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17話
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引き上げられた後、元々釣った魚を焼く為か用意してあった枝や薪をカジャックは積むようにして置いていく。
「焚き火なら先に火種用意しなくていいんですか? あと、最初は小枝だけのほうが……」
びしょ濡れのままサファルが言えば「問題ない」と返ってくる。何が問題ないのだろうと思う暇もなく、カジャックは大した詠唱もなく手をかざすと何もないところから火を呼び寄せた。その火はカジャックが積んだ枝や薪を旨そうに飲み込んでいく。
「……わ」
サファルが唖然と見ているとカジャックが「どうした。……怖いか」と聞いてきた。
「火はそりゃ下手したら怖いものですけど、別に今は怖くないです。ただ凄いなぁって」
「……何が。いや、それより先に服を脱げ」
「え」
「何」
「こんなところで?」
「……? こんなところも何もびしょ濡れだろうが」
「あー」
ですよね、とサファルは苦笑する。何故この状況で、しかもカジャック相手に自分はむしろそっちへ発想がいくのかとサファルは自分に呆れた。どうにも自分は思っている以上にカジャックのことを大好きか、もしくは欲求不満か、あるいはその両方らしい。
サファルは言われた通りに服を脱いでいく。上着として着ている白いシャツは袖に特徴がある。利き手の右側は半袖で、左側は一見マンダリンスリーブだが大きなスリットが入っている。そこに指のないタイプの長手袋をいつもつけており、とりあえずそれから脱いだ。脱いでみて改めてぐっしょりと濡れているのに気づかされる。上着は羽織る系ではないので首から脱ぎ、これまた思い切り濡れていることを実感する。
中には紺色のノースリーブシャツを着ていて、これも脱いだ。
「……下も脱いだほうがいいですかね」
「お前が気持ち悪くないなら着ていても構わないが」
カジャックはサファルの脱いだ服を、枝で器用に作ったスタンドにかけながら答えてきた。
「……脱ぎます」
こうなりゃ自棄だとばかりにサファルは全部脱いでいった。だいたい照れる対象の相手がまず全く気にしてくれないのだ。
「目の前に全裸の人がいるのにドキドキしたりしないんですか」
「……意味もなく全裸になられたら不審に思うかもな」
「そうじゃなく!」
「自分と同じもの持ってる相手に何をどう興奮しろと……」
「ですよね……」
がっかりとしながら頷きつつ「俺があんたの裸見たら多分心臓潰れちゃうよ」と内心思う。
「でも落ち着かないならこれ、羽織ってろ」
カジャックは自分のコートを脱ぐとそれをサファルにかけてきた。
うわー……。
濡れてさすがに少し冷えていた筈のサファルの、中身からカッと火照ってくる。もう何に動揺しているのかも分からなくなりそうだ。
とりあえず、人が苦手な癖に何故人をたぶらかしてくる勢いでやることがスマートに格好がいいのだろうとサファルはドキドキしながら思う。
おまけにカジャックの匂いに包み込まれている感じが拭えない。家の中でもサファルがいるからか普段からなのか分からないがほぼ脱ぐことのないコートだけに、カジャックそのものという感じがする。どんな匂いなのかと聞かれても口で上手く説明出来ないが、ムスクと森林の香りが混ざり合ったような匂いとでも言うのだろうか。
……家に帰る時にカジャックの身につけてる何か、貰うか借りられないか聞いてみようかな。
それならカジャックに会えなくても匂いで多少は満足出来そうだ。ただ、何故必要なのか聞かれて説明すればドン引きされること山の如しだろう。
大丈夫、抜くのに使うんじゃないです。
そう言えば更に引かれそうだ。あと抜くとは関係ないものの、今の自分は少々変態臭い気がサファルはしている。
全裸にコートって……。
それもある意味ドキドキしている要因かもしれない。だがカジャックはこれに関しては何も思うところはないようだ。サファルの服を干してからついでとばかりにいそいそと魚を焼こうとしている。
そのカジャックはコートを脱いだせいで小柄で細身なのにしっかりと硬そうな体のラインが目立つ。足元まであるコートだったのでそこまで細身のパンツだと思っていなかったのと、パンツと同じ黒っぽい上着もどちらかといえば緩やかに体のラインに沿っていた。
全裸ですら興味が全くないカジャックに対し、服を着ているカジャックにすら興奮出来る自分。サファルはますます微妙な気持ちになった。
「おい、大丈夫か?」
「え?」
「何か挙動不審だが、濡れて冷えたんじゃないのか。もっと火にあたれ。まだ初夏ですらないんだ。水浴びには早いからな……」
「挙動不審……。あは、大丈夫です。水に俺、強いですし」
「水に強いとかそういう……」
「水に冷えたりしないんです」
「?」
「ほんとですよ。俺の村で冬に寒中水泳が恒例であるんですよね。ラーザの村近くにある川で。結構皆参加するんですけど俺いつもわりと平気なんだ。関係ないけど泳ぎも得意だし」
「泳ぎ……滑って川に落ちるのに……?」
カジャックはますます怪訝そうな顔をしている。
「あは……、どんくさいのとは分けて考えて? ほら、弓も本当は得意なんですけど魔物に襲われましたし」
「……なるほど」
「泳ぐの、速いですよ俺」
すると今度はカジャックがほんのり笑ってきた。きっと本人も気づいていないような微かな笑みに、サファルはまたドキドキしてしまう。
「寒中水泳が平気だったりとか、もしかしたらサファルが水属性なのと関係あったりしてな」
「えっ?」
「そんなに驚かなくても。可能性はあるだろ。魔力を十分に扱えなくとも属性的に何らかの」
「周りからは普通にサファルらしいなくらいにしか言われてませんでした。多分鈍いとかどんくさい的な意味かなと」
水属性だから──
自分には魔力など全くないとさえずっと思ってきたサファルに、表現し難い気持ちがじわりと湧き起こった。
「焚き火なら先に火種用意しなくていいんですか? あと、最初は小枝だけのほうが……」
びしょ濡れのままサファルが言えば「問題ない」と返ってくる。何が問題ないのだろうと思う暇もなく、カジャックは大した詠唱もなく手をかざすと何もないところから火を呼び寄せた。その火はカジャックが積んだ枝や薪を旨そうに飲み込んでいく。
「……わ」
サファルが唖然と見ているとカジャックが「どうした。……怖いか」と聞いてきた。
「火はそりゃ下手したら怖いものですけど、別に今は怖くないです。ただ凄いなぁって」
「……何が。いや、それより先に服を脱げ」
「え」
「何」
「こんなところで?」
「……? こんなところも何もびしょ濡れだろうが」
「あー」
ですよね、とサファルは苦笑する。何故この状況で、しかもカジャック相手に自分はむしろそっちへ発想がいくのかとサファルは自分に呆れた。どうにも自分は思っている以上にカジャックのことを大好きか、もしくは欲求不満か、あるいはその両方らしい。
サファルは言われた通りに服を脱いでいく。上着として着ている白いシャツは袖に特徴がある。利き手の右側は半袖で、左側は一見マンダリンスリーブだが大きなスリットが入っている。そこに指のないタイプの長手袋をいつもつけており、とりあえずそれから脱いだ。脱いでみて改めてぐっしょりと濡れているのに気づかされる。上着は羽織る系ではないので首から脱ぎ、これまた思い切り濡れていることを実感する。
中には紺色のノースリーブシャツを着ていて、これも脱いだ。
「……下も脱いだほうがいいですかね」
「お前が気持ち悪くないなら着ていても構わないが」
カジャックはサファルの脱いだ服を、枝で器用に作ったスタンドにかけながら答えてきた。
「……脱ぎます」
こうなりゃ自棄だとばかりにサファルは全部脱いでいった。だいたい照れる対象の相手がまず全く気にしてくれないのだ。
「目の前に全裸の人がいるのにドキドキしたりしないんですか」
「……意味もなく全裸になられたら不審に思うかもな」
「そうじゃなく!」
「自分と同じもの持ってる相手に何をどう興奮しろと……」
「ですよね……」
がっかりとしながら頷きつつ「俺があんたの裸見たら多分心臓潰れちゃうよ」と内心思う。
「でも落ち着かないならこれ、羽織ってろ」
カジャックは自分のコートを脱ぐとそれをサファルにかけてきた。
うわー……。
濡れてさすがに少し冷えていた筈のサファルの、中身からカッと火照ってくる。もう何に動揺しているのかも分からなくなりそうだ。
とりあえず、人が苦手な癖に何故人をたぶらかしてくる勢いでやることがスマートに格好がいいのだろうとサファルはドキドキしながら思う。
おまけにカジャックの匂いに包み込まれている感じが拭えない。家の中でもサファルがいるからか普段からなのか分からないがほぼ脱ぐことのないコートだけに、カジャックそのものという感じがする。どんな匂いなのかと聞かれても口で上手く説明出来ないが、ムスクと森林の香りが混ざり合ったような匂いとでも言うのだろうか。
……家に帰る時にカジャックの身につけてる何か、貰うか借りられないか聞いてみようかな。
それならカジャックに会えなくても匂いで多少は満足出来そうだ。ただ、何故必要なのか聞かれて説明すればドン引きされること山の如しだろう。
大丈夫、抜くのに使うんじゃないです。
そう言えば更に引かれそうだ。あと抜くとは関係ないものの、今の自分は少々変態臭い気がサファルはしている。
全裸にコートって……。
それもある意味ドキドキしている要因かもしれない。だがカジャックはこれに関しては何も思うところはないようだ。サファルの服を干してからついでとばかりにいそいそと魚を焼こうとしている。
そのカジャックはコートを脱いだせいで小柄で細身なのにしっかりと硬そうな体のラインが目立つ。足元まであるコートだったのでそこまで細身のパンツだと思っていなかったのと、パンツと同じ黒っぽい上着もどちらかといえば緩やかに体のラインに沿っていた。
全裸ですら興味が全くないカジャックに対し、服を着ているカジャックにすら興奮出来る自分。サファルはますます微妙な気持ちになった。
「おい、大丈夫か?」
「え?」
「何か挙動不審だが、濡れて冷えたんじゃないのか。もっと火にあたれ。まだ初夏ですらないんだ。水浴びには早いからな……」
「挙動不審……。あは、大丈夫です。水に俺、強いですし」
「水に強いとかそういう……」
「水に冷えたりしないんです」
「?」
「ほんとですよ。俺の村で冬に寒中水泳が恒例であるんですよね。ラーザの村近くにある川で。結構皆参加するんですけど俺いつもわりと平気なんだ。関係ないけど泳ぎも得意だし」
「泳ぎ……滑って川に落ちるのに……?」
カジャックはますます怪訝そうな顔をしている。
「あは……、どんくさいのとは分けて考えて? ほら、弓も本当は得意なんですけど魔物に襲われましたし」
「……なるほど」
「泳ぐの、速いですよ俺」
すると今度はカジャックがほんのり笑ってきた。きっと本人も気づいていないような微かな笑みに、サファルはまたドキドキしてしまう。
「寒中水泳が平気だったりとか、もしかしたらサファルが水属性なのと関係あったりしてな」
「えっ?」
「そんなに驚かなくても。可能性はあるだろ。魔力を十分に扱えなくとも属性的に何らかの」
「周りからは普通にサファルらしいなくらいにしか言われてませんでした。多分鈍いとかどんくさい的な意味かなと」
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