銀色の魔物

Guidepost

文字の大きさ
116 / 137

115話

しおりを挟む
 途中何度も野宿したり、時には立ち寄った村に宿泊させてもらえるところがあれば宿泊し、サファルとカジャックはようやくフィート王国にたどり着いた。フィートの王国領に入ってからの村でも感じたことだが、ここの国の人々は明るい。
いや、サファルたちの国であるクエンティも明るくない訳ではない。少なくともサファルが知っている人たちは大抵明るい人が多いが、何となくタイプが違うように感じた。

「ついでにオレンジもどうだい、可愛い人」
「可愛いね。あなたの髪にこれ、とても似合うよ」

 村でも似たようなことはあったが、王国についてからもサファルが食料をいくつか買おうとした際に幾度もさらりとそんな風に言われた。確かに格好がいいよりは可愛い寄りだと把握しているが、サファルもさすがに自分が平凡な域を出ていないことくらい分かっている。いっそリゼのように女性だったらサファルももしかしたら本当に可愛かったかもしれない。とはいえ別に容姿で悩んだことはないのでサファルも「ありがとう、でもそれはいらないよ」とにこやかに返した。
 何にせよ、商売だからにしてもクラフォンの町ですらそんなタイプの人は特にいなかった気がする。
 あと、方角で言えばクエンティのほうがより南側ではあるからか、フィートの人は全体的にそこそこ背の高い人が多い。それもあってか、さらりとかけてくる言葉が板についているというか、自然に聞こえてくる。

「情熱的なんでしょうか」
「……さあ。でも確かにサファルは可愛いよ」
「……あんたから言われると駄目……」
「は?」
「他の人に言われても笑ってありがとうって返せますけど、あんたから言われたらドキドキします」
「そんなものなのか」

 王国だけにようやくちゃんとした宿屋を見つけたものの、ここのところあまり獲物にありつけなかったのもあり少し小腹を満たしたかったサファルは一人で買い物をしていた。一緒に行くと言ってくれたカジャックにはだが先に部屋へ行ってもらっていた。
 本当なら一緒に買い物したいなと思うが、いくら随分人に慣れたとはいえ王国での賑わいはさすがにカジャックにとってきついのではないかと考えたからだ。サファルも自分の国であるクエンティ王国にすら足を踏み入れたことがないので、王国での賑わいがせめてどんなものなのか先に把握しておきたかった。
 いつもなら「お前が心配だから」とついてきそうなカジャックはだが案外素直に「分かった」と頷いていた。
 旅に出た理由はサファルが狙われている可能性があるという理由ではあるが、実際明確に狙われているまではいかない上にさすがに顔は割れていない。もしかしたらラーザ村に来たクエンティの使者の中に「敵」はいたかもしれないため一部の者には知られているかもしれないが、基本的には「敵」に知られているのは「サファル」という名前の魔法の使い手だ。もちろんあのまま村にいれば存在はバレバレだがこうして見知らぬ土地にいるサファルはただの一旅人でしかない。
 それにサファルは元々商人だ。今まで一人で村と町を行き来していた。恋人に付き添われなければどこへも行けない扱いは全く必要がない。それでも普段なら「心配だから」と言いそうだけに、多分カジャックにはサファルの考えなどバレバレなのだろうなと内心苦笑しながら市場へ向かった。そして人の多さや活気もさることながら、そういった「お国柄」というのだろうか、雰囲気の違いにサファルは驚いていた。

「だがそういう人柄が多いならやはり心配だな」

 戻ってきてカジャックに話しているとそう言われ、サファルは首を傾げた。

「何がです?」
「お前に言いよる者も少なくないということになる」
「……あは。カジャック、可愛いとか言ってくるのはお世辞というか、商売の一環ですよ」
「そうとも限らない」
「でも俺、実際のところ可愛くはないですよ。そりゃカッコいいよりは可愛い寄りだろうなくらいは思いますけど。商人として冷静に考えてもせいぜい中の中の中の、上くらいです」
「そうは思わないし、どのみち外見だけじゃない。お前と話せば皆お前が可愛く思うはずだ」

 カジャックにそう思ってもらえて嬉しさもかなりあるが、それはどう考えても「好きになった欲目」みたいなものだとサファルは苦笑した。

「カジャック、思い出してみてください。あんたが俺のこと好きでなかった頃のこと。別に俺のこと可愛いなんて思わなかったでしょう? 至って普通の男にしか見えてなかったでしょ」
「元々俺はアルゴの企みもあって男に対してそういう感情を抱くものではないと考えていたし、多分今でも他の男に対してそういう目線では見られない。だがお前が可愛いからこそそんな俺すら好きになった訳だろ」
「……俺、口説かれてます?」
「そういう訳ではないが……俺の考えだ」

 顔が熱い。大好きな相手にそう言ってもらえて平然と出来る男などいないのではないだろうか。ただでさえ男は単純だというのにとサファルは部屋の窓を開けた。少しひんやりとした風が入ってくる。旅に出たのはまだ春先だったというのにそろそろ随分暖かくなってはきている。だが風はまだ少し冷たかったりする。それが今はサファルにとって少々ありがたい。

「そんな風に思ってもらえて、言っていただけて、すごく嬉しいですけどほんと俺、普通だと思いますよ」
「……ルーカスにも度々叱られてたと思うが」
「え、何の話?」
「自覚がない、と」

 確かにもう少し気を付けろ云々とはよく言われていたが「自覚」とはとサファルは首を傾げた。

「自覚というか、気を付けろ的なことは……」
「何に?」
「え?」
「何に気を付けろと言われていた?」
「え、えーっと、よく分からないですが周りというか、何か対応? 何かそういったその、何か」

 サファルが何とか答えるとため息を吐かれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...