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66話
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翌日、村へ帰ってから周りにそれとなく聞いてみたが、やはりここでは竜の噂は全く上がっていなかった。クラフォンの町なら色んな人が集まるものの、ラーザの村ではそれなりに暮らす人数はいるが旅人が訪問してくるところなどサファルも見たことがない。その分情報も行き交いようがないということだ。むしろ情報を流すのはサファルになるのだろう。
苦笑しつつ、竜の話は一応村の長にはしておいた。やみくもに誰かに言うほど信憑性のある話ではないが、万が一ということもある。ただ、長にしてみれば対応のしようがない話でもあるだろう。
その日はもう一日の半分以上が過ぎていたので、サファルは長の家を出ると大人しく自宅へ帰った。
「おかえりなさい、サファル」
にこやかに出迎えてくれたリゼの横には、あの大人しそうなリゼの女友だちがいた。
「……あ、あの、お、おかえり、なさい……」
「ただいま。遊びに来てたんだね。邪魔しちゃったかな、ごめんね」
「……っと、とんでも、ないっ、です……あの、わ、私、帰るとこ、でし、です」
酷い顔色をしながらあわあわと焦ったかと思うと、その子は頭を下げてからリゼとの挨拶もそぞろに帰っていった。
「……もしかして、俺、めちゃくちゃ嫌われて……?」
「大丈夫、それはないよ」
「でも……じゃあ具合が悪いんじゃ……」
「それも大丈夫。恥ずかしがり屋でおしとやかなの、あの子は」
恥ずかしがり屋のおしとやかにも限度があるだろうと思ったが、サファルは追及するのはやめにした。
夕食時、リゼにも聞いた竜の話をした。突拍子もない話に、聞き流してくるか好奇心を湧かせてくるかと思っていたが、サファルの予想に反してリゼは顔を青ざめ「大丈夫なのかな……」と呟いてきた。
「ご、ごめん。食事中にする話じゃなかったか?」
「ううん、それは大丈夫」
「そう? えっと、噂だよ、あくまでも」
「火のないところに煙は立たないよ」
「そうだけど……でも竜だぞ。竜って博識なとこあってひっそりとしてるイメージしかなくないか?」
「それだってただのイメージでしょ」
「そうだけど……」
まだ青ざめたまま、リゼは喉を潤すためかデザートに食べようと思って切っていた梨を口にした。その後にサファルをじっと見てくる。
「サファル、あまりしょっちゅう町へ行かないで」
「何で。遊びじゃなくて仕事なんだけど」
「村で何でも屋してても何とか暮らしていけるよ」
「これから冬になるんだぞ。さすがに厳しいだろ」
「でも……」
「あのさ、リゼ。町で噂立ってるからってここより町のほうが危険とかはないぞ」
「そんなのは分かってるよ。そうじゃなくて……私の知らないとこで、もしサファルに何かあったらって思うと怖いんだよ……それに町へは半日もかかるんだよ。それだけ外に晒されてる。もし竜の噂がほんとで、その竜が山から下りてきたらサファルなんてすぐ見つかってやられちゃうよ……」
ああ、とサファルは理解した。
サファルとリゼの両親はサファルが十四歳の時に魔物に殺された。リゼはまだ十一歳だった。二人とも目の前で見たのではなく人から聞かされたのだが、それでもトラウマになっていてもおかしくない。実際それ以来、リゼはいつもサファルを心配してくる。
「分かった。町へ行くのは控えるよ。でも一切行かない訳にはいかない。そもそも噂なんだ。いつまで控えたらいいかすら分からないだろ、それじゃあ。情報を得るにも町へ行かないと分からない訳だし。っていうかもしかしてカジャックのところへ行くのも駄目なの」
話をしながらハッとなった。カジャックに会うのも無期限で控えるのはキツい。
「……カジャックのところはまだ平気……。だって森の中での安全な道教えてもらってるんでしょ。それにカジャックが一緒ならむしろ安心出来るし……」
要するに俺が信用されてない訳ね、とサファルは内心苦笑した。とはいえ文句はない。実際カジャックと出会ったのもサファルが油断して魔物に殺されかけたからだ。
ふと、自分は何故そこまでトラウマになっていないのだろうと思った。たまに思うことでもある。両親が魔物にやられている。だというのに油断するだけでなく、自分が魔物に殺されようとした時にもリゼの今後の心配しかしなかった。親のことが過ったりリゼが受けるであろう心の痛みを慮ったりしなかった。
……俺、やっぱりもしかして薄情者なのか……?
微妙な顔をしているとリゼがサファルの腕に手をそっと置いてきた。
「私もサファルに強制はしたくない。でも本当に心配なんだよ」
「リゼ……」
「確かに噂だし、いつまでもはっきりしないかもしんない。でも怖いんだ、サファルが一人で出かけるの。……ごめんね」
「謝る必要なんてないよ。……そうだな、もしルーカスの手を借りられるならルーカスについてきてもらう。ルーカスが来れそうな時に町へ行くよ。どう?」
「うん、それならまだ……。ありがとう、サファル」
リゼが本当に嬉しいといった様子で微笑んだ。考えすぎだと、他の人間に言われたら即答していた。たかがちらほらと上ってきた噂だ。本当かデマかも分からない。そもそも竜が暴れるなんてあるはずがないし、そうだとしても人里に下りてくるとは思えない。全く信憑性のない噂なのだ。
──だけど、リゼは別だ。
サファルはそっと頷いた。とはいえルーカスも結構忙しい人だ。上手く調整が取れたらいいけれどもとサファルは思った。
苦笑しつつ、竜の話は一応村の長にはしておいた。やみくもに誰かに言うほど信憑性のある話ではないが、万が一ということもある。ただ、長にしてみれば対応のしようがない話でもあるだろう。
その日はもう一日の半分以上が過ぎていたので、サファルは長の家を出ると大人しく自宅へ帰った。
「おかえりなさい、サファル」
にこやかに出迎えてくれたリゼの横には、あの大人しそうなリゼの女友だちがいた。
「……あ、あの、お、おかえり、なさい……」
「ただいま。遊びに来てたんだね。邪魔しちゃったかな、ごめんね」
「……っと、とんでも、ないっ、です……あの、わ、私、帰るとこ、でし、です」
酷い顔色をしながらあわあわと焦ったかと思うと、その子は頭を下げてからリゼとの挨拶もそぞろに帰っていった。
「……もしかして、俺、めちゃくちゃ嫌われて……?」
「大丈夫、それはないよ」
「でも……じゃあ具合が悪いんじゃ……」
「それも大丈夫。恥ずかしがり屋でおしとやかなの、あの子は」
恥ずかしがり屋のおしとやかにも限度があるだろうと思ったが、サファルは追及するのはやめにした。
夕食時、リゼにも聞いた竜の話をした。突拍子もない話に、聞き流してくるか好奇心を湧かせてくるかと思っていたが、サファルの予想に反してリゼは顔を青ざめ「大丈夫なのかな……」と呟いてきた。
「ご、ごめん。食事中にする話じゃなかったか?」
「ううん、それは大丈夫」
「そう? えっと、噂だよ、あくまでも」
「火のないところに煙は立たないよ」
「そうだけど……でも竜だぞ。竜って博識なとこあってひっそりとしてるイメージしかなくないか?」
「それだってただのイメージでしょ」
「そうだけど……」
まだ青ざめたまま、リゼは喉を潤すためかデザートに食べようと思って切っていた梨を口にした。その後にサファルをじっと見てくる。
「サファル、あまりしょっちゅう町へ行かないで」
「何で。遊びじゃなくて仕事なんだけど」
「村で何でも屋してても何とか暮らしていけるよ」
「これから冬になるんだぞ。さすがに厳しいだろ」
「でも……」
「あのさ、リゼ。町で噂立ってるからってここより町のほうが危険とかはないぞ」
「そんなのは分かってるよ。そうじゃなくて……私の知らないとこで、もしサファルに何かあったらって思うと怖いんだよ……それに町へは半日もかかるんだよ。それだけ外に晒されてる。もし竜の噂がほんとで、その竜が山から下りてきたらサファルなんてすぐ見つかってやられちゃうよ……」
ああ、とサファルは理解した。
サファルとリゼの両親はサファルが十四歳の時に魔物に殺された。リゼはまだ十一歳だった。二人とも目の前で見たのではなく人から聞かされたのだが、それでもトラウマになっていてもおかしくない。実際それ以来、リゼはいつもサファルを心配してくる。
「分かった。町へ行くのは控えるよ。でも一切行かない訳にはいかない。そもそも噂なんだ。いつまで控えたらいいかすら分からないだろ、それじゃあ。情報を得るにも町へ行かないと分からない訳だし。っていうかもしかしてカジャックのところへ行くのも駄目なの」
話をしながらハッとなった。カジャックに会うのも無期限で控えるのはキツい。
「……カジャックのところはまだ平気……。だって森の中での安全な道教えてもらってるんでしょ。それにカジャックが一緒ならむしろ安心出来るし……」
要するに俺が信用されてない訳ね、とサファルは内心苦笑した。とはいえ文句はない。実際カジャックと出会ったのもサファルが油断して魔物に殺されかけたからだ。
ふと、自分は何故そこまでトラウマになっていないのだろうと思った。たまに思うことでもある。両親が魔物にやられている。だというのに油断するだけでなく、自分が魔物に殺されようとした時にもリゼの今後の心配しかしなかった。親のことが過ったりリゼが受けるであろう心の痛みを慮ったりしなかった。
……俺、やっぱりもしかして薄情者なのか……?
微妙な顔をしているとリゼがサファルの腕に手をそっと置いてきた。
「私もサファルに強制はしたくない。でも本当に心配なんだよ」
「リゼ……」
「確かに噂だし、いつまでもはっきりしないかもしんない。でも怖いんだ、サファルが一人で出かけるの。……ごめんね」
「謝る必要なんてないよ。……そうだな、もしルーカスの手を借りられるならルーカスについてきてもらう。ルーカスが来れそうな時に町へ行くよ。どう?」
「うん、それならまだ……。ありがとう、サファル」
リゼが本当に嬉しいといった様子で微笑んだ。考えすぎだと、他の人間に言われたら即答していた。たかがちらほらと上ってきた噂だ。本当かデマかも分からない。そもそも竜が暴れるなんてあるはずがないし、そうだとしても人里に下りてくるとは思えない。全く信憑性のない噂なのだ。
──だけど、リゼは別だ。
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