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59話
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商売をしていると、サファルであっても困ったことに遭遇することはある。
今では慣れたクラフォンの町でも、最初は見知らぬ場所で戸惑いつつ商売をしようとしている子どもでしかなかっただろうし、それに託つけて暴利を貪ろうとする者もいれば騙しとろうとする者、それこそ性的な暴力を加えようと企む者もいたと思う。
言っておくがカジャックやルーカスたちに無防備だと謗られるが、サファルも見知らぬ相手にはさすがに警戒くらいする。あと見た目に反してサファルの頭はそこそこ回るお陰もあり、そういった輩からこれでも上手く逃れられてきた。
今でこそ安定した顧客も出来ているが当時は中々大変でもあった。それを乗り越えてきたし今は楽しく仕事をこなしている。とはいえ危ない目に合いかけることは今もたまにある。命の危険ほどではないにしても、身の危険を感じるようなことは未だに無くなることはない。武器の必要な世の中で外へ出て生きていくには、能天気そうに見えてもそれなりに一応覚悟はある。
だがそんなサファルの中でも今が一番心臓に悪かった。あの魔物に襲われそうになって死を覚悟した時ですらこんなに心臓が跳ねてはいなかった。
今ほどカジャックに来られたくないと思ったことはないぞ……。
サファルはとりあえず急いで汚れた手を土に擦り付け、誤魔化した。そして向こうからここへ来られる前にサファルから出ていく。
「カジャック……こ、ここです」
「ああ、そこにいたのか。日差し避けか?」
見ればカジャックは既に服を着ている。先ほどまで水音がしていたと思うのだが、本当にいつの間に、というかそれほど抜くことに気がいっていたのかとサファルは自分の迂闊さを微妙に思う。
「はい……」
「……具合が良くなさそうに見えるが……疲れたのか?」
いえ、抜いたところで少し脱力してるのとあんたに来られて心臓が破裂しそうになっただけです。
「あ、あは。そうかもしれません」
嘘は苦手だ。だから変に誤魔化さず余計なことは言わないようにした。
ふと、カジャックの視線がサファルの下腹部へ行く。サファルに緊張が走った。
「……寒い、のか?」
「……へ?」
何の話だろうと思ったが、カジャックの視線が何を見て言ったのか物語っている。乾いていない濡れたブレーでは、サファルのものなど着ていないも同然なほど丸わかりだろう。
「そ、そうですね! 川で冷えたの、かも」
本当はサファルのそれが射精後に通常より縮んでしまうからなのだが、これは人によるだろうから黙っていればバレないだろうと開き直ることにした。確かに寒くても縮む。
っていうか、開き直ってもこれはこれで恥ずかしいんだけど……!
ただでさえ裸を好きな人に見られるのはいささか恥ずかしいというのに、そこが普段より縮んでいるところなど下着越しでも尚更見られたくない。情けなさ過ぎる。
「ここにいろ」
「え?」
サファルの肩をぽんと軽く叩くと、カジャックはきびすを返していった。だがすぐに戻ってくる。
「体はほぼ乾いてるな。じゃあ着るといい」
「あ……、ありがとうございます」
どうやら服を持ってきてくれたようだ。優しさに嬉しくなりながら受け取り、サファルは慌てて服を着ていった。
カジャックの家へ戻ると蜂蜜酒を出される。それをありがたく飲んでいると「落ち着いたか?」と聞かれた。
「は、はい」
川で冷えて具合が悪くなったと思われているかもしれない。そう思ってくれるのは一応助かるが、多少であっても嘘を吐いていることに心苦しくもある。
いっそ正直に言うか。
だが今さら「実は具合悪いんじゃなくてあんたの裸に興奮し過ぎて抜いてました」と打ち明けるのは中々に気合いがいる。抜くくらい別に生理的現象でもあるが、理由が理由だ。カジャックが好きだと言うのと、裸に興奮し過ぎて我慢出来なくなったと言うのは本来の意味は同じでもやはり違う。少なくとも情けなさにおいては比ではない。
だが悪意はないとはいえ騙しているようでこれはこれで落ち着かなかった。
「サファル」
「……はい」
「嘘を吐いているみたいで落ち着かないか?」
「はい……、……え?」
あれ? とサファルがカジャックを見ると少し笑みを浮かべている。楽しんでいるのでも怒っているのでも、また馬鹿にしているのでもなさそうだ。
「可愛いな、お前は」
「は、い?」
「俺の裸が見慣れないからか?」
「え、あの……」
「別に抜くくらい普通のことだろう。気にしなくていい」
「……、は、はぁぁぁっ? な、なん、何で……!」
何故バレている。というか恥ずかしい……!
今すぐ穴を掘って潜りたい気持ちに押し潰されそうになった。その反面、嘘を吐かなくていいということが気持ちを軽くもしてくる。
そんな相反する感情に動揺していると、頭を優しく撫でられた。サファルが座っている時は肩でなく頭に触れてくれる。心地よくて擦り付けたくなりながら、サファルは少し落ち着いてきた。
「……何で分かったんです?」
「一番の理由は川で冷えた、かな」
「え、何で……」
てっきり下着越しでも分かる縮んだサファルの息子のせいかと思ったら、尤もらしいほうを指摘された。
「お前、前に言っていただろう。水には強いんだと」
「あ」
言っていた。寒中水泳でも余裕なのだとさえ言った。
「嘘が吐けないお前も可愛いと思うよ」
とてつもなく唖然としていると優しく言われた。
今では慣れたクラフォンの町でも、最初は見知らぬ場所で戸惑いつつ商売をしようとしている子どもでしかなかっただろうし、それに託つけて暴利を貪ろうとする者もいれば騙しとろうとする者、それこそ性的な暴力を加えようと企む者もいたと思う。
言っておくがカジャックやルーカスたちに無防備だと謗られるが、サファルも見知らぬ相手にはさすがに警戒くらいする。あと見た目に反してサファルの頭はそこそこ回るお陰もあり、そういった輩からこれでも上手く逃れられてきた。
今でこそ安定した顧客も出来ているが当時は中々大変でもあった。それを乗り越えてきたし今は楽しく仕事をこなしている。とはいえ危ない目に合いかけることは今もたまにある。命の危険ほどではないにしても、身の危険を感じるようなことは未だに無くなることはない。武器の必要な世の中で外へ出て生きていくには、能天気そうに見えてもそれなりに一応覚悟はある。
だがそんなサファルの中でも今が一番心臓に悪かった。あの魔物に襲われそうになって死を覚悟した時ですらこんなに心臓が跳ねてはいなかった。
今ほどカジャックに来られたくないと思ったことはないぞ……。
サファルはとりあえず急いで汚れた手を土に擦り付け、誤魔化した。そして向こうからここへ来られる前にサファルから出ていく。
「カジャック……こ、ここです」
「ああ、そこにいたのか。日差し避けか?」
見ればカジャックは既に服を着ている。先ほどまで水音がしていたと思うのだが、本当にいつの間に、というかそれほど抜くことに気がいっていたのかとサファルは自分の迂闊さを微妙に思う。
「はい……」
「……具合が良くなさそうに見えるが……疲れたのか?」
いえ、抜いたところで少し脱力してるのとあんたに来られて心臓が破裂しそうになっただけです。
「あ、あは。そうかもしれません」
嘘は苦手だ。だから変に誤魔化さず余計なことは言わないようにした。
ふと、カジャックの視線がサファルの下腹部へ行く。サファルに緊張が走った。
「……寒い、のか?」
「……へ?」
何の話だろうと思ったが、カジャックの視線が何を見て言ったのか物語っている。乾いていない濡れたブレーでは、サファルのものなど着ていないも同然なほど丸わかりだろう。
「そ、そうですね! 川で冷えたの、かも」
本当はサファルのそれが射精後に通常より縮んでしまうからなのだが、これは人によるだろうから黙っていればバレないだろうと開き直ることにした。確かに寒くても縮む。
っていうか、開き直ってもこれはこれで恥ずかしいんだけど……!
ただでさえ裸を好きな人に見られるのはいささか恥ずかしいというのに、そこが普段より縮んでいるところなど下着越しでも尚更見られたくない。情けなさ過ぎる。
「ここにいろ」
「え?」
サファルの肩をぽんと軽く叩くと、カジャックはきびすを返していった。だがすぐに戻ってくる。
「体はほぼ乾いてるな。じゃあ着るといい」
「あ……、ありがとうございます」
どうやら服を持ってきてくれたようだ。優しさに嬉しくなりながら受け取り、サファルは慌てて服を着ていった。
カジャックの家へ戻ると蜂蜜酒を出される。それをありがたく飲んでいると「落ち着いたか?」と聞かれた。
「は、はい」
川で冷えて具合が悪くなったと思われているかもしれない。そう思ってくれるのは一応助かるが、多少であっても嘘を吐いていることに心苦しくもある。
いっそ正直に言うか。
だが今さら「実は具合悪いんじゃなくてあんたの裸に興奮し過ぎて抜いてました」と打ち明けるのは中々に気合いがいる。抜くくらい別に生理的現象でもあるが、理由が理由だ。カジャックが好きだと言うのと、裸に興奮し過ぎて我慢出来なくなったと言うのは本来の意味は同じでもやはり違う。少なくとも情けなさにおいては比ではない。
だが悪意はないとはいえ騙しているようでこれはこれで落ち着かなかった。
「サファル」
「……はい」
「嘘を吐いているみたいで落ち着かないか?」
「はい……、……え?」
あれ? とサファルがカジャックを見ると少し笑みを浮かべている。楽しんでいるのでも怒っているのでも、また馬鹿にしているのでもなさそうだ。
「可愛いな、お前は」
「は、い?」
「俺の裸が見慣れないからか?」
「え、あの……」
「別に抜くくらい普通のことだろう。気にしなくていい」
「……、は、はぁぁぁっ? な、なん、何で……!」
何故バレている。というか恥ずかしい……!
今すぐ穴を掘って潜りたい気持ちに押し潰されそうになった。その反面、嘘を吐かなくていいということが気持ちを軽くもしてくる。
そんな相反する感情に動揺していると、頭を優しく撫でられた。サファルが座っている時は肩でなく頭に触れてくれる。心地よくて擦り付けたくなりながら、サファルは少し落ち着いてきた。
「……何で分かったんです?」
「一番の理由は川で冷えた、かな」
「え、何で……」
てっきり下着越しでも分かる縮んだサファルの息子のせいかと思ったら、尤もらしいほうを指摘された。
「お前、前に言っていただろう。水には強いんだと」
「あ」
言っていた。寒中水泳でも余裕なのだとさえ言った。
「嘘が吐けないお前も可愛いと思うよ」
とてつもなく唖然としていると優しく言われた。
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