銀色の魔物

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67話

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 こういうことがあって、と次にカジャックの家へ行った時にサファルは町での話やリゼとのやり取りを語って聞かせた。

「竜、か……」
「うん。まずあり得ないとは思うけどリゼも取引先も、火のないところにとか言ってました」
「それは一理あるな」
「そうなんですけど、でも信憑性はあまりない気もして。カジャックはどう思います?」

 サファルにとって、大好きだからという感情に関わらずカジャックは話しやすい。カジャックならこういった話も真剣に聞いてくれつつも噂や思い込みなどに流されず、論理的に考え理論を述べてくれるような気がしていた。

「お前が言うように、竜は神格化されているのもあるが浅はかな行動はとらないように俺も思ってる。だけどそういった噂が立つのはやはり何らかの原因があるとも思う。噂の元はただの冗談から来ている可能性もあるが、もしかしたら本当に誰かが暴れる竜を見たのかもしれない」
「でもそれならもっと公にされませんか?」
「どこの山かは知らないが、中には一般の者が立ち入れない場所があると本で読んだことがある。神や神の子が関係する神聖な場所にはほんの一部の関係者しか立ち入れないと」
「そうなんですか? 俺、宗教関係はほんと疎くて……というか、普通は知らない気がします」
「そういえば大きなところじゃないと本もないんだっけか。そうだな、貴重な神器も保存されているらしい。例えばそういった場所へ忍び込もうとした者なら、公に言うどころじゃないだろうな」
「……なるほど……カジャックって凄い……」

 出来ればこの場で押し倒したいほどには凄いとサファルは目を輝かせながら思った。もちろん、押し倒すなど出来るはずもないが。

「いや……どう凄いのか分からないが……一応ありがとう……。今言ったのは例えばの話だ。そういった可能性もあるってだけだ」
「でも凄く現実味が出てきました」
「……リゼはお前が本当に大事なのだろうな」

 カジャックが小さくだが微笑む。それに対しひっそりと胸を疼かせながらサファルも微笑んだ。

「うん。俺とリゼは二人きりの肉親だし……俺もリゼが何よりも大事です。……カ、カジャックも大事です、もちろん!」

 ハッとして言えば今度は苦笑された。

「別にそこで付け加えなくてもいい」

 お互い囲炉裏のそばに座っていたのもあり、カジャックはサファルの頭を優しく撫でてきた。これを、恋愛対象と見てもらえていない行為にほんの少し思えたこともあった。しかし今では愛が感じられてとても嬉しくて気持ちがよくて、もっとして欲しいとサファルは思っている。だがあくまでもカジャックがしたいと自発的に思ってしてくれるのが嬉しいので、自分から求める気はない。

「俺の親も魔物に殺されてますし……リゼが少しでも安心するならと思って、町へはルーカスが同行出来そうな時に行くことにしたんですけど……」

 案の定、ルーカスに同行してもらうのはなかなか難しそうだ。まず農業をやっているのであまり外泊で家を空けられない。ルーカスの親がいるので絶対無理ということはないが、ルーカスの両親にもお世話になっているので出来ればあまり迷惑をかけたくない。それにルーカスが村の子どもたちに剣術を教えているのもある。いくら幼馴染で親友でも、気軽に二日ほど家を空けてついてきてくれ、とは言い難い。
 それにルーカスを連れて行くということは、その間リゼを本当に一人きりにするということになる。それが実は何よりも嫌だ。
 村の友人を信じていない訳ではない。それでもサファル自身はルーカスやカジャックに言われても友人が自分に何かするとは思っていないが、リゼは違う。リゼに関しては心配なのだ。
 これは別にリゼの魔物へのトラウマように何か原因があるのではない。ただひたすらリゼが可愛いから所以ゆえんだ。
 カジャックに言いかけている途中でサファルは小さくため息を吐いた。これでは町へ向かうことはしばらく難しそうだ。ルーカス以外の誰かに頼んでもいいが、基本的にルーカス以外の村民は非戦闘員だ。人間相手の喧嘩が強くとも武装した戦闘員や魔物には対抗出来ない。リゼは安心してくれない気がする。ルーカスも今は農民であり戦闘員ではないのだが、過去にほんの一時的にだが騎士として王国に仕えたこともあるし、実際強い。

「ルーカスも自分の仕事があるだろうし、何よりリゼを全くの一人にはしたくないだろうな」
「はい……そうなんです……」
「……、……俺、が……」

 カジャックが何か言いかけて躊躇する。まさかとは思うが、だがとサファルはカジャックの手を取った。

「あの、違ったらそれでいいんですけど……もしルーカスの代わりにカジャックが行く、と言ってくれようとしたのなら、いいんですよ。お気持ちだけ頂きますので」
「だが……」

 気まぐれで引きこもっているのではないのを知っている。そんなカジャックが「行く」と言おうとしてくれただけでも、考えてくれただけでもサファルはとても嬉しくて正直泣きそうだ。

「リゼも言ってましたが、村で仕事を引き受けるのでもやっていけなくはないんです。それにどのみち毎年冬は町での売り上げも下がるので。商品は売れるんですが、どうしても仕入れるものが限られて。だから後は冬だとあまり期待は出来ないかもだけど森で獣や木の実を狩ればどうとでもしのげるかなって。カジャックだってそうやって毎冬を越しているんですよね?」
「俺は一人だし気楽だから。それに慣れている。慣れていないお前は冬の森を甘くみないほうがいい」

 生き物が見つかりにくいだけでなく、雪に埋もれた森は知っている筈の道ですら遭難するかもしれないとカジャックは淡々と教えてきた。

「だから今までお前は冬の森に立ち入らなかったんじゃないのか?」
「……そう、ですけど」
「俺と一緒に行動してくれてもいいが、その前に俺の家へ来るのも控えたほうがいいと言うつもりだったくらいだ」
「ええ……っ? それは無理……」
「お前一人なら冬は俺の元で過ごせばいいと言えるが、リゼがいる。それに俺は村へは行かない。だから春までの我慢だな」

 竜の話よりもサファルにとってとんでもない話をされてしまった。予想さえしていなかっただけに唖然とする。とはいえリゼに「冬の間は森で暮らそう」などとは言えない。サファルもそうだが、リゼは自分の村を愛している。それに女がそれこそ冬の森で暮らすには大変だと思われた。
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