56 / 88
第4章 成敗は般若
第55話 色とりどりの般若
しおりを挟む「ゼン、追いかけよう」
そう言うや否やリリアンヌは般若達を追ったが、あまりの速さに見失ってしまった。
「どうして人を担いでるのに速いのよ! それに、あのマッチョは誰よ!」
ボディービルダーのようなムキムキマッチョの知り合いはリリアンヌにはいない。
(一体、ベルリンは何を考えてるの? あれじゃあ、ベルリンの方が悪者みたいじゃない。まさか、般若をして髪型を変えればバレないなんて思ってないよね……)
リリアンヌが不安になっている頃、学園の至るところで色とりどりの般若が目撃されていた。
その般若達は、何故か学園内の掃除や花の水やり、いさかいの仲裁、いじめている生徒を追いかける……等々、それぞれが思う善行を行っている。
何故そんな状況なのかと言うと、般若作戦を実行するにあたって、オカメイザベル派の筆頭となるフォルツェ伯爵家の双子へルイスとカミンが根回しをしたからだ。
オカメイザベル派は今まで目立った活動もなく、ただオカメイザベルとリリアンヌを陰日向から見守ってきた。
だが、リリアンヌへのいじめが明らかになった今、見守るだけではいけないと立ち上がろうとしていたところに声がかかったのだ。
それは、争いを好まない者が多いオカメイザベル派にとって、非常に有難い話だった。
「週明けの月曜日、般若をつけて学園で善行を行って欲しい」
それのどこが役に立つのか分からなかったが、双子は了承した。皇太子殿下の言うことならば間違いはないだろうと。
双子は派閥内で有志を募り、学園内には数十人の般若が投入された。
そして、カミンの従者のマッチョに制服を着せて、荷物持ちとして連れてきた。これが、マッチョ般若の正体である。
般若達は、見事に反リリアンヌ派を混乱させた。連れ去られた令嬢の口を封じようにも、逃げられてしまい居場所が分からない。発見したと思っても、別の般若なのだ。
だが、撹乱されたのは、反リリアンヌ派だけではなかった。
「あっ、あそこにいた!」
やっとイザベルと同じベージュの般若を見つけた、と近付いた先の般若の髪色が違うことに気が付いたリリアンヌは足を止めた。
「一体、どうなってるのよ」
「十中八九、カミンの発案だな」
見つけたと思っても別人、ということを繰り返す。そうしている間に予鈴が鳴り、リリアンヌとローゼンは急いで教室へと向かった。
教室の扉を開ければ、いつもと同じようにイザベルは優雅に座っている。
「リリー、おはよう。遅かったわね」
「……おはよう」
(髪型もいつもの三つ編みだし、オカメだわ。でも、あの高笑いにスタイルは絶対にベルリンしかいない)
じっ、と疑うような視線をリリアンヌに向けられたイザベルはオカメの下で苦笑した。
(疑っておるのぅ。じゃが、ここで聞かれても答えられぬ。それに、まだ言いたくないしの。しらを切るか……)
「ねぇ。結局、どうなったの?」
「どうとは?」
「何か良い作戦はあった?」
何も答えないイザベルにリリアンヌは詰め寄る。
「決まってたら教えて欲しいな。私に関することだしさぁ」
顔は笑っているのに、全く目が笑っていない。言い逃れなどさせないという気迫がイザベルに伝わってくる。
「残念ながら、まだ戦果が出てないわ。もう少し待ってくれるかしら」
「ふぅん? じゃあ、般若達はいったい何なの? あれ、ベルリンが考えたお面だよね」
「あら。般若をご存知なの? 私、オカメほどではないけれど、般若も好きなのよ」
全く取り合わないイザベルに苛立ちをリリアンヌが覚えた時、ガシリと肩を掴まれた。
「フォーカス嬢。親しき仲にも礼儀あり、という言葉を知っているか? もう講義が始まる。席に戻れ」
「ルイス様……。そのような言い方をなさるのは良くありませんわ。それに、私とリリーは友人ですもの。距離をおかれてしまうような言い方はお止めになって……」
その声にルイスは厳しい表情をすぐに緩め、イザベルの方へと熱い視線を向ける。
(はぁ。今日もイザベルは天使のように優しく、女神よりも慈悲深い。オカメの下で困り顔をしているのが目に浮かぶ。
あぁ……。なんて、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛──)
リリアンヌへの苛立ちなど遠く彼方へと放り投げ、ルイスの頭の中はイザベルへの重苦しいほどの想いで溢れていく。
「悪かった。可愛いイザベルを困らせるつもりなどなかったんだ。愚かな俺を許してくれ」
ルイスはイザベルの左手の小指へと颯爽と唇を落とす。それに対して指先まで赤く染まっていくイザベル。それは、もはやクラスの中では日常の風景だ。
((((((殿下は相変わらずの攻めの姿勢だ(わ)。イザベル様、そろそろ慣れて))))))
極一部を除いたクラスメイトの心が一つになった。そして、リリアンヌはというと──。
(これじゃあ、話は無理だわ)
と、いつもはイザベルを助けるものの、そんな気持ちにはなれずに大人しく自身の席へと向かおうした。だが、ピタリとその足を止め、ローゼンの元へと行く。
「ちょっとお腹痛いから保健室に行ってくるね」
「ついてく」
「ごめん。女の子の事情だから……」
リリアンヌは声を抑えてローゼンへと告げ、顔を赤くして動きが止まったのを確認すると教室を静かに出た。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜
みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。
悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。
私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私はただのモブ。
この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。
……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……?
※2025年5月に副題を追加しました。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~
四つ葉菫
恋愛
橘花蓮は、乙女ゲーム『煌めきのレイマリート学園物語』の悪役令嬢カレン・ドロノアに憑依してしまった。カレン・ドロノアは他のライバル令嬢を操って、ヒロインを貶める悪役中の悪役!
「婚約者のイリアスから殺されないように頑張ってるだけなのに、なんでみんな、次々と告白してくるのよ!?」
これはそんな頭を抱えるカレンの学園物語。
おまけに他のライバル令嬢から命を狙われる始末ときた。
ヒロインはどこいった!?
私、無事、学園を卒業できるの?!
恋愛と命の危険にハラハラドキドキするカレンをお楽しみください。
乙女ゲームの世界がもとなので、恋愛が軸になってます。ストーリー性より恋愛重視です! バトル一部あります。ついでに魔法も最後にちょっと出てきます。
裏の副題は「当て馬(♂)にも愛を!!」です。
2023年2月11日バレンタイン特別企画番外編アップしました。
2024年3月21日番外編アップしました。
***************
この小説はハーレム系です。
ゲームの世界に入り込んだように楽しく読んでもらえたら幸いです。
お好きな攻略対象者を見つけてください(^^)
*****************
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる