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69話
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いつもと同じ道だというのに、カジャックがいるというだけで全然違った。空気の色すら違う気がする。
「獣を飼ってたんだな」
「獣と聞くと狂暴なイメージありますけど……ラバですよ。力持ちで優しい子なんです」
ラバは病気などに強い。足腰も強く体が丈夫な上に馬よりも蹄が硬いのでどんな道にも対応しやすい。サファルにとってとてもありがたい家畜だ。
「確かに穏やかそうな目をしてる……」
「でしょう。でもね、怪我させちゃったりあまりに無理やりなことしたら機嫌損ねて、てこでも動かないそうですよ。前に別のところから来た商人が言ってました。変なとこだけロバに似てやがるって。でもね、頑固で強情なとこもあるらしいけど、普通は臆病なくらい大人しくて従順な子なんです」
サファルが説明していると、何故かカジャックがぷっと吹き出してきた。吹き出されるようなことを言ったっけかとサファルは怪訝な顔をカジャックへ向けた。
「俺、変なこと言いましたっけ?」
「いや……今の話を聞いていたらお前が浮かんで……」
俺?
ますますポカンとした顔になりながら、サファルは自分の言った言葉を振り返る。だが何が自分を彷彿とさせたのかさっぱり分からない。
「分からないって顔をしてるな」
「え、だって分かりませんよ……俺……あー、もしかして臆病だと思われてます?」
「いや、何故そこなんだ。サファルは案外ネガティブなところあるんだな」
「あんたが絡むとそうなっちゃうんです」
何が自分なのだ、とサファルは振り返ってラバを見る。
馬面……ではないはずだ。自己評価はカジャックが絡まないと甘くなりがちだが、それでも少なくとも馬面ではない。
「……俺、確かにイケメンって訳じゃないかもだけどわりと可愛い顔してると思うんですけど……」
「そこでもない」
カジャックは楽しんでいるのか、また少し笑っている。
「それに確かに可愛いよ。あとちゃんと男らしい顔をしている。安心しろ」
優しく言われ、サファルは「は、はい」と頷きながら顔が熱くなるのが分かった。
「カジャックは絶対天然色男だ……」
「……何だそれ。さっきラバの説明をしてくれた時、優しくて従順って言ってただろ」
「力持ちで臆病とも言いましたよ……」
「確かに力はないな、サファルは。お前は臆病でもないよ。とにかく似てると思ったのは、優しくて従順なのに変なところが頑固で強情だ」
「ラバの話ですよね」
「お前もな」
「俺? 俺、あんたにはそりゃ従順ですけど別に優しくないですよ。普通です。あと頑固でも強情でもないですけど」
「ふふ」
頑固で強情は心外だとばかりに付け足すとまた笑われた。サファルは首を傾げるしかなかった。
そろそろずいぶん涼しくなってきたので朝早くからカジャックとは森で待ち合わせた後に出発していた。それでもクラフォンの町に着くのは昼になる。
「カジャックと一緒に旅行したのは開墾集落跡地以来ですね」
そろそろ町に着くだろう辺りでふと思い出し、サファルはにこにことカジャックを見た。カジャックはまた少し笑っている。
「旅行なのか」
「いやまぁ、今は仕事ですけども……ほら、気持ちの持ちようです」
「……そうだな」
少しサファルをじっと見た後に、カジャックは静かに頷いてきた。
良かった、とサファルは思う。一見、なのかもしれないが、カジャックは落ち着いている。多分森で暮らすようになってから初めて森から出たのではないだろうか。おまけに人間が苦手なのだ。いくらしっかりして大人であるカジャックでも気持ちにゆとりがなくなるのではないかとサファルは心配だった。森を出て暫くはフードを目深に被り無言だったので尚更だ。途中、ちょっとした出来事があってからはいつものように落ち着いた様子になった気がしたので、一応ホッとはしたのだが。
サファルのために付き合ってくれている。これはとてつもなく嬉しいが、やはり申し訳なさと心配でむしろサファルの気持ちが乱れそうだった。だが今のところ、カジャックはひたすら落ち着いている。
改めてホッとしていると、頭の代わりに肩の辺りをぽんぽんと優しく撫でられた。気にしているのがバレバレなのかもしれない。ほんのり微妙な気持ちになりながら、それでもカジャックが落ち着いているなら問題はないとサファルはまた話題を変えながら町へ向かい続けた。
落ち着いていたカジャックだが、さすがに町の出入口に到着すると少し唖然としていた。
「人、多いな」
「出入りするところですし。あ、でも町中も多いです、多分……。で、でもほんと普通にされてたら問題ないです」
「ああ。ありがとう」
「……はい! じゃあとりあえず門番にこれら手渡したら後は問題ないか、と」
落ち着きを見せるようになってからも道中ずっとフードを被っていたカジャックは、特に深く被りなおすこともなくそのまま歩き続けた。
クラフォンの町は王国ではないが、それなりに大きな町だ。ちなみに村はそうではないが、町の多くが城塞都市だ。領主の城を中心としてその周りに家や店があり、一番外側を城壁が囲んでいる。町の外は道路の整備はほぼされておらず足場は悪い。おまけに王国へ向かうよりはマシだが、山賊などの類いがゼロという訳でもない。サファルは安全な道を使っているとはいえ、今朝の「ちょっとした出来事」でもそうだが気を抜いて歩けるほどではなかった。
その城壁に囲まれた出入口はどうしても人で混み合う。クラフォンの町も例外ではない。少し心配しながらカジャックを見ていたが、やはりフードを深く被りなおすこともなく、ただ黙ってサファルについてきていた。
咎められるようなことは何一つないどころか、一つ手柄さえ門番に手渡した訳だが、無事何事もなく町中へ入ると妙にホッとした。
「獣を飼ってたんだな」
「獣と聞くと狂暴なイメージありますけど……ラバですよ。力持ちで優しい子なんです」
ラバは病気などに強い。足腰も強く体が丈夫な上に馬よりも蹄が硬いのでどんな道にも対応しやすい。サファルにとってとてもありがたい家畜だ。
「確かに穏やかそうな目をしてる……」
「でしょう。でもね、怪我させちゃったりあまりに無理やりなことしたら機嫌損ねて、てこでも動かないそうですよ。前に別のところから来た商人が言ってました。変なとこだけロバに似てやがるって。でもね、頑固で強情なとこもあるらしいけど、普通は臆病なくらい大人しくて従順な子なんです」
サファルが説明していると、何故かカジャックがぷっと吹き出してきた。吹き出されるようなことを言ったっけかとサファルは怪訝な顔をカジャックへ向けた。
「俺、変なこと言いましたっけ?」
「いや……今の話を聞いていたらお前が浮かんで……」
俺?
ますますポカンとした顔になりながら、サファルは自分の言った言葉を振り返る。だが何が自分を彷彿とさせたのかさっぱり分からない。
「分からないって顔をしてるな」
「え、だって分かりませんよ……俺……あー、もしかして臆病だと思われてます?」
「いや、何故そこなんだ。サファルは案外ネガティブなところあるんだな」
「あんたが絡むとそうなっちゃうんです」
何が自分なのだ、とサファルは振り返ってラバを見る。
馬面……ではないはずだ。自己評価はカジャックが絡まないと甘くなりがちだが、それでも少なくとも馬面ではない。
「……俺、確かにイケメンって訳じゃないかもだけどわりと可愛い顔してると思うんですけど……」
「そこでもない」
カジャックは楽しんでいるのか、また少し笑っている。
「それに確かに可愛いよ。あとちゃんと男らしい顔をしている。安心しろ」
優しく言われ、サファルは「は、はい」と頷きながら顔が熱くなるのが分かった。
「カジャックは絶対天然色男だ……」
「……何だそれ。さっきラバの説明をしてくれた時、優しくて従順って言ってただろ」
「力持ちで臆病とも言いましたよ……」
「確かに力はないな、サファルは。お前は臆病でもないよ。とにかく似てると思ったのは、優しくて従順なのに変なところが頑固で強情だ」
「ラバの話ですよね」
「お前もな」
「俺? 俺、あんたにはそりゃ従順ですけど別に優しくないですよ。普通です。あと頑固でも強情でもないですけど」
「ふふ」
頑固で強情は心外だとばかりに付け足すとまた笑われた。サファルは首を傾げるしかなかった。
そろそろずいぶん涼しくなってきたので朝早くからカジャックとは森で待ち合わせた後に出発していた。それでもクラフォンの町に着くのは昼になる。
「カジャックと一緒に旅行したのは開墾集落跡地以来ですね」
そろそろ町に着くだろう辺りでふと思い出し、サファルはにこにことカジャックを見た。カジャックはまた少し笑っている。
「旅行なのか」
「いやまぁ、今は仕事ですけども……ほら、気持ちの持ちようです」
「……そうだな」
少しサファルをじっと見た後に、カジャックは静かに頷いてきた。
良かった、とサファルは思う。一見、なのかもしれないが、カジャックは落ち着いている。多分森で暮らすようになってから初めて森から出たのではないだろうか。おまけに人間が苦手なのだ。いくらしっかりして大人であるカジャックでも気持ちにゆとりがなくなるのではないかとサファルは心配だった。森を出て暫くはフードを目深に被り無言だったので尚更だ。途中、ちょっとした出来事があってからはいつものように落ち着いた様子になった気がしたので、一応ホッとはしたのだが。
サファルのために付き合ってくれている。これはとてつもなく嬉しいが、やはり申し訳なさと心配でむしろサファルの気持ちが乱れそうだった。だが今のところ、カジャックはひたすら落ち着いている。
改めてホッとしていると、頭の代わりに肩の辺りをぽんぽんと優しく撫でられた。気にしているのがバレバレなのかもしれない。ほんのり微妙な気持ちになりながら、それでもカジャックが落ち着いているなら問題はないとサファルはまた話題を変えながら町へ向かい続けた。
落ち着いていたカジャックだが、さすがに町の出入口に到着すると少し唖然としていた。
「人、多いな」
「出入りするところですし。あ、でも町中も多いです、多分……。で、でもほんと普通にされてたら問題ないです」
「ああ。ありがとう」
「……はい! じゃあとりあえず門番にこれら手渡したら後は問題ないか、と」
落ち着きを見せるようになってからも道中ずっとフードを被っていたカジャックは、特に深く被りなおすこともなくそのまま歩き続けた。
クラフォンの町は王国ではないが、それなりに大きな町だ。ちなみに村はそうではないが、町の多くが城塞都市だ。領主の城を中心としてその周りに家や店があり、一番外側を城壁が囲んでいる。町の外は道路の整備はほぼされておらず足場は悪い。おまけに王国へ向かうよりはマシだが、山賊などの類いがゼロという訳でもない。サファルは安全な道を使っているとはいえ、今朝の「ちょっとした出来事」でもそうだが気を抜いて歩けるほどではなかった。
その城壁に囲まれた出入口はどうしても人で混み合う。クラフォンの町も例外ではない。少し心配しながらカジャックを見ていたが、やはりフードを深く被りなおすこともなく、ただ黙ってサファルについてきていた。
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