銀色の魔物

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68話

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 サファルにとっては今言われたことのほうが余程重要項目だった。

「……本格的な冬が来るまでにどうにかいい方法を考えます……」

 絶望的な気持ちにならないよう、努めて明るく言ったつもりだがむしろ変な声になった。カジャックが少し俯いて体を震わせている。多分笑っているのだろう。

 ──いいよ別にカジャックが笑ってくれるのは嬉しいし。でもほんっとどうにかしたい。

「なあサファル」

 呼びかけられてサファルが顔を改めて向ければ、俯いていた筈のカジャックは既に真顔になっていた。

「どちらにしても情報を得るには町へ行かないとなんだろ」
「まぁ……今のところ定期的に村の外へ出るのは俺くらいなんで」
「じゃあやっぱり間隔は開けるにしても町へは行ったほうがいいんじゃないか。……確かに正直なところ、俺は人前に出たくない。だがその町は大きいんだろ?」
「……え? ああ、はい……」
「なら、見知らぬ者が一人いてもお前が住むような村よりは目立たないだろう。それにフードで顔を隠せばあまり気にならないんじゃないだろうか」

 それは、どうだろうかとサファルは少し苦笑した。
 確かに見知らぬ人間に注意を払う者はほぼいないと思われる。というか旅人が立ち入ることの多い町だ。見知らぬ者のほうが多いかもしれない。それでもサファルといればそれだけで全くの他人という存在にはならないだろうし、もし他人として見られても顔を隠す人間には逆に警戒するのではないだろうか。何でも知ってそうなカジャックだが、やはり人間関係に関しては少し疎いのかもしれない。

「……俺といるだけであんたは少なくとも俺の知り合いにとっては全くの見知らぬ人間ではなくなりますし、いくら大きな町でも顔を隠す人間に対しては警戒されますよ……懸賞首の犯罪者だって存在するんで」
「……そう、か……」

 カジャックが少しがっかりしている。それがサファルにとっては結構レアだし可愛く見えた。
 自分の目線でカジャックには断りを入れたが、ふとサファルは思う。

 俺のためとはいえ、カジャックが外へ出ようとしたことはいいことなんじゃないだろうか。

 引きこもっていてはいけない、という訳ではない。世捨て人などこの世界にはたくさんいるだろうし、カジャックの生活は人付き合いを除けば申し分ないくらい十分潤っている気がする。その人付き合いが苦手な訳で、ならそのまま引きこもっていてもいいのではとも思える。
 だが、もし可能ならば外の世界も味わって欲しいとは思う。嫌な人間も実際いる。呑気に日々過ごしているサファルですら、商売を始めた頃は辛いことばかりだった。ただ、それを上塗り出来るくらい、素晴らしい人間もいる。そういった人たちとやり取りすることはサファルにとって宝物を持っているような気持さえする。
 それを押し付ける気はないが、カジャックが外を知ることによって同じように感じないとは限らない。

「……あの、カジャック」
「ん?」
「……町は確かに大きいです。だから色んな人がいます。カジャックの目付きは最初俺も正直怖かったけど……でももっと怖い顔をしてる人なんてざらにいます。言ってしまえば、カジャックなんて目付きが悪いだけで後は整ってんだからむしろ全然いける顔なんですよ? だからあんたは別に隠さなくても問題ないんですよ」
「……」
「それに今のあんたは魔法を完全にコントロールしてる。多少人と接触しても暴走することなんてないです。他の普通の人らのほうがよっぽどコントロールしきれなくて日々暴走させてますよ。ただし力はあんたみたいにないから大きな事故にならないだけで。だからちゃんとコントロールしてるあんたが恐れることなんて何もないんだ」

 嘘は全く吐いていない。たまに魔法をミスってか、暴走させてしまっている人はいる。ちょっとしたボヤ騒ぎになったり水浸しになったり、風で畑が少しやられたり。だが大きな被害を見たことはない。そこまで大きな魔力を持っている者が村や町にいないからだと思われる。大きな魔力を持っていたら多分王都へ集められているだろう。

「俺のためを思ってくれているカジャックが好きです。ただ迷惑かけたくないからとさっきはつい断りました。でも……やっぱり、ついてきて、欲しい、です……あんたについてきて欲しい……。駄目、ですか?」

 自分の我がままという体で頼めばカジャックも「やっぱり止める」とは言わない気がした。それによって自分の好意は下がってしまいそうだが仕方がない、とサファルはじっとカジャックを見つめた。

「……いや……。俺自身がそもそも言いかけたことだ……駄目じゃない。……お前に付き添おう……」

 いつも落ち着いて鷹揚に構えているカジャックの顔色が心なしか悪い。

 カジャック、ごめんね……。

 心の中でだけ謝ると、サファルはカジャックに笑いかけた。笑顔は別に作らなくても普通に出来た。申し訳ないとは思っているが、実際カジャックについてきてもらうのはとてつもなく嬉しくもある。

「ありがとうございます、カジャック」
「……じゃあ、礼に……」

 苦笑しながらカジャックはサファルの握った手を見てきた。

「は、はい! 染めるのでも片付けでもなんでも手伝います……!」

 そういえば先ほどカジャックの手を取ってからずっと握ったままだった、とサファルは今更顔が熱くなりながら慌てて離そうとした。だがカジャックはその手をぎゅっと握り返してくる。

「それは別に……。サファル、お前から俺に口づけしてくれたら嬉しいんだけどな」

 これほど難しい礼の仕方は今までなかった、とサファルは何とか辛うじてこなした後で汗びっしょりになりながら思った。
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