銀色の魔物

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119話

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 かなり規模の大きな橋は「ワントウール橋」という名前で、辺境の村から出なければサファルが知ることはなかっただろう。だが他の二国からもよく知られているほど有名な橋らしい。確かに改めて見ても荘厳で圧倒される迫力がある。
 最初はびくびくしていたサファルもすぐにこの橋が好きになった。そして海にも興味が出た。今まで見たことのなかった海だが、想像以上に広く果てしないようだと断片を見ただけで思えたし、波がとても美しいと思った。

 いつか──いつか大きな船に乗って、聞いたこともない国へも海を渡り行ってみたい。

 そんなことも思わせてくれた。
 ワントウール橋は島国であるイント王国には欠かせないものとして皆が大切なものだと認識している。それはそうだろう。この橋がなければ他の国に行く手段がほぼない。船は出ているが一般人が気軽に乗れるものではない。また飛竜も可能だが、王族ですら滅多に使うものではなかった。橋がなければ交易もほとんど出来なくなり、自給自足だけでは国の発展には繋がらないだろう。
 そのイント王国だが、島国であるにも関わらず三国でも中心の国と言われている。それは王国に入ってサファルもすぐに理解した。クエンティは立ち寄っていないので分からないが、フィートは相当賑わっていた。大きなクラフォンの町が控えめに見えるほどだった。だがイントはそれ以上だった。大げさだろうが、世界中の食べ物や商品がここに集まっているのではないかと思えるほどだった。そしてフィートがとても明るい芸術の国なら、イントは活気があるながらに落ち着いた格式と威厳のある国といった印象も受けた。
 聞いていた店へ伺うと、そこの店主にフィートの店主から預かっていた品物をいくつか渡した。イントの店主もまた、サファルたちを歓迎してくれた。ただ、フィートの店主と一見全く同じ顔をしており、二人はかなり混乱した。サファルは「いつの間にフィートの店主がこっちに?」と思ったくらいだ。どうやら一卵性双生児なのらしい。

「ここも賑やかな国だね」

 イントの店主にもすぐに慣れ、馴れ馴れしい口調で話すサファルの横でカジャックが複雑そうな顔をしている。それを横目に少し怪訝に思っていると「普段よりも更に賑やかかもしれないですねえ」と返ってきた。

「え、何で?」
「ここ数日の間にフィートとクラフォンから王とそのお子様方がやってきてましてねえ」
「え、皆そんな仲良しなんだ。集まって観光?」

 サファルが更に聞き返すと何故か笑われた。カジャックも苦笑しながらサファル、と呼びかけてきた。

「さすがにそれはないだろうと思うぞ」
「え?」
「ですねえ。そうだとしたら何とも微笑ましいお話ですが」

 店主がニコニコと穏やかに続けてきた。
 フィートの店主と兄弟だと聞いたが、あちらがスマートな紳士だとしたらこちらはインテリジェンスな紳士といったところか。よくよく知ればまとう雰囲気はほんのり違った。
 店主が言うには、三国会議が今行われているらしい。基本的に王は自分の国から出ることはないが、この三国会議だけは別だという。滅多に行われることはないが、恐らく重要な案件でもあるのかもしれない。
 出席するのは王とその側近、そして力のある貴族たちだ。后妃は王の認めた側近と、預かった国をその間守ることになる。そう聞くと心もとなさがあるかもしれないが、三国が集まっている状況に、他の小さな国がその留守にどうこうしようと考えることはなさそうだ。
 この珍しい出来事に乗じるように、国民たちはどこかお祭り気分なのかもしれないと店主は続けてきた。そして王の子どもたちは滅多にすることのない子ども同士の交流を図るため、王たちと一緒についてきているのだろうとほほえましげに語った。

「お子様方に関してはサファルがおっしゃったものに近いかもしれませんねえ。王子や王女様がこうしてやって来ているということは、それだけそれぞれの国が平和ということですし、いいことです」

 サファルはカジャックと店でゆっくり過ごした。その際に紅茶という飲み物を出してくれたのだが、それがとても美味しかった。
島国であるイントは他所から商人がやってくるというよりは、自ら他国へ交易に出ることが多いらしい。そしてサファルが聞いたこともないような国へも訪れ、色んな珍しい商品を取り込んでいるようだ。

「珍しい商品や国の話が聞けて、俺、楽しかったです」

 店を出てからは街をぶらぶらと歩いていた。

「そうだな」
「……ここいら以外の外国かあ」
「行ってみたいか?」
「はい、いつか」

 船なんて一般人が易々と乗れるものではない。そのいつかはいつになるかどころか実現するかも怪しいが、サファルはにっこりと頷いた。

 今後の稼ぐ糧にしよう。

 そんな風に思ったりする。今までは主にリゼの幸せを願ってがんばって働いてきた。日々、リゼが少しでも楽しく過ごせるよう、そしていつか嫁に行く時は盛大に祝ってあげられるよう、蓄えてきた。だが結婚式も終えた今、その役目はルーカスとそしてリゼ本人が担うものだ。
 カジャックのために働くという感覚はあまりピンとこなかった。カジャックが喜ばなさそうだし、サファルが懸命に働く前にカジャックは何でもこなしている。結果、後は自分のために働くということになるのだが、いまいちモチベーションが保てなかった。もちろん旅のお供に金はいくらあっても困らないのでいくらでも働くが、とてもがんばるという意欲には欠ける。
 だが、船に乗るためだと思えばがんばれそうだとサファルはにんまり思った。

「なら──」

 サファルの「いつか」の返事にカジャックが何か言いかけたところで、カジャックを見ていたサファルは誰かがぶつかってくるのを感じた。
「わ」
「わあ」

 高めの声に小柄な体躯。子どもだ。

「だ、大丈夫?」

 ぶつかった勢いで転びそうになった子どもを支えながら聞くと、その子どもは必死そうな表情でサファルを見上げてきた。
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