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109話
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あまりに幸福で、そしてあまりに盛大なお祝いだったのだが、終わった翌日のサファルは盛大に不調をきたしていた。
「何これ死ぬ……」
「もう。普段お酒強いからって馬鹿みたいに飲んだんだよね?」
「馬鹿じゃないし、リゼのお祝いなんだから限界まで祝うのが当たり前だろ……」
「気持ちは嬉しいけど限界までどころか超してるよそれ……」
言い返しながらも吐きそうになるサファルに、リゼは呆れたような顔をしてきた。
数日後にはこの村をサファルとカジャックは発つ。最初にサファルから話を聞いた時、リゼはまず憤慨してきた。
「そんなの、サファル何も悪くないのに……!」
そんな様子が、分かってはいたがサファルに何があっても味方でいてくれそうな気がして嬉しかった。
「──ということで、別に本当に危険って訳でもなさそうなんだ。でももしかしたらこの村に迷惑がかかるかもしれない。それだけは嫌なんだ。だからほとぼりが冷めるまで旅に出るよ」
リゼに、とは言わなかった。言ったらリゼは全力で否定し、旅に出るのも反対してきそうだとサファルは思った。
「だってそんな……それこそ危険じゃないの」
「そんなことないよ。向こうは基本的に今すぐ俺をどうこうしようと思ってる訳じゃなさそうだし、旅の危険はカジャックがいる限り俺は心配してない。……足手まといにはなりそうだけど……」
それにカジャックと二人で色んなとこを見てまわるなんて、最高に幸せじゃないか──
サファルがにっこりと言えば、リゼは「それは……うん、そうだね」とようやく頷いてくれた。
ルーカスにはカジャックが話してくれたようだ。後でルーカスがまたサファルをぎゅっと抱きしめてきた。
「何で」
「俺の可愛い弟としばらく会えなくなるんだ、当たり前だろ」
「……そういえば、ある意味本当の兄弟になるんだな、俺たち」
旅の話をした時はまだ結婚式を挙げていなかったがそう言うと、ルーカスが「ああ」と温かい笑みを向けてきた。
「だからいつでも、何があってもお前の帰る場所はここだからな」
「……うん。うん、ルーカス」
そのルーカスは今日、カジャックと共に村の修復作業で出ているらしい。
「結婚式の翌日まで……」
「翌日だろうと一日も早く村を復興したいと考える人じゃない、ルーカスは。私も後でグレアムさんのとこ行って子どもの面倒見てくるよ。サファルもルーカス、見習ったら」
「……二日酔いがどうにかなってくれたら見習う……」
「サファルらしい」
もう、と笑うリゼにサファルは手を伸ばした。横になっているサファルにリゼが屈み込む。
「でも新婚さん二人で過ごして欲しいな、お兄ちゃんとしては」
「大丈夫だよ。来週の週末はなんと、クラフォンへ連れて行ってくれるんだ」
「ほんとか。でもどうやって? 徒歩は駄目だぞ。半日かかるしたまに盗賊もいるんだから」
それもあって、サファルは仕事でちょくちょく向かっているクラフォンへはリゼを連れて行ったことがなかった。
「えへへ。馬車を借りてくれるんだって」
「凄いじゃないか! ルーカスのやつ、木石漢だと思ってたら、やるなぁ」
馬車なら高くつくが、それだけ早いし安全だ。それでも襲われない保証はないが、確率は低いし最悪襲われても逃げやすい。その上ルーカスだ。ルーカスにかなう剣の使い手などそうはいない。
サファルまで嬉しくなり、二日酔いもマシになった気がした。
「でもその時にはもう、サファルいないんだなぁ……」
「リゼ……。でもたまに帰ってくるから。色んな国のお土産持ってさ」
「あ、それは楽しみかも」
「俺より土産が楽しみなのか」
「えへへ。仕方ないでしょ。だからサファルは度々お土産持って帰って来ないと駄目だよ」
リゼは言いながら、冷たく濡らした布をサファルの額に置いてきた。
「……うん。あ、そうだ……それに次帰ってきたらもう、赤ちゃんいるかもしれないんだよな」
「……そ、それは分かんないけど!」
「どっちだろなー。どっちでもいけそうなお土産考えないとな。新しい楽しみ出来たかも」
「知らないよ!」
「あー、赤ちゃん……生まれたらアルゴさんがおじいちゃんぶってめちゃくちゃここへやって来そう。あの人ほんっと孫、って言えるのか……? 欲しそうなんだよなー……」
「だから! まだ出来てもないのに何でそんな話になるかな!」
リゼが久しぶりに意地っ張りなところを見せてきた。多分盛大に恥ずかしがっているんだろうなとサファルは冷たい布の下でそっと微笑んだ。
「楽しみにさせてくれよー」
「……もう。だったら絶対、何度も様子見に無事な姿見せるんだよ、分かった?」
その言葉にサファルが両手を差しのべると、リゼがぎゅっと抱きしめてきた。サファルも抱き返す。横になって少しの間、二人でそのまま過ごしていた。
数日後、皆に見送られながらサファルとカジャックは村を出た。カジャックが持ってきた食料などはルーカスが村人に分配していた。サファルの持ち物であるラバは引き続きルーカスの家で可愛がってくれるようだ。
「……寂しいか?」
歩きながらカジャックに聞かれ、サファルは笑みを向けた。
「寂しくないと言えば嘘ですけど……でもね、わくわくもしてるんです」
「わくわく?」
「はい。カジャックと二人で旅をするんですよ? わくわくもします。以前、えーっと、結局ジンさんの故郷なんでしたっけ……魔法で作られた町。そこへ一緒に行ったじゃないですか」
「ああ」
「あの時もね、旅みたいだなってわくわくしてました」
「跡地は不吉だと言われてるらしいのに?」
「それにも増して楽しみだったんですよ、あんたと一緒に向かうのが。だからこれからも大変なことや怖いことだってあるかもしれませんが、楽しみです」
「……そうだな、俺もだ」
カジャックが優しい笑みを向けてくれた。
「俺、もう俺のせいだって言わないです」
「それでいい。お前のせいではないからな」
「何これ死ぬ……」
「もう。普段お酒強いからって馬鹿みたいに飲んだんだよね?」
「馬鹿じゃないし、リゼのお祝いなんだから限界まで祝うのが当たり前だろ……」
「気持ちは嬉しいけど限界までどころか超してるよそれ……」
言い返しながらも吐きそうになるサファルに、リゼは呆れたような顔をしてきた。
数日後にはこの村をサファルとカジャックは発つ。最初にサファルから話を聞いた時、リゼはまず憤慨してきた。
「そんなの、サファル何も悪くないのに……!」
そんな様子が、分かってはいたがサファルに何があっても味方でいてくれそうな気がして嬉しかった。
「──ということで、別に本当に危険って訳でもなさそうなんだ。でももしかしたらこの村に迷惑がかかるかもしれない。それだけは嫌なんだ。だからほとぼりが冷めるまで旅に出るよ」
リゼに、とは言わなかった。言ったらリゼは全力で否定し、旅に出るのも反対してきそうだとサファルは思った。
「だってそんな……それこそ危険じゃないの」
「そんなことないよ。向こうは基本的に今すぐ俺をどうこうしようと思ってる訳じゃなさそうだし、旅の危険はカジャックがいる限り俺は心配してない。……足手まといにはなりそうだけど……」
それにカジャックと二人で色んなとこを見てまわるなんて、最高に幸せじゃないか──
サファルがにっこりと言えば、リゼは「それは……うん、そうだね」とようやく頷いてくれた。
ルーカスにはカジャックが話してくれたようだ。後でルーカスがまたサファルをぎゅっと抱きしめてきた。
「何で」
「俺の可愛い弟としばらく会えなくなるんだ、当たり前だろ」
「……そういえば、ある意味本当の兄弟になるんだな、俺たち」
旅の話をした時はまだ結婚式を挙げていなかったがそう言うと、ルーカスが「ああ」と温かい笑みを向けてきた。
「だからいつでも、何があってもお前の帰る場所はここだからな」
「……うん。うん、ルーカス」
そのルーカスは今日、カジャックと共に村の修復作業で出ているらしい。
「結婚式の翌日まで……」
「翌日だろうと一日も早く村を復興したいと考える人じゃない、ルーカスは。私も後でグレアムさんのとこ行って子どもの面倒見てくるよ。サファルもルーカス、見習ったら」
「……二日酔いがどうにかなってくれたら見習う……」
「サファルらしい」
もう、と笑うリゼにサファルは手を伸ばした。横になっているサファルにリゼが屈み込む。
「でも新婚さん二人で過ごして欲しいな、お兄ちゃんとしては」
「大丈夫だよ。来週の週末はなんと、クラフォンへ連れて行ってくれるんだ」
「ほんとか。でもどうやって? 徒歩は駄目だぞ。半日かかるしたまに盗賊もいるんだから」
それもあって、サファルは仕事でちょくちょく向かっているクラフォンへはリゼを連れて行ったことがなかった。
「えへへ。馬車を借りてくれるんだって」
「凄いじゃないか! ルーカスのやつ、木石漢だと思ってたら、やるなぁ」
馬車なら高くつくが、それだけ早いし安全だ。それでも襲われない保証はないが、確率は低いし最悪襲われても逃げやすい。その上ルーカスだ。ルーカスにかなう剣の使い手などそうはいない。
サファルまで嬉しくなり、二日酔いもマシになった気がした。
「でもその時にはもう、サファルいないんだなぁ……」
「リゼ……。でもたまに帰ってくるから。色んな国のお土産持ってさ」
「あ、それは楽しみかも」
「俺より土産が楽しみなのか」
「えへへ。仕方ないでしょ。だからサファルは度々お土産持って帰って来ないと駄目だよ」
リゼは言いながら、冷たく濡らした布をサファルの額に置いてきた。
「……うん。あ、そうだ……それに次帰ってきたらもう、赤ちゃんいるかもしれないんだよな」
「……そ、それは分かんないけど!」
「どっちだろなー。どっちでもいけそうなお土産考えないとな。新しい楽しみ出来たかも」
「知らないよ!」
「あー、赤ちゃん……生まれたらアルゴさんがおじいちゃんぶってめちゃくちゃここへやって来そう。あの人ほんっと孫、って言えるのか……? 欲しそうなんだよなー……」
「だから! まだ出来てもないのに何でそんな話になるかな!」
リゼが久しぶりに意地っ張りなところを見せてきた。多分盛大に恥ずかしがっているんだろうなとサファルは冷たい布の下でそっと微笑んだ。
「楽しみにさせてくれよー」
「……もう。だったら絶対、何度も様子見に無事な姿見せるんだよ、分かった?」
その言葉にサファルが両手を差しのべると、リゼがぎゅっと抱きしめてきた。サファルも抱き返す。横になって少しの間、二人でそのまま過ごしていた。
数日後、皆に見送られながらサファルとカジャックは村を出た。カジャックが持ってきた食料などはルーカスが村人に分配していた。サファルの持ち物であるラバは引き続きルーカスの家で可愛がってくれるようだ。
「……寂しいか?」
歩きながらカジャックに聞かれ、サファルは笑みを向けた。
「寂しくないと言えば嘘ですけど……でもね、わくわくもしてるんです」
「わくわく?」
「はい。カジャックと二人で旅をするんですよ? わくわくもします。以前、えーっと、結局ジンさんの故郷なんでしたっけ……魔法で作られた町。そこへ一緒に行ったじゃないですか」
「ああ」
「あの時もね、旅みたいだなってわくわくしてました」
「跡地は不吉だと言われてるらしいのに?」
「それにも増して楽しみだったんですよ、あんたと一緒に向かうのが。だからこれからも大変なことや怖いことだってあるかもしれませんが、楽しみです」
「……そうだな、俺もだ」
カジャックが優しい笑みを向けてくれた。
「俺、もう俺のせいだって言わないです」
「それでいい。お前のせいではないからな」
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