銀色の魔物

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41話

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 アルゴがどのくらい滞在するかを聞いていなかったサファルは、念のためなるべく日を空けてからカジャックのところへ向かった。
 その間は仕事に精を出した。いつもより売り上げもよかったので、幸先のいい夏を過ごせそうだ。夏から秋にかけてもしっかり稼ぎ、冬の備えに勤しみたい。
 そんなことを向かっている途中に考え、腕を上げて普段から肌身離さずつけているブレスレットにキスをした。
親の形見であるこのブレスレットはリゼと揃いで、赤と茶の色をした革を編んで作られたものだ。青い石が編み込まれているが、何の石かは知らない。宗教心のないサファルの、ある意味信仰している物になるのだろうか。お守りだ。時折思い出したようにキスをしては両親に対してなのかブレスレットそのものに対してなのかもはやわからずに、願いを込めたり祈ったりしている。今まで外したことはない。
 だが、初めてそのブレスレットを外しておけばよかったと、カジャックの家の前に来て今、心底思っていた。

「これは一体どうやって手に入れた」

 家が見えてきて、浮き足だっていたサファルの前に突然現れたのがアルゴだった。家から出てきたことすら気づかなかった。
 というか、まだいたのっ? とサファルがストレートに驚いていると「ようやく来たのか。待ちくたびれたぞ」と、どう見ても忌々しそうに言われた。だがその後にじっとサファルを見てからアルゴまで驚いた顔をしてくる。何だろうと思っていると、突然とてつもなく近くまで寄ってきて「お前は誰なのだ」と言われた。

「サ、サファルです……この間、カジャックと一緒にいた……」
「そんなことは聞いていない。というか私を痴呆のように扱うな。それくらい覚えておるわ!」
「でも、じゃあ……」
「お前の気配……」
「は?」

 それこそ一体何なのだとサファルがドキドキしながら混乱していると、今度は腕を凄い勢いで捕まれた。そして聞かれたのだ。これはどうやって手に入れたのかと。
 そのまま捻り潰されそうな勢いに、サファルは怯えを通り越して警戒心が湧いてきた。何とか腕を離させ逃げたほうがいいのだろうかと思った。
 このブレスレット自体には多分大して価値はない。いや、幸運を呼ぶとも言われている珍しい革で出来ているので、多少の価値はあるかもしれないが。ただサファルやリゼにとっては自分の命のように大切なものだ。
 とはいえ、アルゴはカジャックの身内に近い存在だ。カジャックも受け入れてそうだった。そんな相手が妙なことをするはずもないとも思う。

「さ、さっきから何なのですか……挨拶もなしにいきなり……」

 エルフに対して無条件で畏怖さえ感じてしまっているが、何とか勇気を振り絞って言えば、アルゴは威圧的な眼差しではあるが手を離してきた。少しホッとしているとアルゴが「……中へ入れ」と渋々言ってくる。

 というか、あんたの家じゃないよね?

 まさか一緒に住むことにしたのかとサファルが内心またドキドキしていると、さっさと入れとまた言われてしまった。
 家の中にカジャックはいなかった。誰が見てもがっかりしているのが分かる様子でいたようで、少し笑われた。

 エルフも笑うんだ……。

「子どもというより犬か」
「……えぇ?」
「とりあえず座れ。この私がじきじきに飲み物を入れてやる」

 恐らく親切で言ってくれているのだろう。いちいち偉そうだなと内心苦笑しつつもサファルは言われた通りにした。
 出てきたものを飲むと酒だった。

「もう酒ですか」
「構わんだろう。さて、では質問に答えてもらうぞ」
「……その前に、カジャックは?」
「あやつは今、狩りに出ている。日課なのだろう」
「あの……アルゴさんはここへ住むことに……したんですか?」
「住まぬ」
「で、でもずっといらっしゃいますよね」
「お前を待っていたのだ、たわけが」

 たわけ。

 サファルが微妙な気持ちでいると、「で、その腕輪はどうしたのだ」とまた聞かれた。

「……親の形見です」
「形見? ではお前の親はもういないのか」
「はい」
「親はその腕輪をどうしたと?」

 何故そんなに気にしてくるのだろうと疑問に思いながらも、腕をつかまれてブレスレットを奪取されそうな勢いよりはいいかとサファルは答えた。

「はっきり分かりませんが、やはり親の形見だと……」
「……。それは二つなかったか?」
「えっ? 何で……はい」
「……うむ」

 アルゴがどこか納得したような顔をした。

「えっと、もうひとつは妹が持ってます」
「妹? 妹だと? 妹がいるのか」
「は、はい……」
「お前に似ているのか?」
「は? まぁ、そう言われます、けど……」

 言わないほうがよかったのだろうか。サファルはリゼが心配になった。だが次の言葉で青くなる。

「だとしたら……カジャックにはこやつの妹を嫁に……」
「は、はあっ? な、何言ってんですか! 駄目、絶対駄目です!」
「何故だ。お前もカジャックと親しいなら分かるだろう。カジャックはいい男だと」

 苦しいほど分かってるよ……!

「リ、リゼは好きな人がいるんです。俺はリゼにはその人と幸せになってもらいたい。それに……」
「何だ」

 ちらりとアルゴを見るも、相変わらず尊大な雰囲気しかないようなエルフだ。そしてただでさえ相手の身内みたいな存在にはっきり言うのは緊張する上にその相手は生産性を求めすぎ案件なのだ。勇気がいるなんてものではなかった。

「そ、それっ、それ、に」
「……」

 しかも、どうにも駄目なやつだと思われてそうな気がサファルにはしていた。だが今言わなければ、と本気で勇気を奮い立たせる。

「それに、俺! カジャックが好きなんです! すみません、俺、女じゃないけど、でもカジャックが好きなんです。だから妹は駄目です……!」
「ほぉ……?」

 やっぱり怖い……!

 少し泣きそうな気持ちになっていると、サファルはアルゴに肩をやんわりとつかまれた。

「……?」
「分かった。ではサファル。お前、女にならないか?」
「は、はい?」
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