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43話
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ふわりと温かそうな笑みを、サファルはまじまじと見た。
確かに最近はカジャックなりに色んな表情を見せてくれるようになったなあとはたまに思っていた。基本的に感情表現が豊かでない、その上目付きの悪いカジャックは大抵真顔に近い。それだけにサファルとしてはカジャックが自分に少しでも笑みを向けてくれるのは嬉しくてならなかった。
だが今の笑みは最近たまに見せてくれるようになった笑みよりも更に希少な感じがした。
「カジャック? あの、どうしたんですか」
普段は笑いかけてくれるのが嬉しくてならないとはいえ、それを指摘すればむしろ見せてくれなくなるような気がして、こっそり楽しんでいた。だがさすがに今の笑みは聞かずにはいられなかった。
「何が?」
「いや、その……今、凄く優しそうに笑って──あ、いえ! カジャックはいつだって優しいんですけどねっ? そうじゃなくてその、でもその、そんなに笑ったりは普段、その、あんまり……」
笑っていなくてもカジャックの優しさは十二分に知っているし、普段の無表情に近い顔だって大好きだ。文句は全くない。だが口に出して指摘しようとすると、まるで自分がカジャックに対してダメ出しや文句を言っている風にならないかとサファルは慌てた。
「何を慌てている?」
「え、いやだって……」
カジャックが今度はおかしそうに小さく笑った。先ほどアルゴに対して頑張ったご褒美をたくさん貰っているような気分に、サファルこそ幸せな笑みを浮かべる。
「お前はよく優しそう、というか幸せそうな笑みを浮かべているな」
「俺? ああうん、俺は何か顔に出やすいってよく言われるかも」
「サファル」
不意にカジャックが真顔になった。そしてサファルに近づいてきた。
……近い。めっちゃ近い!
サファルがいくら好きだと言おうが、男同士の恋愛に全く興味がないらしいカジャックは流してくる。だがその上でいつもは絶妙な距離を取られていたのかもしれないと、ここに来て初めて気づいた。たまに頭を撫でられたり軽い抱擁をされたりはしたが、今のような妙に気になる近さになったことはない。
流しつつも、サファルの気持ちをむしろ受け止めてくれていたからこそ、距離を上手く取ってくれていたのだろうか。
これ以上ないくらい好きだったけど、まだ好きの上限あった……! というか待ってほんと近い……!
ここに来て意識したのは近さのせいだ。今までカジャックがこんなに近づいてくれたことはなかった気がする。ふわりとカジャックの匂いを感じる。いつもは軽率なくらいに好き好きと言っているが、ここまで近いと意識し過ぎて言えない。
この近さだけで俺、めちゃくちゃ興奮出来る……。
「あ、あの……、カジャック? ほ、ほんとどうしたんですか……」
とはいえ「近いんで退いてください」なんて言えない。間近にカジャックを感じるのは最高だし嬉しいのだ。ただ興奮し過ぎて自分がおかしな言動を取りそうで怖いため、少し離れて欲しいと思ってしまう。思ってしまうが、本心ではそばにいて欲しいので言えない。
あとはただ純粋に、カジャックに対してほんの少しでも拒絶するような言葉をかけたくないので言えなかった。
「……サファル。多分俺はお前が好きなのだと思う」
「え、っと。知ってますよ! 俺の好きと違ってても嬉しいです」
あはは、と笑った後にやはり真顔のままのカジャックを見て、サファルは自分の笑みが消えていくのを感じた。
あれ……?
いやでもカジャックだろ。目の前にいるのはカジャックなんだぞ。カジャックなんだ。
カジャックが──例えアルゴに植え付けられたのだとしても──生産性のない恋愛は意味がないと思っているカジャックが、そういう意味で言うはずがない。
でも──
「……あの、カジャック……?」
「ああ、うん。戸惑われても仕方ない。俺自身、自分のことなのに見えてなかったし戸惑った」
「え、じゃ、じゃあ……?」
「お前と同じ意味で好きだ。多分」
「……っ」
え、待ってくれ。
待って、処理能力が追い付いていない。
すきってなんだっけ?
すき、すき……す、き……?
す、好き……?
あれ?
え?
本当に?
え?
だって?
え?
「嘘っ?」
「いや……嘘を吐いても仕方がないだろう」
動揺しかしていないサファルに対し、言った本人は至って冷静だ。サファルはますます混乱しそうだった。
それこそ仕方がないだろう。あのカジャックなのだ。あのカジャックが「好き」だ、と──
……つか多分ってなんだ。
いや、今は「多分」は流そう。「多分」は。まずは「好き」であり……いやでも多分って。
その後しばらくは無言になったり、ひたすら押し問答のようなやり取りを続けたりしてしまった。
「……どれほど俺は信用されてないんだ」
「いや、だって……というか信用云々じゃないです」
「だって好きという言葉が信じられないからそんななのだろう」
違う。
いやでもそうなのか?
「多分、とつけてしまったからか?」
それもある。かもしれないし、ないかもしれない。あのカジャックが「好き」と思い言うことに対し、ただ単純に受け止められていないだけの気もする。
「本当に自分の中でもピンときたばかりなんだ。だからこそお前はなおさら信じられないのかもしれないが……、とにかく俺自身気づいたばかりだから多分とつけた。気持ちに偽りがある訳ではない」
「そんな……偽りだなんて思いもしてません。ただ驚いて……」
だってあのカジャックが?
カジャックが。
カジャックが、好き、と……?
「ひぃ……」
思わず変な声が漏れた。
確かに最近はカジャックなりに色んな表情を見せてくれるようになったなあとはたまに思っていた。基本的に感情表現が豊かでない、その上目付きの悪いカジャックは大抵真顔に近い。それだけにサファルとしてはカジャックが自分に少しでも笑みを向けてくれるのは嬉しくてならなかった。
だが今の笑みは最近たまに見せてくれるようになった笑みよりも更に希少な感じがした。
「カジャック? あの、どうしたんですか」
普段は笑いかけてくれるのが嬉しくてならないとはいえ、それを指摘すればむしろ見せてくれなくなるような気がして、こっそり楽しんでいた。だがさすがに今の笑みは聞かずにはいられなかった。
「何が?」
「いや、その……今、凄く優しそうに笑って──あ、いえ! カジャックはいつだって優しいんですけどねっ? そうじゃなくてその、でもその、そんなに笑ったりは普段、その、あんまり……」
笑っていなくてもカジャックの優しさは十二分に知っているし、普段の無表情に近い顔だって大好きだ。文句は全くない。だが口に出して指摘しようとすると、まるで自分がカジャックに対してダメ出しや文句を言っている風にならないかとサファルは慌てた。
「何を慌てている?」
「え、いやだって……」
カジャックが今度はおかしそうに小さく笑った。先ほどアルゴに対して頑張ったご褒美をたくさん貰っているような気分に、サファルこそ幸せな笑みを浮かべる。
「お前はよく優しそう、というか幸せそうな笑みを浮かべているな」
「俺? ああうん、俺は何か顔に出やすいってよく言われるかも」
「サファル」
不意にカジャックが真顔になった。そしてサファルに近づいてきた。
……近い。めっちゃ近い!
サファルがいくら好きだと言おうが、男同士の恋愛に全く興味がないらしいカジャックは流してくる。だがその上でいつもは絶妙な距離を取られていたのかもしれないと、ここに来て初めて気づいた。たまに頭を撫でられたり軽い抱擁をされたりはしたが、今のような妙に気になる近さになったことはない。
流しつつも、サファルの気持ちをむしろ受け止めてくれていたからこそ、距離を上手く取ってくれていたのだろうか。
これ以上ないくらい好きだったけど、まだ好きの上限あった……! というか待ってほんと近い……!
ここに来て意識したのは近さのせいだ。今までカジャックがこんなに近づいてくれたことはなかった気がする。ふわりとカジャックの匂いを感じる。いつもは軽率なくらいに好き好きと言っているが、ここまで近いと意識し過ぎて言えない。
この近さだけで俺、めちゃくちゃ興奮出来る……。
「あ、あの……、カジャック? ほ、ほんとどうしたんですか……」
とはいえ「近いんで退いてください」なんて言えない。間近にカジャックを感じるのは最高だし嬉しいのだ。ただ興奮し過ぎて自分がおかしな言動を取りそうで怖いため、少し離れて欲しいと思ってしまう。思ってしまうが、本心ではそばにいて欲しいので言えない。
あとはただ純粋に、カジャックに対してほんの少しでも拒絶するような言葉をかけたくないので言えなかった。
「……サファル。多分俺はお前が好きなのだと思う」
「え、っと。知ってますよ! 俺の好きと違ってても嬉しいです」
あはは、と笑った後にやはり真顔のままのカジャックを見て、サファルは自分の笑みが消えていくのを感じた。
あれ……?
いやでもカジャックだろ。目の前にいるのはカジャックなんだぞ。カジャックなんだ。
カジャックが──例えアルゴに植え付けられたのだとしても──生産性のない恋愛は意味がないと思っているカジャックが、そういう意味で言うはずがない。
でも──
「……あの、カジャック……?」
「ああ、うん。戸惑われても仕方ない。俺自身、自分のことなのに見えてなかったし戸惑った」
「え、じゃ、じゃあ……?」
「お前と同じ意味で好きだ。多分」
「……っ」
え、待ってくれ。
待って、処理能力が追い付いていない。
すきってなんだっけ?
すき、すき……す、き……?
す、好き……?
あれ?
え?
本当に?
え?
だって?
え?
「嘘っ?」
「いや……嘘を吐いても仕方がないだろう」
動揺しかしていないサファルに対し、言った本人は至って冷静だ。サファルはますます混乱しそうだった。
それこそ仕方がないだろう。あのカジャックなのだ。あのカジャックが「好き」だ、と──
……つか多分ってなんだ。
いや、今は「多分」は流そう。「多分」は。まずは「好き」であり……いやでも多分って。
その後しばらくは無言になったり、ひたすら押し問答のようなやり取りを続けたりしてしまった。
「……どれほど俺は信用されてないんだ」
「いや、だって……というか信用云々じゃないです」
「だって好きという言葉が信じられないからそんななのだろう」
違う。
いやでもそうなのか?
「多分、とつけてしまったからか?」
それもある。かもしれないし、ないかもしれない。あのカジャックが「好き」と思い言うことに対し、ただ単純に受け止められていないだけの気もする。
「本当に自分の中でもピンときたばかりなんだ。だからこそお前はなおさら信じられないのかもしれないが……、とにかく俺自身気づいたばかりだから多分とつけた。気持ちに偽りがある訳ではない」
「そんな……偽りだなんて思いもしてません。ただ驚いて……」
だってあのカジャックが?
カジャックが。
カジャックが、好き、と……?
「ひぃ……」
思わず変な声が漏れた。
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