銀色の魔物

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56話

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 朝、まだ涼しい内なのもあり、狩りに出掛けて早々にカジャックは獲物に出会った。こちらが何もしていなくとも容赦なく危害を加えようとしてくるタイプの獣だ。同じ森の中でも場所によって生息している生物は全然違うのでカジャックも目的に応じて移動している。
 すかさずナイフを腰から抜いた。初めてサファルと出会った時は咄嗟だったので魔法を使ったが、魔法は極力使うつもりはないので、普段は小さなナイフ一本で済ませている。
 向かってくる獣に対し一旦かわした後攻撃した。ふわりと避けた体を返し、食道を傷つけないように頸動脈を狙う。食道を避けるのは後で処理をする際に内容物が出てこないようにするためだ。切り口をなるべく広げず喉の下の方は避ける。また、切るのではなく刺す場合は万が一獣が暴れてしまいナイフの柄が折れる可能性もあるため、すぐに抜く。

 ──中々いい肉が手に入ったし、サファルが喜ぶだろうな。干し肉にする以外も日持ちさせるよう加工しておくか。

 カジャック自体は肉より魚や茸、野菜が好きだ。しかしサファルが好きなら肉料理もたまならいい。
 毎日はごめんだけどな。
 仕事はしっかりしているらしく、サファルはさほど頻繁に来る訳ではない。今日も来るかどうか分からないし、次に来るまでに日が開くこともある。
 それに関しては何も思わない。むしろきちんと仕事をこなし日々の生活を大切にするサファルをカジャックは好きだと思っている。ただ、培ってきたサファルの考えや行動にいささか心配はあるので、そこだけはどうしても多少なりとも気になってしまう。
 恋愛に積極的そうな印象だったが、ああも本人に自覚がないとはと、仕留めた獲物を持ち帰りながらカジャックは小さくため息を吐いた。恋愛どころか人間に対しての免疫すらないカジャックですらサファルが危ういことくらい分かる。
 サファルのことをそういう対象として考えていなかった頃はアルゴの隠れた陰謀のせいもあってカジャックも何も思っていなかった。サファルとはまた違うが、まさか男が男に対して性的な警戒をするなどと思いもよらなかったとでも言うのだろうか。
 とはいえサファルを自分も好きになったところで別に男という生き物に対して今後も性的な目で見ることはないとは思う。アルゴやルーカスを見て「可愛いな」とは頭をぶつけても思えそうにない。愛しいという気持ちになるのは男女関係なくサファルに対してだけなのでその辺は何とも例えようがないが、少なくともリゼを見ていたら「可愛い」と思うことは出来る。よって、サファルを好きになったものの恐らくカジャックの性癖としては今でも基本的な対象はやはり女なのだと思う。
 そんなカジャックですらわかることを何故サファルが分からないのかがわからないのだが、だからといって強制的にどうこうするものでもない。出来れば理解して欲しいので今後もことあるごとにやんわりと説教する羽目になりそうだが、無理やり暴力を振るうなどして押し付けたくはない。
 それでも心配なものは心配だ。
 明るくて人懐こい優しいサファルが今こうしている時も自覚なく誰かを惹き付けているかもしれない。それだけならまだしも、その誰かがもし実力行使に出たらと思うと気は楽ではない。ルーカスの話を聞いてしまって以来、実際にそういう男がいるのだとカジャックは知ってしまった。
 もちろんサファルも男だ。容易に黙って襲われるということはさすがにないとは思う。運動神経も悪くない。本人曰く、体術も一応出来るらしい。 
 だが力は呆れるほどにない。確かに華奢な体つきではあるが、それこそ女とは違う。筋肉だって一応あるのだ、それなりに力もありそうなものなのだが、下手をすれば格闘術に優れた女のほうが力があるとカジャックは思う。実際、史実関連の本でも読んだことがある。強い人は男女関わらず強い。
 以前、サファルが薪を割ろうとしてくれたことがあった。カジャックを手伝おうとしてくれたことは嬉しいと思う。だが斧を持つ手はおぼつかなかった。やり慣れていないのもあるだろうが、あまりに危なっかしい様子に、カジャックはすぐ斧を取り上げていた。
 あんな様子を見ている限り、屈強とまでもいかない相手にすら力では勝てそうにないのではないだろうかとカジャックは思ってしまう。

 ……世間をちゃんと知らない分、俺は余計心配になってしまうのかもしれないけれども。

 そういえば、サファルはむしろ魔術師のようだとも何となく思う。カジャック自身は魔力が相当強いものの、昔から意図して鍛えてきているのもあり、腕力などにも自信がある。だが一般的に魔力が強い者はそちらに力が寄るためか、体の力は弱い者が多いものだと本で読んだことがある。
 サファルからは魔力が弱いどころか全く使えないと聞いている。だがアルゴの話がサファルに間違いなければ、それは腕輪のせいかもしれない。
 リゼは多少魔力が使えるらしい。それもアルゴの話と一致する。アルゴはジンに合わせて片方に魔力を制御する力を込めてあると言っていた。
 だからサファルだけ全く使えないのだとしたら?

 ──いやいや、考えが逸れた。

 カジャックは肉の処理をしながら首を小さく振った。魔力も気になるが、それはまたおいおい確認してみよう。それよりもサファルの無防備さを少しでもどうにかしたい。
 やはり自分が実際サファルを襲ってみたらサファルも実感し、理解するのではないだろうか。
 そう思ってみたが、すぐに「いや、ないな」と否定した。何だろうか、むしろ喜ばれそうな気がする。
 カジャックはそっと苦笑した。
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