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115話
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途中何度も野宿したり、時には立ち寄った村に宿泊させてもらえるところがあれば宿泊し、サファルとカジャックはようやくフィート王国にたどり着いた。フィートの王国領に入ってからの村でも感じたことだが、ここの国の人々は明るい。
いや、サファルたちの国であるクエンティも明るくない訳ではない。少なくともサファルが知っている人たちは大抵明るい人が多いが、何となくタイプが違うように感じた。
「ついでにオレンジもどうだい、可愛い人」
「可愛いね。あなたの髪にこれ、とても似合うよ」
村でも似たようなことはあったが、王国についてからもサファルが食料をいくつか買おうとした際に幾度もさらりとそんな風に言われた。確かに格好がいいよりは可愛い寄りだと把握しているが、サファルもさすがに自分が平凡な域を出ていないことくらい分かっている。いっそリゼのように女性だったらサファルももしかしたら本当に可愛かったかもしれない。とはいえ別に容姿で悩んだことはないのでサファルも「ありがとう、でもそれはいらないよ」とにこやかに返した。
何にせよ、商売だからにしてもクラフォンの町ですらそんなタイプの人は特にいなかった気がする。
あと、方角で言えばクエンティのほうがより南側ではあるからか、フィートの人は全体的にそこそこ背の高い人が多い。それもあってか、さらりとかけてくる言葉が板についているというか、自然に聞こえてくる。
「情熱的なんでしょうか」
「……さあ。でも確かにサファルは可愛いよ」
「……あんたから言われると駄目……」
「は?」
「他の人に言われても笑ってありがとうって返せますけど、あんたから言われたらドキドキします」
「そんなものなのか」
王国だけにようやくちゃんとした宿屋を見つけたものの、ここのところあまり獲物にありつけなかったのもあり少し小腹を満たしたかったサファルは一人で買い物をしていた。一緒に行くと言ってくれたカジャックにはだが先に部屋へ行ってもらっていた。
本当なら一緒に買い物したいなと思うが、いくら随分人に慣れたとはいえ王国での賑わいはさすがにカジャックにとってきついのではないかと考えたからだ。サファルも自分の国であるクエンティ王国にすら足を踏み入れたことがないので、王国での賑わいがせめてどんなものなのか先に把握しておきたかった。
いつもなら「お前が心配だから」とついてきそうなカジャックはだが案外素直に「分かった」と頷いていた。
旅に出た理由はサファルが狙われている可能性があるという理由ではあるが、実際明確に狙われているまではいかない上にさすがに顔は割れていない。もしかしたらラーザ村に来たクエンティの使者の中に「敵」はいたかもしれないため一部の者には知られているかもしれないが、基本的には「敵」に知られているのは「サファル」という名前の魔法の使い手だ。もちろんあのまま村にいれば存在はバレバレだがこうして見知らぬ土地にいるサファルはただの一旅人でしかない。
それにサファルは元々商人だ。今まで一人で村と町を行き来していた。恋人に付き添われなければどこへも行けない扱いは全く必要がない。それでも普段なら「心配だから」と言いそうだけに、多分カジャックにはサファルの考えなどバレバレなのだろうなと内心苦笑しながら市場へ向かった。そして人の多さや活気もさることながら、そういった「お国柄」というのだろうか、雰囲気の違いにサファルは驚いていた。
「だがそういう人柄が多いならやはり心配だな」
戻ってきてカジャックに話しているとそう言われ、サファルは首を傾げた。
「何がです?」
「お前に言いよる者も少なくないということになる」
「……あは。カジャック、可愛いとか言ってくるのはお世辞というか、商売の一環ですよ」
「そうとも限らない」
「でも俺、実際のところ可愛くはないですよ。そりゃカッコいいよりは可愛い寄りだろうなくらいは思いますけど。商人として冷静に考えてもせいぜい中の中の中の、上くらいです」
「そうは思わないし、どのみち外見だけじゃない。お前と話せば皆お前が可愛く思うはずだ」
カジャックにそう思ってもらえて嬉しさもかなりあるが、それはどう考えても「好きになった欲目」みたいなものだとサファルは苦笑した。
「カジャック、思い出してみてください。あんたが俺のこと好きでなかった頃のこと。別に俺のこと可愛いなんて思わなかったでしょう? 至って普通の男にしか見えてなかったでしょ」
「元々俺はアルゴの企みもあって男に対してそういう感情を抱くものではないと考えていたし、多分今でも他の男に対してそういう目線では見られない。だがお前が可愛いからこそそんな俺すら好きになった訳だろ」
「……俺、口説かれてます?」
「そういう訳ではないが……俺の考えだ」
顔が熱い。大好きな相手にそう言ってもらえて平然と出来る男などいないのではないだろうか。ただでさえ男は単純だというのにとサファルは部屋の窓を開けた。少しひんやりとした風が入ってくる。旅に出たのはまだ春先だったというのにそろそろ随分暖かくなってはきている。だが風はまだ少し冷たかったりする。それが今はサファルにとって少々ありがたい。
「そんな風に思ってもらえて、言っていただけて、すごく嬉しいですけどほんと俺、普通だと思いますよ」
「……ルーカスにも度々叱られてたと思うが」
「え、何の話?」
「自覚がない、と」
確かにもう少し気を付けろ云々とはよく言われていたが「自覚」とはとサファルは首を傾げた。
「自覚というか、気を付けろ的なことは……」
「何に?」
「え?」
「何に気を付けろと言われていた?」
「え、えーっと、よく分からないですが周りというか、何か対応? 何かそういったその、何か」
サファルが何とか答えるとため息を吐かれた。
いや、サファルたちの国であるクエンティも明るくない訳ではない。少なくともサファルが知っている人たちは大抵明るい人が多いが、何となくタイプが違うように感じた。
「ついでにオレンジもどうだい、可愛い人」
「可愛いね。あなたの髪にこれ、とても似合うよ」
村でも似たようなことはあったが、王国についてからもサファルが食料をいくつか買おうとした際に幾度もさらりとそんな風に言われた。確かに格好がいいよりは可愛い寄りだと把握しているが、サファルもさすがに自分が平凡な域を出ていないことくらい分かっている。いっそリゼのように女性だったらサファルももしかしたら本当に可愛かったかもしれない。とはいえ別に容姿で悩んだことはないのでサファルも「ありがとう、でもそれはいらないよ」とにこやかに返した。
何にせよ、商売だからにしてもクラフォンの町ですらそんなタイプの人は特にいなかった気がする。
あと、方角で言えばクエンティのほうがより南側ではあるからか、フィートの人は全体的にそこそこ背の高い人が多い。それもあってか、さらりとかけてくる言葉が板についているというか、自然に聞こえてくる。
「情熱的なんでしょうか」
「……さあ。でも確かにサファルは可愛いよ」
「……あんたから言われると駄目……」
「は?」
「他の人に言われても笑ってありがとうって返せますけど、あんたから言われたらドキドキします」
「そんなものなのか」
王国だけにようやくちゃんとした宿屋を見つけたものの、ここのところあまり獲物にありつけなかったのもあり少し小腹を満たしたかったサファルは一人で買い物をしていた。一緒に行くと言ってくれたカジャックにはだが先に部屋へ行ってもらっていた。
本当なら一緒に買い物したいなと思うが、いくら随分人に慣れたとはいえ王国での賑わいはさすがにカジャックにとってきついのではないかと考えたからだ。サファルも自分の国であるクエンティ王国にすら足を踏み入れたことがないので、王国での賑わいがせめてどんなものなのか先に把握しておきたかった。
いつもなら「お前が心配だから」とついてきそうなカジャックはだが案外素直に「分かった」と頷いていた。
旅に出た理由はサファルが狙われている可能性があるという理由ではあるが、実際明確に狙われているまではいかない上にさすがに顔は割れていない。もしかしたらラーザ村に来たクエンティの使者の中に「敵」はいたかもしれないため一部の者には知られているかもしれないが、基本的には「敵」に知られているのは「サファル」という名前の魔法の使い手だ。もちろんあのまま村にいれば存在はバレバレだがこうして見知らぬ土地にいるサファルはただの一旅人でしかない。
それにサファルは元々商人だ。今まで一人で村と町を行き来していた。恋人に付き添われなければどこへも行けない扱いは全く必要がない。それでも普段なら「心配だから」と言いそうだけに、多分カジャックにはサファルの考えなどバレバレなのだろうなと内心苦笑しながら市場へ向かった。そして人の多さや活気もさることながら、そういった「お国柄」というのだろうか、雰囲気の違いにサファルは驚いていた。
「だがそういう人柄が多いならやはり心配だな」
戻ってきてカジャックに話しているとそう言われ、サファルは首を傾げた。
「何がです?」
「お前に言いよる者も少なくないということになる」
「……あは。カジャック、可愛いとか言ってくるのはお世辞というか、商売の一環ですよ」
「そうとも限らない」
「でも俺、実際のところ可愛くはないですよ。そりゃカッコいいよりは可愛い寄りだろうなくらいは思いますけど。商人として冷静に考えてもせいぜい中の中の中の、上くらいです」
「そうは思わないし、どのみち外見だけじゃない。お前と話せば皆お前が可愛く思うはずだ」
カジャックにそう思ってもらえて嬉しさもかなりあるが、それはどう考えても「好きになった欲目」みたいなものだとサファルは苦笑した。
「カジャック、思い出してみてください。あんたが俺のこと好きでなかった頃のこと。別に俺のこと可愛いなんて思わなかったでしょう? 至って普通の男にしか見えてなかったでしょ」
「元々俺はアルゴの企みもあって男に対してそういう感情を抱くものではないと考えていたし、多分今でも他の男に対してそういう目線では見られない。だがお前が可愛いからこそそんな俺すら好きになった訳だろ」
「……俺、口説かれてます?」
「そういう訳ではないが……俺の考えだ」
顔が熱い。大好きな相手にそう言ってもらえて平然と出来る男などいないのではないだろうか。ただでさえ男は単純だというのにとサファルは部屋の窓を開けた。少しひんやりとした風が入ってくる。旅に出たのはまだ春先だったというのにそろそろ随分暖かくなってはきている。だが風はまだ少し冷たかったりする。それが今はサファルにとって少々ありがたい。
「そんな風に思ってもらえて、言っていただけて、すごく嬉しいですけどほんと俺、普通だと思いますよ」
「……ルーカスにも度々叱られてたと思うが」
「え、何の話?」
「自覚がない、と」
確かにもう少し気を付けろ云々とはよく言われていたが「自覚」とはとサファルは首を傾げた。
「自覚というか、気を付けろ的なことは……」
「何に?」
「え?」
「何に気を付けろと言われていた?」
「え、えーっと、よく分からないですが周りというか、何か対応? 何かそういったその、何か」
サファルが何とか答えるとため息を吐かれた。
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