銀色の魔物

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15話

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 自分の家へ戻ると、サファルは時間を見つけてリゼとルーカスに森の奥へ迷い込んだ時に本当にあった出来事を話した。

「嘘吐いててごめん。でも……カジャックが人を避けてるようだったから言っていいのか分からなくて」

 黙って話を聞いていたリゼはため息を吐いてきた。

「もう……ほんとサファルは、もう。とにかく命の恩人じゃないの。何かお礼をしなくちゃ」
「あ、そういえば言葉では言ったけど何もしてない」
「全く! んー、何がいいかな。あまり森で手に入らないようなものだったら小麦粉とかかなぁ……パンとか……あ、野菜がいいかな!」
「なあ」

 まだ黙っていたルーカスが少し怖い顔をしながらサファルを見てきた。

「どうしたんだ、ルーカス」
「その人、確かに命の恩人だけど、本当に大丈夫なのか。悪いやつではないと言いきれるのか」
「何言ってんだよ、当たり前だろ!」
「俺は会ったことがないし、当たり前かどうか分からないからな」

 普段はリゼのほうが怒り、ルーカスはリゼを宥めてくれる役だというのに、いつもと違ってルーカスのほうが厳しい。サファルは戸惑ったようにルーカスを見た。

「ほんとにいい人なんだよ」
「だいたい何だって一人でそんな森の奥に住んでんだ? その時点でおかしいだろ」
「それは──」

 恐らく昔、親に捨てられたからだ。そして多大なる魔力のせいで人里を恐れている。
だが本人から聞いた訳ではない上にその話が本当かどうかも確認していない。魔力については憶測でしかない。それに本当だとしてもこんなプライベートなことをいくらサファルの身内だからとはいえ口にしていいものかどうか分からない。噂話をするのではないのだ。カジャックの話として話すにはプライバシーに突っ込みすぎている。

「それは、何だよ」
「……ごめん、言いたくない」
「サファル……」

 いつもはサファルに怒ってばかりのリゼがそっとサファルの腕に触れてきた。

「……何か事情があるってことだよ、ね」
「──うん」
「リゼ。こういう時こそサファルを甘やかしちゃ駄目だろ」
「ルーカス、そうかもだけど……でもサファルはこんなでも、人を見る目は意外にもあるし、人に対してこれでもいい加減じゃないでしょ。それこそ、こういう時こそ信じれないでこのサファルの妹なんてやってられないじゃない」
「……リゼ」
「……なぁ、すごくいいこと言ってくれたのは分かるし嬉しいんだけど……でも何か微妙に俺の扱いアレじゃない? つか、一応妹って意識あったんだ……」
「そういうところなんだからね、サファルが残念なのは」
「何でだよ!」
「……はぁ。全く……。分かった。一応信じる」

 ルーカスがため息を吐きながらサファルの頭をポンと撫でてきた。嬉しくも、悔しいほどに格好がいいとサファルは思う。

「って、一応って! 全面的に信じてくれよ。てゆーか、やっぱルーカスってカッコいいよなぁ。なぁ、リゼ」

 ニコニコとサファルがリゼを見ると「な、なによ」と頬を赤くしながらプイと顔を逸らしてくる。明らかに分かりやすいというのにルーカスは「リゼには残念ながらそう思ってもらえないようだなあ」と笑っている。サファルも鈍いと言われることはあるが、ルーカスこそ大概だと思う。

「あ、でもさ、ルーカスもカッコいいけど、カジャックもほんっとカッコいいんだよ。ドキドキするくらい」

 あははと笑いながら言えば、リゼとルーカスがそれぞれ意味ありげな顔でサファルを見てきた。

「な、何」
「サファル、あなたもしかして……」
「……おい、サファル。俺をその人に会わせろ」

 リゼが少し顔を赤らめながら何かを言う前に、ルーカスがまた少し怖い顔をしながらサファルをジッと見てきた。

「え、何で」
「何でも何も。何? 俺がその人に会うの、何か不都合でもあるのか?」

 ある。
 だってカジャックは人が苦手なのだから。

 とはいえ何故苦手なのかは説明するつもりがないので何というか、口にしにくい。

「……だからその、さっき言ったようにカジャックが人を避けてる、か、ら……」
「ほら、そういうの。そんなこと聞くと安心なんて出来る訳ないだろ」
「ああもう、この過保護!」

 普段はそれでもルーカスのことは大好きだが、カジャックのことに関しては非常に面倒くさいとサファルは思った。

「過保護にさせるんだろ、サファルが」
「それは否定出来ないよね」

 リゼが苦笑した後に続けた。

「でもルーカス、サファルを信じてあげよ」
「リゼ、お前ほんと可愛い俺の妹だな!」
「サファルは一応、カジャックさんに持ちかけてみてよ、でも。私だって心配は心配なんだから」
「わ、分かったよ……」
「本当にどっちが上だか分からないよな。しっかり者のリゼに免じて信じることにするけど、サファル。あまり心配かけるなよ、リゼに。あと俺にも」
「うん。……その、ありがと」

 サファルは知らない。
 その後でリゼとルーカスが交わしていた話など。

「ルーカスはでも珍しく心配し過ぎじゃない?」
「うーん。リゼにはあまり言いたくないんだけど、あいつさぁ、無駄にモテることあるからなぁ」
「サファルが? あんな感じなのにちょっと信じがたいけど、でもいいことじゃない。妹として複雑だけど」
「あー……うん。ただモテんのは女じゃなくて男にな。だからそのカジャックさんとやらも大丈夫なのか心配になるんだよ」
「そっち? サファル、そんなに色気でもあるの? ああ、それともあの性格とかかなぁ。……妹として更に複雑かな」
「リゼもモテてるよ。だから気をつけるんだよ。何かあったら俺に言いなさい」
「……ぅん。でも急にお兄ちゃんぶった口調にならないで」
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