャックは恐らく人を避けている。
思わず漏れたため息に、カジャックが「疲れたのか? だったら眠るといい」と立ち上がった。
「どこ行くんですか」
違うと否定する前に、立ち上がられたことのほうが気になった。
「別にどこも……。お前の寝床を用意するだけだ」
「あ、なるほど……」
「さっき酒を取りに行く時も聞いてきたな」
「あはは……」
ここはカジャックの家だ。それでもカジャックがどこかへ行ってしまうのではないかと、サファルはどうやら心底で心配したり不安に駆られたりと無意識に思っているのだろうか。
人間に不信感を持っているかもしれないカジャックにさらりと見放されそうな気がして、自分もだが何よりもカジャックが寂しいのではないかと感じてしまい、そんな上から目線のような傲慢な感情を持っている自分が浅ましい。
カジャックが黙々と寝床を整えているのを見ながらサファルはつい、口にしていた。
「あんたは人が苦手ですか」
するとカジャックはベッドですらない簡易寝床を整え終えて、サファルの方を向きその場に座った。
「ああ」
飾り気も何もない返事に、聞いてしまってから「何聞いてんだ」と内心自分に突っ込んでいたサファルは言い淀み、少し俯く。サファルの心情を表すかのように蜜蝋のロウソクに灯された火が揺らいだ。
それでも、好きだとサファルが言っていても躊躇することなく簡潔に答えてくるカジャックに対してむしろ更に好感を抱く。
「じゃあ俺が来て、実は少し迷惑だったり?」
「……いや」
同じく「ああ」と頷かれる可能性は高いと思っていたサファルは顔を上げてカジャックを見た。
「お前は……苦手じゃない」
「ほ、んとに?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ好き?」
「……その呆れるほど一本線な思考はどうにかならないのか」
実際、カジャックは呆れたような顔をしている。だがそこに嫌悪はない。
ゼロじゃない。
サファルは座っていた腰を上げて歩くというよりは這うようにカジャックへ近づいて行った。カジャックは引いたような顔をしているが気にしない。
ゼロじゃない。少なくとも完全に不毛という訳じゃない。コンマ単位でもいい、ゼロじゃなければかけ算は出来る。ということは油断したらマイナスにもなりかねないが、ゼロよりは断然にいい。
「すみません、俺、わりと単純なんです」
そばまでくるとニコニコとしながらカジャックの手を取った。カジャックは何故かギョッとしたような顔を一瞬したが、すぐにまた呆れた顔になる。
「そのようだな……」
「好きです」
「またか……。いい加減分かったから言わなくていい」
「駄目ですよ、こういうのは口にしないと。じゃないとずっと同じ気持ちかなんて相手に伝わりませんし」
「……そうかもしれないな。だがお前は頻繁過ぎる。あと俺はお前の言う通り、生産性のないそういった関係は意味がないと思っている」
飾り気のない言葉でカジャックははっきりと言ってくる。またもや脈がないと言われている訳だが、サファルはもう落ち込まなかった。いっそ清々しいほどに率直でありがたいとさえ思う。
商売をしていると騙し合いなど日常茶飯事な勢いで見る。サファルは実直でありたいと思っているが、それでもそういったことにも対応出来る時点で率直で素直、とは言えない気がする。
そんな表とは裏腹な掛け合いはカジャックにはない。それが嬉しいし好きだと思う。
「俺はあんたが好きだなぁ……」
「……。お前は男が好きなのか?」
微妙な顔をしながらカジャックはサファルの握った手をほどいていく。
「そうではなくて、拘らないってだけです。好みで言うなら柔らかい女の子が好きですよ」
「俺は固いとおもうが」
「ですね。でもカジャックの腕の筋肉とか、撫でていたい感じで好きですよ」
「……」
引いたような顔でカジャックはサファルを見てきた。だがサファルは構わず続ける。
「……きちんと生きてきた感じがします。素敵だと思う」
「お前もきちんと生きてきただろ」
「俺は……うん、俺も精一杯生きてますけど、基本は怠惰なんで。魔力がほぼなくても努力してさ、鍛えようとする人もいるけど俺は諦めた。格好いいから剣士になりたいって思っても向いてないって言われてこれも止めた」
「……合理的なんじゃないのか」
「剣士になるには才能がないのはもちろんですが、その他にあまりに力がなくて。でも俺は体をしっかり鍛えようとはしなかったんです。で、弓ならなんとかって思って。ね、怠惰でしょ」
あはは、と笑いかけるもカジャックは笑わなかった。
「お前がどうしてもなりたいものじゃなかっただけだろう。怠惰というなら親を亡くしても妹を支えるために商売なんかしていない。適当にその日暮らしで幼馴染の畑を手伝ったりしていたんじゃないか」
商売をしていると話した時も流しつつやはりちゃんと聞いてくれている。
それに、ああ、やっぱり好きだ。
「えへへ、俺、情けないところをあんたに助けられましたが、これでも弓はわりかし得意なんです」
サファルはくしゃりと顔を歪めながら笑った。
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