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117話
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フィートは美術が盛んだとはサファルも噂で聞いていた。商人といえども庶民が対象であるサファルが目の当たりにする機会はそうなかったが、たまに入ってくるのを見かけた絵画なども大抵はフィート出身の画家のものだった。
「絵はさ、俺全然描けないけど、こういう工芸品はね、もちろん質が違うけど俺も作ってたから凄く興味あるんだ」
最初はサファルのつけている指輪や腕輪に店主は関心を示してきた。指輪はカジャックが作ったと告げると「君はよくこういった作品を作るのか」といったことをカジャックに直接聞いていた。
「……いや。それは何度も作り直したし基本的に俺はこういったものに詳しくない」
「こんなに素晴らしい作品を作るのに?」
「たまたまだ。その彼に……気に入ってもらいたい一心だった」
「なるほど」
その後、サファルが興味を持ついくつかの工芸品を知ると、何故か喜んでくれた店主は「そうかそうか」と更に色んな美術品を見せてくれた。
「凄い……見てください、カジャック。これも、こんな繊細な彫り物してる……」
「そうだな」
「……あ」
「どうした?」
「いえ……、すみません。俺、夢中になってた」
「何故謝る?」
カジャックは本当に分からないといった風に首を傾げてきた。
「俺ばっか楽しんでるかも、だから、ですかね……」
「俺も楽しいよ」
「ほんと?」
「ああ。美術のことは正直俺にはよく分からないが、好きなものに触れて目を輝かせているお前を見るのが楽しい」
以前、カジャックは「口下手だしお前に甘い言葉もかけてやれないと思う」と言っていたことがある。サファルが「愛してる」と確か口にした時だったかと思う。
「愛してるって言えないってことですか?」
「そう、だな。もちろんお前がとても好きだし大切だ。だけど甘い言葉はどうも苦手で」
「そんなの構いませんよ! だって口にしなくてもあんた、俺のことめちゃくちゃ大切にしてくれてるの分かります」
そんな会話をした。今一度それを思い出し、サファルは顔が少し熱くなりながら思う。
直接的な言葉が苦手にしても、めちゃくちゃカジャック、いつも甘い言葉吐いてない?
確かに愛していると言われたことはない。サファルのこういうところがまるで蜜で出来たケーキのように甘くて愛しい、などといったそれこそ甘い比喩なども使ってはこない。 気さくに「可愛いね」とも言わない。
ただ真顔でなら「可愛いよ」とは言うし、今のように「こういうところが楽しい」「こういうところが好きだ」と見て思ってくれたことをいっそ淡々とは口にする。 それがあまりにカジャックらしくて、あまりにサファルにとって甘い。
「恋人? とても素敵な相手だね」
座っているのが駄目なのかとぶらぶら歩き始めたカジャックを目で追っていると、今まで美術品などを快く見せてくれていた店主がにっこりとサファルに言ってきた。
「うん。俺にはもったいなさ過ぎるくらい最高の人だよ」
「なら私もここでようやく商売っ気を出そうかな。愛しい人に、この貴重な石はいかが」
「……わあ、銀色だ。でも銀とも違う……」
小さな塊は鈍い銀色に光っていた。こんな石を見たことがなくて、サファルは思わず息を飲んで店主の見せてきた石を眺める。
「ギベオンというメテオライトだよ」
「メテオ……? 空の彼方から落ちてきたっていう?」
「ええ」
神話に詳しくないサファルも、色んな噂や気軽に語られてきた話なら知っている。
広い空の上には更に別の世界があって、別の生き物がいるのだという。メテオライトはそんな上から滅多にないが落ちてきた火の石だと昔誰かに聞いたことがあった。
「でも燃えてないよ」
「落ちてくる時に摩擦で燃えるんだそうだよ。その後、燃え尽きて残ったものがこういった石だ」
「……すごい。どんな素材なんだろう。銀細工とも何か違うんだね。あ、待って、でもごめん。俺には到底買えないよ」
「はは。悪いけどそれは君を見たら分かるかな」
「……あは。そうだろな」
確かにどう見てもサファルは金を持ってそうには見えない。まだカジャックのほうがましだろう。
「なら何で俺に言うの?」
「君に興味が湧いてね」
「俺っ? 何で……あ、えっと、俺、恋人以外とは変な関係になれないよ?」
「あはは。流石に私は君とそういう関係を結ぶには年を取っているよ。そういう意味じゃない。君の作品が見てみたいんだ」
「お、俺?」
「君は旅をしてるとはいえ、しばらくはここに滞在するのだろう。無理にとは言わない。だがよければ君の作る工芸品を今度、見せて欲しい。それに応じて勿論報酬は払うよ。もしかしたらこの石だって買えるかもしれないだろう?」
「ほ、本気で言ってる?」
「もちろん。私はいつもこの店にいるので、いつでもよかったら来ておくれ」
店を出た後にカジャックが「何も欲しいものはなかったのか」と聞いてきた。
「ありましたよ」
「何だ、なら言えばいいじゃないか。とりあえず引き返そう」
「え、何でですか」
「買いに戻ろう」
「お金さすがに余裕ありませんよー」
「大丈夫、俺が持ってる」
あまりに当たり前のように言われ、サファルはぽかんとした。だがカジャックがわざわざ冗談を言うはずもないので、よく分からないが持っていると言うなら持っているのだろう。
「ならそれはあんたが欲しいものに使ってください」
「俺が欲しいのはお前が嬉しそうにする顔や満足そうな様子だよ」
このイケメンはほんと……。
「とりあえず、ならそのお金は大切に持っててください」
そしてメテオライトのこと以外、先ほど言われたことをサファルはカジャックに伝えた。
「絵はさ、俺全然描けないけど、こういう工芸品はね、もちろん質が違うけど俺も作ってたから凄く興味あるんだ」
最初はサファルのつけている指輪や腕輪に店主は関心を示してきた。指輪はカジャックが作ったと告げると「君はよくこういった作品を作るのか」といったことをカジャックに直接聞いていた。
「……いや。それは何度も作り直したし基本的に俺はこういったものに詳しくない」
「こんなに素晴らしい作品を作るのに?」
「たまたまだ。その彼に……気に入ってもらいたい一心だった」
「なるほど」
その後、サファルが興味を持ついくつかの工芸品を知ると、何故か喜んでくれた店主は「そうかそうか」と更に色んな美術品を見せてくれた。
「凄い……見てください、カジャック。これも、こんな繊細な彫り物してる……」
「そうだな」
「……あ」
「どうした?」
「いえ……、すみません。俺、夢中になってた」
「何故謝る?」
カジャックは本当に分からないといった風に首を傾げてきた。
「俺ばっか楽しんでるかも、だから、ですかね……」
「俺も楽しいよ」
「ほんと?」
「ああ。美術のことは正直俺にはよく分からないが、好きなものに触れて目を輝かせているお前を見るのが楽しい」
以前、カジャックは「口下手だしお前に甘い言葉もかけてやれないと思う」と言っていたことがある。サファルが「愛してる」と確か口にした時だったかと思う。
「愛してるって言えないってことですか?」
「そう、だな。もちろんお前がとても好きだし大切だ。だけど甘い言葉はどうも苦手で」
「そんなの構いませんよ! だって口にしなくてもあんた、俺のことめちゃくちゃ大切にしてくれてるの分かります」
そんな会話をした。今一度それを思い出し、サファルは顔が少し熱くなりながら思う。
直接的な言葉が苦手にしても、めちゃくちゃカジャック、いつも甘い言葉吐いてない?
確かに愛していると言われたことはない。サファルのこういうところがまるで蜜で出来たケーキのように甘くて愛しい、などといったそれこそ甘い比喩なども使ってはこない。 気さくに「可愛いね」とも言わない。
ただ真顔でなら「可愛いよ」とは言うし、今のように「こういうところが楽しい」「こういうところが好きだ」と見て思ってくれたことをいっそ淡々とは口にする。 それがあまりにカジャックらしくて、あまりにサファルにとって甘い。
「恋人? とても素敵な相手だね」
座っているのが駄目なのかとぶらぶら歩き始めたカジャックを目で追っていると、今まで美術品などを快く見せてくれていた店主がにっこりとサファルに言ってきた。
「うん。俺にはもったいなさ過ぎるくらい最高の人だよ」
「なら私もここでようやく商売っ気を出そうかな。愛しい人に、この貴重な石はいかが」
「……わあ、銀色だ。でも銀とも違う……」
小さな塊は鈍い銀色に光っていた。こんな石を見たことがなくて、サファルは思わず息を飲んで店主の見せてきた石を眺める。
「ギベオンというメテオライトだよ」
「メテオ……? 空の彼方から落ちてきたっていう?」
「ええ」
神話に詳しくないサファルも、色んな噂や気軽に語られてきた話なら知っている。
広い空の上には更に別の世界があって、別の生き物がいるのだという。メテオライトはそんな上から滅多にないが落ちてきた火の石だと昔誰かに聞いたことがあった。
「でも燃えてないよ」
「落ちてくる時に摩擦で燃えるんだそうだよ。その後、燃え尽きて残ったものがこういった石だ」
「……すごい。どんな素材なんだろう。銀細工とも何か違うんだね。あ、待って、でもごめん。俺には到底買えないよ」
「はは。悪いけどそれは君を見たら分かるかな」
「……あは。そうだろな」
確かにどう見てもサファルは金を持ってそうには見えない。まだカジャックのほうがましだろう。
「なら何で俺に言うの?」
「君に興味が湧いてね」
「俺っ? 何で……あ、えっと、俺、恋人以外とは変な関係になれないよ?」
「あはは。流石に私は君とそういう関係を結ぶには年を取っているよ。そういう意味じゃない。君の作品が見てみたいんだ」
「お、俺?」
「君は旅をしてるとはいえ、しばらくはここに滞在するのだろう。無理にとは言わない。だがよければ君の作る工芸品を今度、見せて欲しい。それに応じて勿論報酬は払うよ。もしかしたらこの石だって買えるかもしれないだろう?」
「ほ、本気で言ってる?」
「もちろん。私はいつもこの店にいるので、いつでもよかったら来ておくれ」
店を出た後にカジャックが「何も欲しいものはなかったのか」と聞いてきた。
「ありましたよ」
「何だ、なら言えばいいじゃないか。とりあえず引き返そう」
「え、何でですか」
「買いに戻ろう」
「お金さすがに余裕ありませんよー」
「大丈夫、俺が持ってる」
あまりに当たり前のように言われ、サファルはぽかんとした。だがカジャックがわざわざ冗談を言うはずもないので、よく分からないが持っていると言うなら持っているのだろう。
「ならそれはあんたが欲しいものに使ってください」
「俺が欲しいのはお前が嬉しそうにする顔や満足そうな様子だよ」
このイケメンはほんと……。
「とりあえず、ならそのお金は大切に持っててください」
そしてメテオライトのこと以外、先ほど言われたことをサファルはカジャックに伝えた。
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