俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177

文字の大きさ
41 / 49
お泊り会

041 降りるや降りざるや

しおりを挟む
 鼻息荒く麻里がトランプを叩きつけ、ようやく安眠をかけたギャンブルが幕を開けた。人権をはく奪されたくなくば、この鎖で雁字搦めになった世界を生き延びなくてはならない。

 カードは『A』が最強であり、それからは数字の大きい順。ジョーカーは例外であり、数字の札全てに勝利する。

 悠奈の黒髪に提示された番号は、『3』。まず、切り捨てて良い。

 次いで、麻里が分散したカードを引いた。ぶつくさ文句を垂れつつも、渋々カードの表面を公開した。

 ……おいおい、悪運だけは強いんだからよ……。

 彼女のクラスハイジャック計画は、虫食い穴でまともに理解できない作戦であった。物品を配り歩いて弱者を引き込めなければ、イジメのターゲットが麻里に移ってしまう恐れがあった。

 思い描いたストーリーは無事完結なされたのだが、一歩足を踏み外せば奈落の底。高校三年間は、脚にヘドロを付けて這うことになっていただろう。

 麻里の背中には、悪戯神が降臨している。彼女の手に何か魔力を封じ、健介たちの混乱を栄養分に成長しているのだろうか。

 掲げられたトランプは、ヨーロッパでの姿である悪魔だった。尻尾がとんがって、温和に場を収めさせない強い意志を感じさせる。

 突如出現した絶対的な存在、ジョーカーが場をかき乱していた。

「健介くんは、降りた方がいいんじゃないかな? 多田ちゃんの手作りを食べさせられたくなかったら、大人しく降参して欲しいんだけど……」
「……私を攻撃の材料にするの、やめてよ……。これでも、結構気にしてるんだから……」

 やり玉に挙げられた悠奈の上まぶたが、自然と下がっていく。

 化粧無しでハッキリとしたアイラインなのだから、SNSに顔写真を投稿すれば一躍人気者になるのも夢ではない。大した努力をしなくとも、女で視聴者を釣りたいテレビ番組に呼ばれるかもしれないのだ。

 ……悠奈、名声は興味無さそう……。

 しかし、だ。悠奈が名誉や勲章を追い求めるのなら、過去の武勇伝を事細やかに好調へ直訴している。目立ちたがり屋では、一匹狼を保てない。

 権力を持つことで内部から腐敗していった人間は、ネット上の石ころになっている。何気ない検索ワードでも、自己を過大評価した『元』時の人が負け遅みを記事にしているのだ。

 正義に反する事案に、悠奈は加担しない。彼女はそうすることによって、アイデンティティを手で握っているのだから。

「……悠奈は、どう思った? 麻里に散々言われ放題だけど……」

 単純な強弱勝負に持ち込まれると、健介の勝率は消滅する。

 先刻見事な手腕で植物を復活させた、日本語の扱いに手慣れたお方の意見を仰いでみた。

「……マリちゃんは、まず勝てないかな。自分のカードで戦わないなら、そんな逃げ腰の人に運は付かない」

 勝利宣言の魔王は、言葉巧みな誘導師の威力までも取り去ってしまった。最良でも引き分けしか見込めないのでは、駆け引き要素も少ない。心理戦に持ち込もうとしても、麻里に拒絶されるだろう。

 ギャンブルの必勝法は、長期的な見だ。一試合ではたまたま負ける現象を排除し切れないが、長期スパンで平均すると勝ち分を増やせる。

 ……悠奈も、やらかしたな……。

 悠奈は、勝負形態を一ポイントマッチにしてしまった。これなると、強運の者が勝つつまらない競技に成り下がるのだ。

「……勝てない!? やっぱり、トランプに仕掛けを……」
「さっき、麻里も確認しただろ? ジョーカーは増殖しない」
「健介くんも、多田ちゃんに洗脳されちゃったんだね。……待ってて、私が潜在意識を取り戻してあげるから……」

 健介の頭をかち割って、プログラムを書き換えようとする麻里。ゲームシステムの崩壊を防ぐべく、健介は腕を軽く払った。

 家の構造が古いと隙間風も入ってくるようで、室内がにわかに蒸し暑くなってきた。

 この和室に、壁に長方形の冷房機器が付いていない。長い長い灼熱夜を、悠奈はどう乗り切ってきたのだろう。

 ……イカサマしてるなら、悠奈に『3』のカードは行かないんだよ……。

 作為的に銃弾を並べておいて自らにプラスチック弾を配分する主催者は、馬鹿の称号が与えらえる。任意ではなく、強制だ。

 悠奈の二つ名とくっつけてみると、『天才正義馬鹿ヒーロー』なる意味不明な形容詞が誕生する。

 長考でぷかぷか浮いていた麻里が、手をパンと打ち付けた。机のカードが浮き上がり、危うくカンニングで失格になるところであった。

「そうだ、全員が一斉にカード交換したらいいんじゃないかな? ………もしかして、私って頭良いのかな?」
「定期テストで上位常連なんだから、そりゃそうだろ」
「……健介くんに、褒められた! アンコール、アンコール!」

 数字が弱い悠奈がいて、カードシャッフルを自ら唱えてくるとは。悪運は持っていても、自分で手放すタイプだったようだ。歌手でもなんでもない健介へのアンコールくらい、お茶の子さいさいである。

 ジョーカーを引きずり降ろさなければ、勝負は決まってしまう。悠奈も、もちろん深くうなずいた。

「……マリちゃん、命拾いしたね……」

 あくまで、気が変わらないよう演技を続行している。唇の端をかみしめていて、表情もグッドだ。

 麻里の掛け声に合わせ、全員でカードを地面に落とした。

「……あれ、多田ちゃん? 健介くん?」

 はずだった。

 トランプ交換に応じたのは、言い出しっぺの麻里だけだった。

 自身のカードについて全く情報が落ちず、強いか弱いかも分からない。自滅した上流階級の娘がカード交換を提案する時点で、少なくとも健介は平均以上だと予想するよりない。

 めくられたカードを一目見るなり、麻里の口調が荒ぶるかに思われた。

「ジョーカーだったんだ……。こんなことしなくても勝ててたのか……」

 手のひらの上で盤面を転がされている。そう健介たちか感づいた時には、もうボタンが押されていた。

 麻里に、カード交換をさせてはいけなかった。二パーセント未満の確率でも、ジョーカーを保持している線に賭けるべきだったのだ。

 ゆっくりと、交換後のカードが額へ昇っていく。

 そのカードには、油性マーカーで、こう手書きされていた。

『むてきかーど これを所持する者は、試合に即勝利する』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに

家紋武範
恋愛
 となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。  ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...