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ヒロイン……じゃない!悪役だった。
しおりを挟む彼女は、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。
これは推しの王子様、レイモンド様との恋愛も夢じゃない! などと意気込んで学園に入学たのだが、レイモンドは悪役令嬢のローズリンゼットに夢中だった。
その姿に色んな意味で衝撃を受けた彼女は、ある結論に行き着いた。
(ここは巷で流行りの悪役令嬢が主人公の世界なんだわ。つまり、ヒロイン転生の私が実は悪役パターン。悪役令嬢がヒロインで、ヒロインが悪役令嬢……。神様も紛らわしいことをしてくれたものだわ)
彼女は一瞬で推しのレイモンドを諦めた。いや、それだけじゃない。攻略対象全員を諦めたのだ。
(命一番。恋だの愛だのにかけられる命なんかないわ)
こうして、物語は全く進まない……かのように思われた。
(見てる見てる見てる見てる!! なんでいつも見てくるの!? 私、何にもしていないんだけど)
ローズリンゼット公爵令嬢の強い視線を感じ、メイリーンは逃げていた。彼女は毎日じっとメイリーンのことを見詰めてくるのだ。
それは、授業中のこともあれば、休憩時間や放課後のこともある。
(とにかく、私が悪役にならないためには関わらないのが一番よ。そもそも、ローズリンゼットだって転生者でしょ? あんなのがここにあるわけないんだもの)
少しでもローズリンゼットから離れようとメイリーンは令嬢として許されるギリギリのスピードで逃げた。
(あそこの角を曲がったら、図書館に逃げよう)
私語厳禁とされる図書館であれば、話しかけられることもないだろう、と安心したのがいけなかった。
角を曲がったところで目の前にフッと大きな影が現れ、メイリーンは尻餅をついた。
「いたたた……。すみません。お怪我はありませんか?」
「こっちこそ悪かった。フィラフ嬢の方こそ、どこか痛めたんじゃないか?」
差し出された手をメイリーンはお礼を言いながら掴んだ。掴んだのだが、相手が誰なのか分かってしまった瞬間、血の気が引いた。
(嘘でしょ!? なんでリアムスが……。あれだけ避けてたのに)
メイリーンがぶつかったのは、攻略対象である騎士のリアムスだった。入学してから半年。遂に、攻略対象と接触してしまったのだ。
「何をそんなに急いでたんだ?」
前には攻略対象である騎士のリアムス。後ろにはローズリンゼット。絶体絶命のピンチにメイリーンは礼儀も全て投げ捨てて逃げ出したかった。
だが、学園は貴族社会の縮図のようなもの。子爵令嬢であるメイリーンには、自分より身分の高い伯爵家の三男であるリアムス相手に逃げるという選択肢はない。
しかも、自分がぶつかって迷惑をかけた相手だ。身分関係なく逃げたら失礼というものだろう。
(何で今日に限ってローズリンゼットは追いかけてくるのよ! いつもは見てるだけじゃない!!)
メイリーンは、一瞬だけ悩んだもののローズリンゼットから逃げることを選んだ。
ローズリンゼットに捕まれば、悪役令嬢としてのスタートを切ってしまうかもしれないという恐怖がメイリーンを突き動かしたのである。
「お願いします。ちょっとだけでいいので背中を貸してください」
そういうや否やメイリーンはリアムスの大きな背中の後ろに隠れた。
(イベントでは、これで逃げ切れてたよね。究極の選択とは言え、リアムスのイベントを進めちゃったけど大丈夫かな……)
不安げな様子のメイリーンを見たリアムスは、何から逃げているのか疑問に思ったが、こちらに向かってくる人物を見て納得した。
「あら、リアムス様。ごきげんよう。メイリーンさんはいらっしゃらなかったかしら? 大事なお話がありますの」
メイリーンはちらりと視線を向けてきたリアムスに首を振って答える。
(お願い、教えないで!!)
「すまないが、フィラフ嬢は見ていない。そのような変な面をするから逃げられるのではないか?」
「変じゃありませんわ! おかめはこの世の美でしてよ!!」
おかめのお面をつけたローズリンゼットは声高らかにおかめの素晴らしさについて語りだす。
「美だか何だかは俺には分からないが、面で視野が狭まると危険だぞ」
「ご心配には及びませんわ。ばっちり見えておりますもの。おかめを着けてから、人とぶつかったことも転んだこともありませんわ」
(ばっちり見えていたら、俺の後ろに隠れているシュラフ嬢はすぐに見つかっていると思うけどな)
おかめを着けたことで視野が狭いローズリンゼットは気が付いていないが、リアムスの足元にはメイリーンの靴がのぞいている。
「今日こそは……と思いましたけれど、出直すことに致しますわ。リアムス様、お手間をかけましたわね」
おかめを着けながら颯爽と歩くローズリンゼットに生徒たちは視線を合わさないようにしながら避けていく。
(モーセの十戒みたい……)
ひょこりとリアムスの背中から顔だけ出し、メイリーンはローズリンゼットを見送った。
「ありがとうございました。助かりました」
(ローズリンゼットから逃げてるところを助けてもらったから、リアムスの出会いイベントは達成かぁ……。攻略する気はないんだから、イベント発生しないでよー)
盛大なため息を吐き出したい気持ちを抑え、深々と頭を下げれば、ポンッと優しい手が頭に乗せられた。
「俺で良ければ相談にのるぞ」
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