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61話
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今日はおそらく最近の中でも一番暑い日だろう。サファルは額の汗を拭いながら空を見上げた。
本当ならばそろそろ町へ出向いて商売をするべきなのだがこの暑さがそれを躊躇させてくる。もちろん、暑くてだるいから出かけたくないという理由ではない。いくらサファルでも仕事には真摯だ。それにラーザの村からクラフォンの町までは歩いて半日かかる。真夏の日中馬鹿正直に延々と太陽に殺されかけながら歩いたりしない。向かうなら夏は深夜から向かう。そして朝早くに到着し、午前中には商売を終える流れにして午後は酒場の部屋を借りて休み、また深夜に出るのだ。その際は許可も事前に得る。そうしないとさすがに村なら余裕だが町では深夜に出入りは出来ない。
サファルが躊躇するのは商売の品揃えだ。いくら夜中に移動するにしても、やはり食べ物絡みは傷みが気になるためあまりたくさん扱えない。あとは町での売上か。午前中とはいえ、既にじりじりと暑くなっている中、得意先であろうが商売はあまり捗らない。
毎年のこととはいえ、そろそろ品物の幅を広げられたらなと思う。かといって無理に新しいものを作るなり仕入れようとしても失敗した場合のことを考慮に入れると躊躇してしまう。
「うーん」
「サファル。そろそろ日差しも本格的だし作業を終えよう」
「分かった」
町へ出向いていない間、別に遊んでばかりなのではない。確かに隙あらばカジャックのところへ行っているが、商品を用意したりといった商売絡みの準備以外にルーカスの畑を手伝ったりもするし、今のように村の誰かに依頼を受けて仕事をしたりもする。大抵は農作業などが多い。力はないが効率よく進めるため、これでも人気はある。たまに狩りで肉や木の実を頼まれることもある。お裾分けやただの手伝いとは違ってちゃんと雇われ仕事をし、金を貰う。村の皆もサファルが商売の片手間にやっていることだと把握しているので無理に頼んでくることはない。仕事としては気楽なものだろう。生まれて間もない赤子の面倒を頼まれることもあるが、それだって慣れたものだ。
以前、村で仕事を引き受けるなら私も出来るとリゼに言われたことがある。なので簡単な依頼ならリゼが受けることもあるが、赤子の面倒は見れても家事が全く出来ないサファルにしてみれば仕事を受けてくれるより家を守ってくれることのほうが助かるとは正直に告げている。リゼもそこは把握しているらしく「それは言われなくても分かってるよ」と笑われた。サファルとリゼはその辺の共働き夫婦よりも役割分担が明確かもしれない。
「今日は一番の暑さかもしんねぇな」
「だなー」
仕事を終えて二人で汗を拭う。今回仕事を頼んできたのは奥さんがそろそろ臨月で人手が足りていない男からだ。既に二人の子がいて年は上だがもちろん友だちでもある。というか村の住民とはほぼ友だちかもしれない。
「マリアさん、体調どう? 暑さで余計きついんじゃないのか」
「まぁな。でもあいつはつえぇから」
茶化すように言っているが表情は愛しげだ。
「つれぇのは俺もだわ」
「何で」
「そばにあいついるってのになぁんも出来ねぇんだからな」
「なぁんも? 手伝いとか?」
「ちげーよ。セックスだよ」
「あ、あー……」
何とも反応し難い。とはいえ冗談なのは分かっているので流そうとしたところでサファルはハッとした。
「な、なあ」
「何だ」
「あんた、結構大人だろ」
「お前もな」
「じゃなくて! 大人なら好きな相手がそばで裸でも平然としてられんの?」
「は? あー、どうだろな。うーん、状況によるんじゃね?」
「状況?」
「俺はいつだってやりてーけど、さすがに今臨月のあいつが水浴びとか体拭くのに脱いでるとこ見て襲わねぇよ」
「……く。わかる、けどそれじゃあ、わからない……」
「何の話だ」
「いや、何でもないんだ……」
サファルの全裸を見てもいつだって平然としているカジャックを思い出し、そして自分は上半身裸を見ただけで我慢出来ず抜いてしまった上にそれが本人であるカジャックにばれたことなど、名前を伏せても自分が言いたくない。
状況かぁ。
サファルはまた空を見上げた。雲ひとつない空は真っ青だった。カジャックもこれくらい澄んだ心の持ち主なのは分かる。だがいまいち考えなどは分からない。
俺、本当に俺と同じ意味で好かれてんのかなぁ。
たまに浮かんでしまうそれがまた浮かんできた。カジャックが大事にしてくれているのはわかる。好かれているのもわかる。だがその「好き」がどうしてもたまに、本当に恋愛の好きで合っているのだろうかと心配になってしまう。
……いや、大丈夫。だってキスしてくれたし……軽くだけど、ちゃんと唇にしてくれたし……。
思い出すとドキドキとしてきた。
「お、おい、サファル。お前、太陽の熱にやられたんじゃねぇか? まずいな、井戸まで動けるか?」
「……、……え?」
「ほら、絶対そうだ。そんな顔、真っ赤にしてぼーっとしてよ。ほら、肩貸してやるから」
「え、あ、こ、これは違う、違うよ、俺、大丈夫だから……!」
本当ならばそろそろ町へ出向いて商売をするべきなのだがこの暑さがそれを躊躇させてくる。もちろん、暑くてだるいから出かけたくないという理由ではない。いくらサファルでも仕事には真摯だ。それにラーザの村からクラフォンの町までは歩いて半日かかる。真夏の日中馬鹿正直に延々と太陽に殺されかけながら歩いたりしない。向かうなら夏は深夜から向かう。そして朝早くに到着し、午前中には商売を終える流れにして午後は酒場の部屋を借りて休み、また深夜に出るのだ。その際は許可も事前に得る。そうしないとさすがに村なら余裕だが町では深夜に出入りは出来ない。
サファルが躊躇するのは商売の品揃えだ。いくら夜中に移動するにしても、やはり食べ物絡みは傷みが気になるためあまりたくさん扱えない。あとは町での売上か。午前中とはいえ、既にじりじりと暑くなっている中、得意先であろうが商売はあまり捗らない。
毎年のこととはいえ、そろそろ品物の幅を広げられたらなと思う。かといって無理に新しいものを作るなり仕入れようとしても失敗した場合のことを考慮に入れると躊躇してしまう。
「うーん」
「サファル。そろそろ日差しも本格的だし作業を終えよう」
「分かった」
町へ出向いていない間、別に遊んでばかりなのではない。確かに隙あらばカジャックのところへ行っているが、商品を用意したりといった商売絡みの準備以外にルーカスの畑を手伝ったりもするし、今のように村の誰かに依頼を受けて仕事をしたりもする。大抵は農作業などが多い。力はないが効率よく進めるため、これでも人気はある。たまに狩りで肉や木の実を頼まれることもある。お裾分けやただの手伝いとは違ってちゃんと雇われ仕事をし、金を貰う。村の皆もサファルが商売の片手間にやっていることだと把握しているので無理に頼んでくることはない。仕事としては気楽なものだろう。生まれて間もない赤子の面倒を頼まれることもあるが、それだって慣れたものだ。
以前、村で仕事を引き受けるなら私も出来るとリゼに言われたことがある。なので簡単な依頼ならリゼが受けることもあるが、赤子の面倒は見れても家事が全く出来ないサファルにしてみれば仕事を受けてくれるより家を守ってくれることのほうが助かるとは正直に告げている。リゼもそこは把握しているらしく「それは言われなくても分かってるよ」と笑われた。サファルとリゼはその辺の共働き夫婦よりも役割分担が明確かもしれない。
「今日は一番の暑さかもしんねぇな」
「だなー」
仕事を終えて二人で汗を拭う。今回仕事を頼んできたのは奥さんがそろそろ臨月で人手が足りていない男からだ。既に二人の子がいて年は上だがもちろん友だちでもある。というか村の住民とはほぼ友だちかもしれない。
「マリアさん、体調どう? 暑さで余計きついんじゃないのか」
「まぁな。でもあいつはつえぇから」
茶化すように言っているが表情は愛しげだ。
「つれぇのは俺もだわ」
「何で」
「そばにあいついるってのになぁんも出来ねぇんだからな」
「なぁんも? 手伝いとか?」
「ちげーよ。セックスだよ」
「あ、あー……」
何とも反応し難い。とはいえ冗談なのは分かっているので流そうとしたところでサファルはハッとした。
「な、なあ」
「何だ」
「あんた、結構大人だろ」
「お前もな」
「じゃなくて! 大人なら好きな相手がそばで裸でも平然としてられんの?」
「は? あー、どうだろな。うーん、状況によるんじゃね?」
「状況?」
「俺はいつだってやりてーけど、さすがに今臨月のあいつが水浴びとか体拭くのに脱いでるとこ見て襲わねぇよ」
「……く。わかる、けどそれじゃあ、わからない……」
「何の話だ」
「いや、何でもないんだ……」
サファルの全裸を見てもいつだって平然としているカジャックを思い出し、そして自分は上半身裸を見ただけで我慢出来ず抜いてしまった上にそれが本人であるカジャックにばれたことなど、名前を伏せても自分が言いたくない。
状況かぁ。
サファルはまた空を見上げた。雲ひとつない空は真っ青だった。カジャックもこれくらい澄んだ心の持ち主なのは分かる。だがいまいち考えなどは分からない。
俺、本当に俺と同じ意味で好かれてんのかなぁ。
たまに浮かんでしまうそれがまた浮かんできた。カジャックが大事にしてくれているのはわかる。好かれているのもわかる。だがその「好き」がどうしてもたまに、本当に恋愛の好きで合っているのだろうかと心配になってしまう。
……いや、大丈夫。だってキスしてくれたし……軽くだけど、ちゃんと唇にしてくれたし……。
思い出すとドキドキとしてきた。
「お、おい、サファル。お前、太陽の熱にやられたんじゃねぇか? まずいな、井戸まで動けるか?」
「……、……え?」
「ほら、絶対そうだ。そんな顔、真っ赤にしてぼーっとしてよ。ほら、肩貸してやるから」
「え、あ、こ、これは違う、違うよ、俺、大丈夫だから……!」
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