銀色の魔物

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19話

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「もう乾いたかなぁ」

 釣った中の数匹の魚を焼いて二人で食べたあと、サファルはもぞもぞと動いてカジャックが干してくれている自分の服に触れた。だが残念ながらまだ湿っている。

「別に乾かなくても、俺のコートを着ていればいい」

 それはそれで嬉しいといえば嬉しい。カジャックの服を、匂いをまとうなんて興奮しかしない。
 ただ、コートの下は全裸だ。落ち着かないことこの上ない。

「嬉しいけど、俺、それじゃあただの変態じゃないですか」
「そうなのか」
「いや、そうなのか、じゃなくて。納得はしないでくださいよ。変態みたいでしょ、って話であって実際変態じゃないんで」
「別に変態みたいだと俺は思ってないけど」

 カジャックがじっとサファルを見てくる。

「……ぅ。あと俺を更に落とそうとしないで」
「……は?」

 かなり濡れていたせいで服は乾くのにもう少しかかりそうで、サファルは下着だけ履いて他の服は持ち帰り、カジャックの家の前で干すことにした。
家へ戻る途中歩きながら、コートが自分にとっては袖だけでなく全体的に小さいことに、改めてカジャックが小柄なんだなと今更ながらしみじみとした。

「あんたは服ってどうしてるんですか? 仕立てとか」

 自分の服を干し直してから、家の中で既に夕食の準備を仕込んでいるカジャックに聞くと「自分でした」と当たり前のように答えてくる。

「ほんとにっ?」
「……何故?」
「いや、だって服の仕立てや縫製ですよ? ……少なくとも俺は出来ませんけど」
「そうなのか? 俺はジンに教えられて……普通のことだと思ってたが」
「ええ……。もしかして料理とか諸々のこともジンって人が?」
「ああ」
「何ですか、ジンって人、仙人か何かですか……」

 追い越すとかもう、そんな次元じゃなさすぎてサファルが唖然と言えば、カジャックはポカンとした顔をしてきた。

「カジャック?」
「……仙人、か。……ふふ、そうかもしれん」 

 そしてその後に、おかしそうにほんの少し懐かしそうに笑った。
 今のどこに笑う要素があったのか謎で仕方がないものの、カジャックのレアなところを見られてとてつもなく幸せを感じた。サファルはジンとらやに対し「仕方ないから休戦してやる」と始まっていないどころか始めようのない戦いの休戦宣言を内心呟く。
 服はもう暫くしたらようやく完全に乾いてくれた。カジャックのコートを脱いで自分の服に着替える時にサファルはまたドキドキしたが、なんというか独りよがりというか、自分ひとりで盛り上がっている感じが否めなすぎて微妙にもなった。

「俺ひとりでドキドキしてるんですけど。もうちょっとこう、カジャックもドキドキしてくださいよ」
「……無茶言うな。お前の裸でどうしろと」

 サファルが手土産に持ってきたパンや野菜を一旦しまっていた貯蔵スペースから少し持ってきながら、カジャックが引いたような顔をしている。

「えぇ? それはほら、えっと、例えば乳首見て目をそらす、とか?」
「男の胸にか? だいたい、目をそらすなら始めから見なくていいだろう……」
「そーいうんじゃないんですよ! こう、胸の高鳴りがですね──」
「おい、そういう話は別の誰かとしてくれ。俺は対応出来ないぞ」
「ちっがうんですってば! 別に俺もカジャックと恋バナがしたい訳じゃないですし、そもそも俺も村の奥さん方みたいにそういう話で盛り上がりたいんじゃなくてですね?」

 むきになって言いかけていると、カジャックが手を伸ばし、サファルの首に腕を回し引き寄せてきた。サファルよりも小さいカジャックの顔が近づいたかと思うと「落ち着け」と低い、だが穏やかな声でじっとサファルを見上げてくる。

「ぅ……」

 思わず何も言えずにいるとカジャックは「落ち着いたか?」とサファルを離してくる。

「……むしろ落ち着きませんけど……」
「落ち着いたじゃないか」
「驚きと興奮で一瞬静かになっただけです」
「……本当に変なやつだな、お前は。お前の村は皆、お前みたいな人らなのか?」
「……別に俺、変じゃないですから! あ、あの」

 今こそ、ルーカスとリゼに言われたことを頼んでみる機会じゃないだろうかと、正直うっかり忘れていたサファルは気づいた。お前の村、と言われて思い出した。

「何だ」
「あの、ですね……実は俺の幼馴染と妹がカジャックに会ってみたいって言ってて……」
「……お前の? ……何故?」

 サファルの言葉に、カジャックは心底分からないといった様子を見せてきた。それはそうだろう。小さな子どもじゃあるまいし、保護者が間に入ってくるのはカジャックも奇妙に思うだろう。

 ……自分の妹や幼馴染に対して保護者って考えるの複雑だけどな。

 かといって「幼馴染が何でかあんたを少し不審に思ってて」とは言えない。

「俺の妹も幼馴染も過保護なんです」
「……、ああ、なるほど。確かに俺の存在は不審に思われても仕方ないしな」
「そ、」

 そんなことないと言いかけて、実際ルーカスがやたら不審に思っていたことが改めて脳に過り、言葉に詰まった。

「そ、んな、こと……」
「お前が気にするな。別に嫌な思いはしていないし、心配されるのはいいことだと思う。構わない」
「カジャック……。……え?」
「え、とは」
「え、構わないって……」
「会ってもいい。ただし俺はお前の村へ行くつもりはない。かといって悪いがお前の身内とはいえ知らない者をこの家に招きたくはない。森の中のどこかか……そうだな、ここと逆になるんだが。開墾集落跡地となり長らく放置されたまま場所があるのを知っているか。そこの廃墟のような教会で会うというのはどうだろうか」
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