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44話
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夜、アルゴは食事の後に「別件のことだが」と話し始めた。
「サファル……あやつは私の作った腕輪を持っていた」
「アルゴが作った? いつアクセサリー屋なんて始めてたんだ」
「は? 違う! 私がそんなことするはずがないだろう」
「あんたの魔力を込めたアクセサリーなら売れるのは間違いないと思うけどな」
「当然だ。……いや、だからやらんと言っているだろう。何故この私が知らぬ誰かのためにわざわざ装飾品などを作らねばならん。……いや、だが昔……一度だけ、作ったのだ」
ムッとした顔をした後にアルゴは真顔になってカジャックを見てきた。
「ジンと……ジンが迎えた嫁への祝いに」
赤と茶の色をした革はこのクエンティ国でのみ見られる、運気が上がると言われているクエンティサーペントという魔物の皮を使っていた。アルゴからすれば雑魚でしかない魔物だが、一般的な人間にとっては中々倒せない魔物であるため、どこでも見られる革の加工品ではない。そして何より他にないのは一緒に編み込まれている青い魔法石だ。
「あれは私がじきじきに魔力を込めたものだ。間違いない」
「似ているだけとかではないのか」
「私が精魂込めた魔法石なのだぞ。分からぬはずがないだろう」
魔除けの効力だけでなく、大きすぎるジンの魔力を思い、アルゴはその石に魔力制御の力を込めてあった。
ジンの結婚相手の魔力は普通だったのもあり、そちらの分には制御よりも御守りとしての効力を高めたものにした。
「そのうち無事元気に生まれたジンの子は、ジンのように魔力が強かった。既にいくらでも制御出来るようになっていたジンに対して子どもはまだ制御がままならない。だからジンは我が子へ腕輪を譲ったんだ」
その後、ジンが築いた家族が住む村は滅びてしまった。村の住民は誰も生き残りはいないと言われていた。
「……私の込めた魔力が……効力を発しなかった訳だ……」
アルゴの声が少しだけ掠れた。カジャックは何も言わず、ハチミツ酒を入れたコップを手に取る。
「なぁ、だがカジャック。その私が作った腕輪を、あの子どもが持っている。これはどういうことだと思う?」
少しして問いかけてきたアルゴの口調は既にいつものように冷静だった。カジャックはアルゴに顔を向け「ブレスレットは無事で、誰かに拾われその後最終的にサファルの手に渡ったとかでは」と言ってみる。
「サファルが言うには親の形見だけでなく、その親も親から譲られたものなのらしい」
「親の親……」
「もしジンの子どもが生きていたと仮定すればサファルくらいの孫がいてもおかしくはない」
「でも、村の住民は全滅だったのだろう……?」
「完全に確認出来ていた訳ではない。そもそも確認しようにも村そのものが無くなっていたのだ」
だったらやはり、と言いかけてカジャックは口を閉じた。その場を見ていたのではない。壊滅させられる前に何とか逃げ果せた可能性は無くはない。
「その上、あのような美しい瞳の色はそう無い」
サファルの瞳を思い返し、真顔だったカジャックはほんの少し口元を緩めた。
サファルの瞳の色は確かに綺麗だ。初めて見た時カジャックも思った。だがアルゴの物言いはさすがに少々大げさに思える。
……かなり主張に偏りを見せているぞ、アルゴ。
普段人を褒めることなどないアルゴが、どれほどジンを大切に思っているのかとカジャックは小さく笑った。
「聞いているのか?」
「……ああ、聞いている。ではアルゴはサファルがジンのひ孫だと言うのだな」
「そうだ。だいたい、ジンの家だからといって、この私が相手の気配を感じられないというのがおかしかった」
どういう意味だと聞こうとして、カジャックは思い出す。
「ああ。ここはジンの家だからな。意識していないとどうしても気配が混じってしまう」
「俺やサファルとジンが混じるはずないだろう」
そんな話をしていたのを。
あの時アルゴは真顔のまま少し無言になっていた。
「……なるほど。ジンの身内だけに、気配が似ていたということか」
「そうだ」
「……で?」
「で、とは何だ」
「ひ孫だとして、ならあんたはどうしたいんだ?」
本人に言うでもなくカジャックに打ち明けてきた。むしろ本人には今のところあえて隠しているようなものだ。
「……分からぬ」
「は?」
「どうこうしたい、という強い気持ちはない。むしろ私はどうしていいか分からないのだ」
「アルゴ……」
あの尊大ですらあるアルゴが本気で戸惑っている。カジャックは内心驚いた。
「ジンのひ孫なら可愛がりたい。だがそうとも知らずに既に素っ気ない態度をしてしまっている」
「別に今からでも可愛がるといいだろ」
「……そうなのだが……私にも矜持がある」
「そんなのは矜持とは言わないと思うぞ……アルゴ」
呆れたようにカジャックが苦笑すると、アルゴはムッとした顔を見せてきた。
「とにかく、普通に接したらいいんじゃないのか。打ち明ける打ち明けないはさておき」
「……そうだな。よし、ではとりあえずサファルを女にすべく……」
「……いや……そこはおかしいだろう……?」
「何を言う。大事なところだろう。お前、自分がサファルを好きだと気づいたのだろう?」
確かに気づいたし本人にも打ち明けた。
動揺しまくっていたサファルを思い出し、カジャックは少し微笑んだ後にアルゴに向かってため息を吐いた。
「本人にも告げた。だから何だ」
「なら尚更ではないか。考えてもみろ。ジンが育てた子と、本当のひ孫だぞ? その二人から生まれるであろう子孫を思うと私は楽しみでならない。お前は私を楽しませる気がないのか」
そういう問題ではない。
カジャックはもう一度ため息を吐いた。
「サファル……あやつは私の作った腕輪を持っていた」
「アルゴが作った? いつアクセサリー屋なんて始めてたんだ」
「は? 違う! 私がそんなことするはずがないだろう」
「あんたの魔力を込めたアクセサリーなら売れるのは間違いないと思うけどな」
「当然だ。……いや、だからやらんと言っているだろう。何故この私が知らぬ誰かのためにわざわざ装飾品などを作らねばならん。……いや、だが昔……一度だけ、作ったのだ」
ムッとした顔をした後にアルゴは真顔になってカジャックを見てきた。
「ジンと……ジンが迎えた嫁への祝いに」
赤と茶の色をした革はこのクエンティ国でのみ見られる、運気が上がると言われているクエンティサーペントという魔物の皮を使っていた。アルゴからすれば雑魚でしかない魔物だが、一般的な人間にとっては中々倒せない魔物であるため、どこでも見られる革の加工品ではない。そして何より他にないのは一緒に編み込まれている青い魔法石だ。
「あれは私がじきじきに魔力を込めたものだ。間違いない」
「似ているだけとかではないのか」
「私が精魂込めた魔法石なのだぞ。分からぬはずがないだろう」
魔除けの効力だけでなく、大きすぎるジンの魔力を思い、アルゴはその石に魔力制御の力を込めてあった。
ジンの結婚相手の魔力は普通だったのもあり、そちらの分には制御よりも御守りとしての効力を高めたものにした。
「そのうち無事元気に生まれたジンの子は、ジンのように魔力が強かった。既にいくらでも制御出来るようになっていたジンに対して子どもはまだ制御がままならない。だからジンは我が子へ腕輪を譲ったんだ」
その後、ジンが築いた家族が住む村は滅びてしまった。村の住民は誰も生き残りはいないと言われていた。
「……私の込めた魔力が……効力を発しなかった訳だ……」
アルゴの声が少しだけ掠れた。カジャックは何も言わず、ハチミツ酒を入れたコップを手に取る。
「なぁ、だがカジャック。その私が作った腕輪を、あの子どもが持っている。これはどういうことだと思う?」
少しして問いかけてきたアルゴの口調は既にいつものように冷静だった。カジャックはアルゴに顔を向け「ブレスレットは無事で、誰かに拾われその後最終的にサファルの手に渡ったとかでは」と言ってみる。
「サファルが言うには親の形見だけでなく、その親も親から譲られたものなのらしい」
「親の親……」
「もしジンの子どもが生きていたと仮定すればサファルくらいの孫がいてもおかしくはない」
「でも、村の住民は全滅だったのだろう……?」
「完全に確認出来ていた訳ではない。そもそも確認しようにも村そのものが無くなっていたのだ」
だったらやはり、と言いかけてカジャックは口を閉じた。その場を見ていたのではない。壊滅させられる前に何とか逃げ果せた可能性は無くはない。
「その上、あのような美しい瞳の色はそう無い」
サファルの瞳を思い返し、真顔だったカジャックはほんの少し口元を緩めた。
サファルの瞳の色は確かに綺麗だ。初めて見た時カジャックも思った。だがアルゴの物言いはさすがに少々大げさに思える。
……かなり主張に偏りを見せているぞ、アルゴ。
普段人を褒めることなどないアルゴが、どれほどジンを大切に思っているのかとカジャックは小さく笑った。
「聞いているのか?」
「……ああ、聞いている。ではアルゴはサファルがジンのひ孫だと言うのだな」
「そうだ。だいたい、ジンの家だからといって、この私が相手の気配を感じられないというのがおかしかった」
どういう意味だと聞こうとして、カジャックは思い出す。
「ああ。ここはジンの家だからな。意識していないとどうしても気配が混じってしまう」
「俺やサファルとジンが混じるはずないだろう」
そんな話をしていたのを。
あの時アルゴは真顔のまま少し無言になっていた。
「……なるほど。ジンの身内だけに、気配が似ていたということか」
「そうだ」
「……で?」
「で、とは何だ」
「ひ孫だとして、ならあんたはどうしたいんだ?」
本人に言うでもなくカジャックに打ち明けてきた。むしろ本人には今のところあえて隠しているようなものだ。
「……分からぬ」
「は?」
「どうこうしたい、という強い気持ちはない。むしろ私はどうしていいか分からないのだ」
「アルゴ……」
あの尊大ですらあるアルゴが本気で戸惑っている。カジャックは内心驚いた。
「ジンのひ孫なら可愛がりたい。だがそうとも知らずに既に素っ気ない態度をしてしまっている」
「別に今からでも可愛がるといいだろ」
「……そうなのだが……私にも矜持がある」
「そんなのは矜持とは言わないと思うぞ……アルゴ」
呆れたようにカジャックが苦笑すると、アルゴはムッとした顔を見せてきた。
「とにかく、普通に接したらいいんじゃないのか。打ち明ける打ち明けないはさておき」
「……そうだな。よし、ではとりあえずサファルを女にすべく……」
「……いや……そこはおかしいだろう……?」
「何を言う。大事なところだろう。お前、自分がサファルを好きだと気づいたのだろう?」
確かに気づいたし本人にも打ち明けた。
動揺しまくっていたサファルを思い出し、カジャックは少し微笑んだ後にアルゴに向かってため息を吐いた。
「本人にも告げた。だから何だ」
「なら尚更ではないか。考えてもみろ。ジンが育てた子と、本当のひ孫だぞ? その二人から生まれるであろう子孫を思うと私は楽しみでならない。お前は私を楽しませる気がないのか」
そういう問題ではない。
カジャックはもう一度ため息を吐いた。
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