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39話
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「全員がそういう考えだった訳ではないはずだ。下手をすると危険思想だ。表立って魔物討伐を謳っていたのではあるまいしな」
カジャックが黙って聞いているとアルゴは更に続けてきた。
「お前も分かるだろう。言いたくはないが、お前は強すぎる魔力のせいで親や村から見捨てられた。お前ほどではないだろうが、自分の魔力をもて余していた者にとっては誰もが強い魔力を持つ町というのはある意味救いだっただろうな。全員が同じ目的ではなかっただろう。だがそんなことを魔物が知るはずもない」
「やはりあの町は魔物に襲われ……」
「そうだ。強すぎる力は魔物たちを引き付けた。一部の者には願ったりだっただろう。一網打尽にしたい相手がわざわざやってきてくれる訳だ。だが、単に平和に暮らしたかった者にしてみれば最悪だっただろうな。普通の魔物くらいは簡単に倒せる者ばかりだっただろう。だが強力な魔物に対し、いくら魔法使いたちばかりとはいえ統制されてもいない者も多くいたのではいずれ力尽きる」
そして滅びたのだとアルゴは語った。
「滅びた?」
「ああ。お前、見てきたのだろう?」
確かに見てきた。廃墟には魔物に襲われた跡としか思えない様子が所々で見てとれた。
だがあの辺りだけでなく、このルークの森には町を滅ぼせるような強い魔物は今存在していない。百年近く前の話だとしても、町を滅ぼした後にそういった強い魔物が自然淘汰され消えるというのは不自然だ。町が壊されようが、町の住民によってその強い魔物は倒されたと考えるのが自然だろう。だがアルゴは滅びたと言う。実際、町は再建されていないし、魔力の強い者が集まる町や村など今は聞いたことがない。商人をしているらしいサファルも知らないように思える。
──ジンさん、町がなくなっても度々訪れて緑を植えてたってことは再建したかったってより供養みたいなもんだったんですかね……町全体の──
サファルの言葉が頭に過る。その際に浮かんだ「ジンの家族も知り合いも誰も彼もが皆全員死んでしまった」という考えは間違っていなかったのだろうか。
カジャックの考えを読んだのか、アルゴはまた更に続けてきた。
「ジンは親の咄嗟の機転で逃がされたらしい。というか、隠されたのだったか。ジンの親は平和主義だったが魔力はとてつもなく強かった。しかしジンを守るため、死んでしまった」
「……」
カジャックには味わえなかった親の愛というものに胸が痛くなる。
「ジンの怒りと悲しみは相当なものだった。当時わずか十歳くらいだったであろうジンは、その強かった魔物を倒すことしか考えていなかった。私とジンはその頃出会った。いや、出会った頃ジンはもう十三くらいにはなっていたか……」
アルゴが少し悲しそうに、だがやはり懐かしそうに目を細める。
「私は当時、ジンが、というよりは人間が今よりももっと嫌いだった。だが私たちは反発しながらも次第に仲良くなった。細かな話まで言うつもりはないが、魔物も何とか一緒に倒した。心に傷を抱えていたジンも明るくなっていった。その後ジンは別のとても小さな村で結婚し、子どもすら授かったんだ……だが──」
その村も滅んだ、とアルゴはため息まじりに呟いた。
別にジンとアルゴが倒した魔物の仲間が襲ってきたという訳ではない。ただ単に、その村が運悪く他の大きな町の犠牲になっただけだった。他所の町の、魔物討伐を目論んだ政策により追い込まれた魔物の犠牲なのだという。小さな村だけに戦える者などほぼいなかった。小さな村だけに、跡地どころか跡形もなくなっていた。そして更に運の悪いことに、ジンはその日、仕事で村を離れていた。いや、本当ならその日に戻っているはずだった。予定が押してしまい、戻るのが遅れた。戻ってきた時には崩壊していた。
「……」
「ジンがここにひっそりひとりで住むようになったのはそれからだ」
ああ、とカジャックは呟いた。先ほどアルゴが言っていたことの意味も分かった。
──小さなお前をジンが拾ったと知った時は何を考えているんだと思ったものだ。だがもしかして乗り越えたからこそかと様子を見ることにした──
痛みや辛さ、悲しみや寂しさを乗り越えていたからこそ、ジンはカジャックを拾ってくれたのだろうか。
カジャックには分からない。だがそういったことは何も関係なく、ただ見つけたから拾ってくれた。それだけのような気もする。
どちらにしても感謝しかない。
そして分かることは、小さな頃は魔物を倒すことしか考えていなかったジンも、カジャックを拾った頃は今のアルゴのように戦いが是だとは思っていなかったということだ。だからカジャックにも魔力を調整させるために鍛えさせつつも、普段は生活するのにすら基本魔力を使わさせず、そしてひたすら知識を与えてくれたのだと思う。
「……最初は話を逸らそうとすらしてたのに、何でそんなにたくさん教えてくれたんだ?」
話を聞いた後、しばらくはお互い黙っていた。カジャックはゆっくりと聞いた話を自分の中で咀嚼していた。
アルゴに聞くと、やはり淡々と答えてきた。
「お前が……俺の大事なジンを知りたいと本当に思っているようだったからだ」
「……そうか。……うん、知れてよかった。ありがとう、アルゴ……」
カジャックが黙って聞いているとアルゴは更に続けてきた。
「お前も分かるだろう。言いたくはないが、お前は強すぎる魔力のせいで親や村から見捨てられた。お前ほどではないだろうが、自分の魔力をもて余していた者にとっては誰もが強い魔力を持つ町というのはある意味救いだっただろうな。全員が同じ目的ではなかっただろう。だがそんなことを魔物が知るはずもない」
「やはりあの町は魔物に襲われ……」
「そうだ。強すぎる力は魔物たちを引き付けた。一部の者には願ったりだっただろう。一網打尽にしたい相手がわざわざやってきてくれる訳だ。だが、単に平和に暮らしたかった者にしてみれば最悪だっただろうな。普通の魔物くらいは簡単に倒せる者ばかりだっただろう。だが強力な魔物に対し、いくら魔法使いたちばかりとはいえ統制されてもいない者も多くいたのではいずれ力尽きる」
そして滅びたのだとアルゴは語った。
「滅びた?」
「ああ。お前、見てきたのだろう?」
確かに見てきた。廃墟には魔物に襲われた跡としか思えない様子が所々で見てとれた。
だがあの辺りだけでなく、このルークの森には町を滅ぼせるような強い魔物は今存在していない。百年近く前の話だとしても、町を滅ぼした後にそういった強い魔物が自然淘汰され消えるというのは不自然だ。町が壊されようが、町の住民によってその強い魔物は倒されたと考えるのが自然だろう。だがアルゴは滅びたと言う。実際、町は再建されていないし、魔力の強い者が集まる町や村など今は聞いたことがない。商人をしているらしいサファルも知らないように思える。
──ジンさん、町がなくなっても度々訪れて緑を植えてたってことは再建したかったってより供養みたいなもんだったんですかね……町全体の──
サファルの言葉が頭に過る。その際に浮かんだ「ジンの家族も知り合いも誰も彼もが皆全員死んでしまった」という考えは間違っていなかったのだろうか。
カジャックの考えを読んだのか、アルゴはまた更に続けてきた。
「ジンは親の咄嗟の機転で逃がされたらしい。というか、隠されたのだったか。ジンの親は平和主義だったが魔力はとてつもなく強かった。しかしジンを守るため、死んでしまった」
「……」
カジャックには味わえなかった親の愛というものに胸が痛くなる。
「ジンの怒りと悲しみは相当なものだった。当時わずか十歳くらいだったであろうジンは、その強かった魔物を倒すことしか考えていなかった。私とジンはその頃出会った。いや、出会った頃ジンはもう十三くらいにはなっていたか……」
アルゴが少し悲しそうに、だがやはり懐かしそうに目を細める。
「私は当時、ジンが、というよりは人間が今よりももっと嫌いだった。だが私たちは反発しながらも次第に仲良くなった。細かな話まで言うつもりはないが、魔物も何とか一緒に倒した。心に傷を抱えていたジンも明るくなっていった。その後ジンは別のとても小さな村で結婚し、子どもすら授かったんだ……だが──」
その村も滅んだ、とアルゴはため息まじりに呟いた。
別にジンとアルゴが倒した魔物の仲間が襲ってきたという訳ではない。ただ単に、その村が運悪く他の大きな町の犠牲になっただけだった。他所の町の、魔物討伐を目論んだ政策により追い込まれた魔物の犠牲なのだという。小さな村だけに戦える者などほぼいなかった。小さな村だけに、跡地どころか跡形もなくなっていた。そして更に運の悪いことに、ジンはその日、仕事で村を離れていた。いや、本当ならその日に戻っているはずだった。予定が押してしまい、戻るのが遅れた。戻ってきた時には崩壊していた。
「……」
「ジンがここにひっそりひとりで住むようになったのはそれからだ」
ああ、とカジャックは呟いた。先ほどアルゴが言っていたことの意味も分かった。
──小さなお前をジンが拾ったと知った時は何を考えているんだと思ったものだ。だがもしかして乗り越えたからこそかと様子を見ることにした──
痛みや辛さ、悲しみや寂しさを乗り越えていたからこそ、ジンはカジャックを拾ってくれたのだろうか。
カジャックには分からない。だがそういったことは何も関係なく、ただ見つけたから拾ってくれた。それだけのような気もする。
どちらにしても感謝しかない。
そして分かることは、小さな頃は魔物を倒すことしか考えていなかったジンも、カジャックを拾った頃は今のアルゴのように戦いが是だとは思っていなかったということだ。だからカジャックにも魔力を調整させるために鍛えさせつつも、普段は生活するのにすら基本魔力を使わさせず、そしてひたすら知識を与えてくれたのだと思う。
「……最初は話を逸らそうとすらしてたのに、何でそんなにたくさん教えてくれたんだ?」
話を聞いた後、しばらくはお互い黙っていた。カジャックはゆっくりと聞いた話を自分の中で咀嚼していた。
アルゴに聞くと、やはり淡々と答えてきた。
「お前が……俺の大事なジンを知りたいと本当に思っているようだったからだ」
「……そうか。……うん、知れてよかった。ありがとう、アルゴ……」
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