銀色の魔物

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60話

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 実際、本当に可愛いなとカジャックは思っていた。好きな相手が自分を好きなあまり裸を見ただけで興奮して堪えられなくなるなどと、光栄だとさえ思う。
 とはいえ最初はまさかサファルが堪えきれずに隠れて抜いていたとは予想もしていなかった。毎日暑いために体力が持っていかれ、川で涼みつつもすぐに疲れてしまったのだろうと思っていた。
 気になりサファルを探そうとしているところに本人が出てきた。なんとなく気だるげな様子に、やはり熱にやられたのかと思った。だがどうにも挙動がおかしい気がする。あとふわりと匂った微かな匂いに違和感を覚えた。思わず下肢に目がいった。下着を身につけているので気のせいかもしれないが、心なしか生地の上からだと縮んでいるような気がする。ただ、それはもしかしたら具合が悪いからかもしれない。

「……寒い、のか?」
「……へ?」

 普段凝視するものでもないし気のせいの可能性のほうがもちろん高い。ただ、もし縮んでいるのだとしても寒いと縮むことがあるかもしれない。そう思い、何となく口にすればサファルがポカンとしてきた。その後に言った言葉は違和感でしかなかった。

「そ、そうですね! 川で冷えたの、かも」

 川で冷えた。
 サファルは以前、水に強いと言っていた。なので水に冷やされても体は冷えないのだと。
 明るくて下手をすれば軽い感じにも思いそうなところはあるが、サファルはいい加減なことは言わない。水に強いと言うなら、本当に強いのか少なくとも本人はそう思っているはずだ。しかもサファルには結構な魔力が潜んでいる可能性があり、属性は水だ。信憑性はある。
 ああ、なるほどなとカジャックは突然合点がいき、内心苦笑した。気づかない振りもいいだろう。そう思い、とりあえず居たたまれなさそうなサファルに服を持ってきた。
 家へ戻ると蜂蜜酒を出した。例え本当に体が冷えないのだとしても少なくとも落ち着くかもしれない。実際、サファルはホッとしたように酒を口にしているが、それでもまだ落ち着かなさそうだった。
そわそわとしながらも躊躇しているといった様子ははっきり言って分かりやすい。恐らくは、羞恥を覚えて誤魔化したものの嘘を吐いているようですっきりしないといったところだろうかとカジャックはそっと笑った。
 サファルは裏がないなとも思う。人付き合いどころか人が苦手であるカジャックが分かりやすいと思えるくらい、感情に真っ直ぐだ。かといって嫌な感情は感じても出そうとしない。改めて、好きだなとじんわりする。
 とりあえず、気づかない振りをしたほうがいいだろうと思っていたが、サファルの様子を見ているとむしろ気づいていると伝えたほうがよさそうだ。

「嘘を吐いているみたいで落ち着かないか?」

 そう聞けばサファルがポカンとしたようにカジャックを見てくる。

「可愛いな、お前は」
「は、い?」
「俺の裸が見慣れないからか?」
「え、あの……」
「別に抜くくらい普通のことだろう。気にしなくていい」
「……、は、はぁぁぁっ? な、なん、何で……!」

 サファルは真っ赤になって動揺してきた。これは言わないほうがよかったのだろうかと少し思ったが、どこかホッとした様子も見てとれる。カジャックは愛しく思い、サファルの頭を撫でた。

「……何で分かったんです?」

 少し落ち着いた様子でサファルが聞いてきた。

「一番の理由は川で冷えた、かな」
「え、何で……」
「お前、前に言っていただろう。水には強いんだと」
「あ」
「嘘が吐けないお前も可愛いと思うよ」

 唖然としているサファルに言えば、また真っ赤になってきた。

「俺を可愛いってほんとに思えます……?」
「ああ」
「カ、カジャックの裸見て堪えられなくて抜いてても……?」
「そこも可愛いよ」
「抜いてても?」
「何故二回も言うんだ。生理的現象だろ。それにお前が俺を思って抜くのはむしろ歓迎だが」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。可愛い」
「あのカジャックが……」
「?」
「何度も可愛いとか言う……」

 どういう意味だ、とカジャックは苦笑したが、確かに基本無口なだけに違和感すらあるのかもしれない。出会った当初は「友だち」という言葉を耳にしただけでそわそわしていたカジャックも、本来はこういう落ち着いた性格だし、サファルに影響されてそこそこ思ったことを口にするようにはなっている。
 さすがに情熱的に「愛してるよ……」と囁くことは出来ないが、所作などを可愛く思うことくらいはカジャックでも普通に言える。

「そういえば風呂で布切れだけになるのすら引いてる人がさらっと裸になるのだっておかしい……カジャック、もしかして何かに乗り移られてませんか……?」

 言うに事欠いてそれか。

「今でも見知らぬ者の前で裸になって風呂に入るのはごめんだが」
「そうなの?」
「お前の前だから無防備に裸にもなれる」
「ひぇ……待って、また抜く羽目になります……」

 今の言葉のどこで、とカジャックはまた苦笑する。

「お前も俺には無防備でいいが、出来れば他の者の前では無防備にならないで欲しい」
「ほんと待って、心臓潰れる……」
「何故……」

 分かりやすいのだが、たまにこうして謎な反応も見せてくる。

「あと俺も可愛いくらいは言うよ」
「そう、なんですね……何かもう、お腹いっぱいで」
「腹?」
「カジャック、好きです」
「……、ふふ。何か久しぶりに聞いた気がする」
「そう、でした?」
「ああ」

 以前は戸惑っていた言葉も、今ではただ嬉しい。飲み終えてもコップを持ったままのサファルに近づくと、カジャックは軽くだが唇にキスをした。蜂蜜酒の味がする。

「カジャック……! あのっ、ほんっともう、俺、キャパオーバーになりそうで……!」
「じゃあ慣れてくれるしかないな」
「む、難しいです」
「でないと先に進めない」
「めちゃくちゃ慣れます……!」

 即答してきたサファルに、カジャックは吹き出した。
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