銀色の魔物

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74話

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 町へ出掛けてからしばらく経ったある日、カジャックは森の中にあるいつもルーカスと会う場所へ足をのばしていた。

「久しぶりだな」

 そして既に来ていた二人の内、一人に向かって笑いかける。

「うん、お久しぶり、カジャック!」

 リゼはサファルを彷彿とさせるような人懐こい楽しげな笑みをすぐに浮かべてきた。
 例の樹洞にルーカスから手紙が入っていたのは町までサファルに同行した翌々日のことだった。村には字を書けない者も多いとサファルに聞いたことがあるのだが、ルーカスの字は綺麗な綴りだった。ちなみにサファルもさすが商売をしているだけあって読みやすい字を書く。サファルが丁寧な文字を書くことを初めて知った時カジャックは驚いた。知り合ってまだそんなに経っていなかった頃のことだ。馬鹿にしているのではないが一見したところの性格から正直なところサファルは何となく書けないか、書いてもミミズがのたうつような文字を書きそうなイメージを無意識に抱いていたのを思い出す。
 手紙には、リゼが会って話がしたいようなので時間を作ってくれないだろうかと書いてあった。一体何の話だろうと思いながらもカジャックはすぐに返事を書き、樹洞に入れておいた。そして今に至る。

「あとルーカスもほんのり久しぶりだな」
「はは。そうだな、カジャック」

 ルーカスは相変わらず爽やかそうな笑みを満面に浮かべてきた。今日は多分リゼの護衛だろう。ルーカスにしてもサファルにしても、森の中をリゼ一人で絶対に歩かせない。リゼは「私サファルよりは魔力あるんだよ」と言いながらも、二人が本当に心配しての行為だと分かっているから言うことを聞いている。いい関係だなとカジャックは改めて思う。

「時間を作ってくれてありがとう、カジャック」
「問題ない。俺には時間がたくさんある。それにリゼの頼みごとなら尚更だ」
「……これがサファルの言う天然の……」
「え?」
「ううん、何でもないよ。早速だけどいいかな」
「もちろん」
「あ、サンドイッチ作ってきたんだ、三人で食べながら話そ」
「今日はサファルは?」
「村で仕事の手伝いしてるんだ。カジャックに会いに行くってのは知ってるよ。羨ましがってた。でも私がカジャックに話あるってのは知らないんだ」

 リゼの作ったサンドイッチは相変わらず美味しかった。

「サファルに付き合って町まで行ってくれたんだよね、ありがとう、カジャック」
「それも問題ない」
「ううん。カジャックが人間を苦手だと思ってるの、私も知ってるでしょ。きっと問題だらけで大変だったと思う。なのにサファルについてってくれた。本当にありがたいし嬉しいんだ、私」

 リゼはまぶしいほどの笑みを向けてきた。

「俺こそサファルには色々気づかせてもらっていて感謝してる」
「そうなんだ。そう言ってもらえて嬉しいよ。……元はと言えば私がサファルを困らせたからなんだよね」
「リゼの心配はもっともだと思うよ」

 カジャックが言えば、リゼはほんのり困ったように笑ってきた。そして少し俯いてからまた顔を上げてきた。

「カジャックには迷惑かけたしね、私が何で過剰なほど心配なのか、カジャックにも聞いてもらいたいんだ」
「……それは構わないが……、一応サファルからは聞いてる。昔、お前たちの両親が魔物に殺されたからじゃないのか? だからサファルに対しても凄く心配になるんじゃ?」

 少しだけ間があった後に、リゼが小さく笑う。

「うん、そうだね。でもそれだけじゃないよ。……両親が魔物に殺された時、実はサファル、目の前でその様子、見てたらしいんだよ」
「え?」
「カジャック、考えてもみて? もし両親が魔物に殺されたことがトラウマになって私がサファルに対しても過剰に心配するなら、サファルだってそういうことあり得るはずじゃない?」

 じっとカジャックを見つめてくるリゼに、カジャックは少し困惑した。

「それは、確かにまぁ……でもそういうのは人それぞれだろうし……」
 「うん。それはほんとそう。ただ、サファルは前に魔物に襲われてるよね。カジャックが助けてくれなかったら死んでたかもしれない」
「……あー」
「あれもね、両親が魔物に殺されたのが心に根付いてたらもっと注意すると思わない? もしくはサファルのうっかりが過ぎたにしても、もっと意識くらいはしそうじゃない? しかもサファルは目の前で両親の……を見てる」
「まぁ……」
「……サファルね、両親のこと、あまりピンときてないんだ」

 リゼが少し切なそうにまた小さく笑った。

「もちろん冷たい、とかどうでもいい、とかじゃないよ? 私はね、後でルーカスの両親から教えてもらって知った。最初に死んだって聞いた時は悲しくて怖くて、ずっと泣いてた。両親にはもう会えないし、しかもサファルは数日起きてこなかったし。……サファルはね、目の前で魔物がお父さんとお母さんを殺すのを見てた」

 そこで唇をきゅっと閉じて一旦言葉を切ったリゼは、眉を潜めた。だがカジャックが何か言う前にまた続けてくる。

「……何とか魔物を瀕死に追い込んだところでお父さんが先に死んじゃったんだって。そこにルーカスの両親が駆けつけたんだ。瀕死の魔物は倒せたけど、お母さんも……でもお母さんが最後に振り絞った魔法で、サファルからその時の記憶を消したんだって」

 その時たまたまルーカスの家に預けられていたリゼだが、しばらくは詳しい話を聞かされていなかった。ただ、運悪く両親は事故で亡くなってしまったのだと聞いていた。数日後目を覚ましても少し混乱している様子のサファルにはその話すらされていなかったらしい。
 だがしばらくルーカスの家に居候させてもらっていたある日、リゼはルーカスの両親が自分の両親について話しているのを聞いてしまった。
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