銀色の魔物

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131話

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 ラーザからクラフォンへ向かう時はいつも通る道があった。カジャックの家へ向かう際にも枝分かれして近くに流れている川がそこでは道を遮るように流れていた。おそらく元々ある湖がかなり大きいか深いのだろう、流れが早いだけでなく上流ながらに少し深く、サファルは必ず小さな橋を渡っていた。クエンティ王国もまた川を渡らないと行けないとは思われる。ただ、クエンティ王国はクラフォンとは逆側にある。いくつか枝分かれしているその川も方向的に海へ向けての下流だろう。深さはさておき、かなり広くなっているだろうし橋くらいはあるであろうと踏んで、遠回りになるクラフォン側の橋へは向かわなかった。
 ただそちら側のルークの森には足を踏み入れたことがなく、予想外というか出会う予定ではなかった魔物に遭遇してしまった。クエンティまでは徒歩だと二、三日かかる。丁度あまりに身軽なカジャックが今夜野宿をする場所を決めるのに周りの様子を窺いに出向いており、待っている間に狩りでもしようかと思っている時だった。
 目の前には猪と言うにはあまりに大きく禍々しい生き物が、今にもサファルに襲いかかろうと構えている。
 サファルは少し既視感を覚えた。そういえば、カジャックと初めて出会った時に襲われていたのは目の前にいる魔物と同じタイプではなかっただろうか。
 あの時は魔物などちゃんと見たことすらなくて、真っ青になりながらその場に固まるしか出来なかった。体が動かなくなり、手にしていた弓はただ握っているだけだった。リゼにも「ルークの森にはあまり深く入っちゃダメだからね。入っても絶対奥まで行かないこと」などとよく言われていた頃だ。
 動けないまま「もう駄目だ」と、魔物が襲いかかってきた時には目をぎゅっと閉じるしか出来なかった。そこへカジャックが現れ、助けてくれた。
 懐かしいなと思いながら、サファルは弓に手をやる。魔物がこちらへ襲いかかってきたとたん、素早く弓を射った。矢は的確な場所へ刺さる。だが大きな魔物は一瞬怯みはしたもののまた向かってきた。

 当時、もし弓を射る勇気が持てたとしても魔法も剣も使えなかった俺はどのみち危険な状態に変わりなかったってことか。

 そう思いながら、サファルは流れるように言葉を唱えた。あっという間にサファルから鋭利に尖った氷の柱が光のように現れ、魔物めがけて放たれていく。

「あ、お帰りなさいカジャック」

 カジャックが戻ってきた頃には綺麗に肉を捌き終えているところだった。

「……猪?」
「みたいな魔物です。食べられるやつですよね。カジャックと出会った時に食べさせてもらった気がします」

 ほんの少しの間の後に、カジャックは「ああ」と思い出したように口元を綻ばせた。

「瞬間冷却仕様ですからね、きっと肉も新鮮な味わいですよ」

 ニコニコとサファルが言えば少し苦笑されたが「懐かしいな」とカジャックも呟いてきた。
 初めてカジャックを見た時はとてつもなく怖かったことも思い出す。それほど目付きが怖かったのもあるが、多分カジャックが人を完全に拒否していたからというのもあるのかもしれない。現に今は警戒されることはあるもののカジャックを見て当時のサファルのように恐れている初対面の人のほうが少ない気がしていた。
 その後なんとか橋も見つけ、二人はようやくクエンティ王国に着いた。自国の王国でありながら初めて中に入る。雰囲気はサファルもよく知るクラフォンをもっと大規模にした感じだろうか。三大王国の他二国と同じくとても賑わっているが、どこか馴染みやすいのはやはり自分の国だからだろうなとサファルは思った。フィートの明るさとはまた違った明るさにおおらかな人々。色んなタイプが入り交じって出来上がったかのような雰囲気というのだろうか。サファルは改めて自国が好きだと実感する。
 あの側近とは教えてもらっていた店で会った。例の商人の店だ。

「本当に全く同じ顔してる……ねぇ、ほんとにフィートかイントの人じゃないの?」
「違うな」

 商人は楽しそうに笑った。三人とも見た目は全く同じだ。全員紳士に見えるしどの人もサファルは好きだが、このクエンティの商人は他の二人に比べてさばさばとした性格をしているように思えた。

「しっかりとした船を用意しました。船員は少数ですが皆信用に足る者ばかりです。仕事もして頂く訳ですので、それに伴う資金も用意しています。後はあなた方の采配でしょうか」

 側近はにっこりと告げてきた。

「仕事なら頻繁に戻らないとじゃないの」
「いえ、それは結構です。遠国でしっかりとしたルートを築き上げてください」
「……会議の結果が出たのだろう? 別に内容は知りたくないが、それによってこの国の町や村が危うくなるようなことがないのかどうかだけは知りたい」

 ふとカジャックが側近に問いを投げかけた。それを聞いてサファルは「えっ?」と二人を見る。リゼや村を守りたいからこそだというのに、危険があるのでは意味がない。

「その点はご安心ください。ある意味国は一旦落ち着いています。ただ、権力を得ようとしている者は変わらず爪を研ぎ続けていると思われます……。気をつけないといけないのは少なくとも今のところあなた方お二人です。あと、私からだと漏れないルートでサファルさん、あなたのご家族は見守らせて頂きます」
「よ、よかった……、ありがとうございます」
「目立たないよう、宿屋はご用意してないんです。お疲れのところ誠に申し訳ないのですが、深夜までここで寛いでいただいてから深夜、船へ乗り込んでください。私は付き添えません。だがこの者が船までご案内しますし船員にも紹介してくれます」
「よろしく、サファル。カジャック」

 店主がにっこりと笑った。
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