銀色の魔物

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20話

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 森を切り開き、開墾集落を増やしていく。それらは人口増加などに伴って昔はどこかでよく行われていたらしい。普通の村と違い、大変な生活になるであろうそういった開墾集落だが、それでも農民たちにとっては自ら進んで入植したくなる魅力があったのだという。
 今でこそずいぶん町や村の住民たちも自由度は高くなったが、当時は移動の自由もなく、様々な課税もなされていた。だが開墾集落の入植者には特別な書状が賦与されていたらしい。それさえあれば移動の自由だけでなく一部の税が免除されるとあり、当時の農民にとって魅力的でしかなかったようだ。
 そういった開墾集落への農民の流出を防ごうと、周辺地域の領主は何とか自分の土地での魅力を高めようと苦心した。よって今のサファルたちの暮らしがあるとも言える。
 いくらでも自由に移住出来るとまでは言わないが、許可さえあれば自分の望む場所へ行くことが出来る。職業も固定させられることもなく、自分たちの可能な範囲でなら好きな仕事につける。それでも農民を選ぶ者が少なくないのは、一部の税免除などの利点があるからだ。
 よって一時期盛んだった開墾集落は勢いをなくしていく。それと共にサファルたちが生まれてくるずっと昔から問題となっていた、魔物の移動が絡んでくる。
 元々魔物たちはもっと北、もしくは南の、人間たちが暮らしていけなかったような地に生息していたらしい。だが農業や工業の発達に伴い人間たちが未開の土地を開拓していくことにより、魔物も逆に今まで踏み入れていなかった土地への侵食を行うようになったのだという。
 いにしえからの言い伝えにある「神の子」という、サファルにはよく分からない存在が生まれてこなくなったか何かで魔物が増えて森にも現れるようになったとも言われているが、サファルにとって商売が絡むならまだしも、宗教的な話はあまり頭に入ってこない。
 とにかくサファルたちが住む村を囲んでいるこのルークの森も他の森と同様、昔はやはり魔物など存在しなかったようだ。だが流れ込んできた魔物の襲撃により、ますます開墾集落は廃れていったのだとサファルは聞いたことがある。そのため、廃墟となった村や町の存在はさほど珍しい訳ではない。そうして元々昔から存在していた町や村が安定していき、ただでさえ人々はあまり森の深くには入らないようになっていった。

「何故そんな場所で?」

 会ってもいいが、開墾集落跡地でと言ってきたカジャックに、サファルは純粋な疑問を投げかけた。その開墾集落跡地はサファルも存在だけは他の跡地同様知っている。もちろん誰も近寄らないのも知っている。跡地は何となく不吉な感じがしてしまうのと、万が一また魔物がやってきたらと思うと皆、近寄るに近寄れないのだ。
 サファルたちが住むラーザの村からそのルークの森の反対側にある廃墟は、多少ではあるが森を横切らないといけない。ルーカスだけならまだしも、リゼを伴うのなら極力避けたかったし、そもそもリゼを跡地に立ち寄らせたくない。

「……他には森の中以外、場所が浮かばない。申し訳ないが、俺は人の集まる場所へは行きたくない。それと……」
「……それと?」
「……、……個人的な要望で申し訳ないが、そこへ行ってみたいんだ。だがひとりでは行きたくなくて」

 待って。
 何それ?

 サファルは顔が熱くなるのが分かった。

 何それ、カジャックが可愛い……!

「……何を顔を赤らめて興奮する必要があるんだ?」
「え、いえ、だって」

 カジャックが可愛い、などと言えばムッとしてしまうだろうか。

「というかあの、何で行ってみたいんですか」
「……」
「あ、言いたくないならいいです」
「……いや、そこはどうだろうかと提案したのは俺だ。なのに言いたくないというのはわがままだな……。……昔、よくジンがそこへ行っていたみたいなんだ。俺がひとりになってからふとそれを思い出して気になってはいたが、何となく俺ひとりでは行きたくなくて……情けないことを言っているのは分かっている。それに、お前の姉さん……じゃなかったな、妹に無理を強いるのもよくないしな。悪かった。そうだな……お前の村に極力近いところまで俺も出向こう。それでも森の中になるし外で立ち話的な感じになるが、それでいいか?」

 珍しくたくさん話してきたカジャックの話に色々言いたいことがありすぎて、何から口にすればいいか分からない。

「ふぁ、あ」
「……落ち着け」

 カジャックが微妙な顔で見てきた。

「お、落ち着いてま……あ、いや、落ち着くよう、さっきみたいなこと、しないんですか?」

 カジャックが腕をサファルの首に回し、顔を近づけてきた、サファルにとってはご褒美でしかない行動を思い出す。

「だってお前、それじゃあ落ち着かないって言ってただろ」

 さっきの俺! 馬鹿!

「人が苦手なカジャックに無理を強いろうとしてるのは俺です。なのに村の近くまで出向かせるのが申し訳なくて……ただここの家も、そりゃ落ち着かないですよね」

 俺はでも家にいていいんですね、他人じゃないってこと? と百回くらいは聞きたいが、グッと飲み込む。

「ジンさんって人が何故そこへよく行っていたかは知らないんですか」
「俺も子どもだったし……聞いていいことかも分からなかった。あと、何の関係もない俺を育ててくれていた人の息抜きなのかもしれないとか、勝手な想像だが思うと聞けなかった」

 カジャックがいじらしい。

 可愛くもあり、そしてジンという人が羨ましすぎてサファルは休戦を忘れた。

 おのれ、ジンという人……!

 ただの八つ当たりの後に、サファルはカジャックを見た。

「あの、確かに俺、リゼをむやみに森の中、歩かせたくないんです。跡地にも立ち寄らせたくない。カジャックは知らないかもですが、基本的に跡地は不吉なものとされてるんです」
「そ、れは知らなかった……すまない……」
「謝らないでください、知らないんだから謝る必要ないです。っていうかちなみに何で先に姉だと浮かんだんですかね。そっちこそ微妙に納得いきません。まぁそれはさておき、なので本当にワガママでしかないんですが、おっしゃって下さったように、少し村に近いところまで……出てきてもらっていいですか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。で、その廃墟とやらには俺と一緒に行きませんか?」

 ニコニコとサファルが言えば、カジャックはポカンと見てきた後に「いいのか?」と睨んできた。いや、睨んでいないのは分かるのだが通常より二割増しくらいで目つきが鋭い。

「い、いいですよ、全然!」

 むしろ俺も気になるし、とサファルはまたニッコリ微笑んだ。
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