王族との婚約破棄

基本二度寝

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婚約破棄した王太子のその後

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「これで何人目だ…」

手足の指の数などとうに超えている。
王太子妃から王妃となった元男爵令嬢のカレンフィアは気に入らないと専属の侍女の首を切り続けていた。

初めこそ空席を狙って王妃付きになりたいという者は多かったのに、今では政敵の間諜すら来ない。

アレに機密を握らせていないのもあるが、大凡、陥れずとも勝手に落ちていくだろうと判断されたのだろう。

誰もつけないわけには行かない。
母に頭を下げ、母の優秀な女官を融通してもらうしかなかった。


ため息しかでない。

常識が無い所を可愛いと思っていた。
教養がないからなんでも目新しく感激していた。
無邪気を装った嫌味だと気づかず、周りに優しく振る舞う令嬢だと思っていた。

婚約者よりもカレンフィアが良いと、本気で思っていた頃の自分を殺したい。

かなり無理をして結婚にしたのに、頑張ると言っていた教育も仕事も一切を放棄して、衣装と装飾品ばかりを強請る強欲女に成り下がった。

王太子妃の頃はまだなんとか公務をこなせていた。
だから大丈夫だと思っていたのだが、側近たちが裏で手を回して王太子妃の体裁を整えていただけだった。

「婚約者だった公爵令嬢様が去る前に、我々に王太子妃として必要な事を叩き込んで下さったので。…ただ、王妃となると勝手が違って…」


知らなかった。
側近たちに言われるまで。

王太子だった自分の体調に合わせた茶葉を選ぶことから、王太子発案の政策の根回しまで、あらゆる事を陰ながら下支えしてくれていた。

そんな婚約者を切り捨てた。

若かった、など理由にならない。
ただひたすら愚かだった。


戻れるなら、…そう思い立った時にすぐに公爵家へ向かった。




「殿下、いえ、陛下。側室に、などと望まれても…うちに娘はおりません」

公爵は先触れなしに訪問した国王に驚きつつも、娘の所在について答えた。
王太子に婚約を破棄された女などいらぬと縁切りして追い出したという。


「はっ、…!?娘だぞ!そんな簡単に捨てるなどあり得ないだろう!?」

「それを貴方がおっしゃいますか」

公爵の言葉に口をつぐんだ。


「衆人環視の中あのような婚約破棄ことをされてしまえば貴族としてはもうまともな嫁ぎ先はありません。ならば市井で静かに暮らすほうが良いでしょう?」

「そんな、貴族だった彼女に平民の暮らしをさせるなど…なんという酷いことを!」

不憫さに顔をしかめたが、公爵は口角を上げて笑みを浮かべた。

「陛下は本当に娘の事を何もご存知なかったのですね」

公爵令嬢でありながら、領地では畑を耕し、料理を振る舞い、領民と鍋を囲むのだ。
泥塗れになっている時の笑顔が一番美しかったと公爵は語った。

「今は夫と子を持ち、家族で仲良く暮らしているようです」



嘘だ。
そんなことはありえない。


けして姿を見せないことを条件に公爵から教えられた場所に向かう。



城下でもわりと治安の良い地区。
小振りな一戸建ての家。
小さな庭は菜園になっている。
様子を窺うため距離をとり、遠視筒を使うと、はっきり確認できた。
これを覗き見たい方向に仕掛ければ、筒と紐でつながる四角い板に投影される仕組みだ。

そうして、その家の窓に久しい顔を見た。


婚約破棄を宣言してから会うことのなかった元婚約者。
彼女にぴったりと男がくっついていた。
後ろから彼女を抱きしめじゃれ合っている。


衝撃を受けた。
彼女は無感情な令嬢ではなく、ちゃんと笑っている。

男に胸を揉まれ怒る彼女も、
拗ねる男に呆れる彼女も、
上向いて男からのキスを待つ彼女も、
長く婚約していた期間に見たことがない顔ばかりだった。

二人は長く口付けたまま、その動きで啄むような軽い接触から深いものになっていく様がわかった。

「…陛下、もう戻りましょう」

護衛が声をかけるが気づかないふりをした。

二人が唇を離す。
男が後ろから彼女の腰を抱く。
頬を染めオンナの顔をした彼女は、前に手をついたようだった。

窓に映る彼らの姿は上半身しか確認できないが、盗み見ている者たちは当然察した。

俯き、顔が見えなくなった彼女と男の身体が小刻みに揺れる。

「陛下」

護衛が再度諌める。

それでも目を離さなかった。
永遠にも感じた時間は、彼女が仰け反り、その身体を男がきつく抱きしめ、前のめりに身体を倒し、二人の姿が窓から消えた事で終わりを告げた。

「…陛下」

「…あぁ」

ようやく護衛の声に答えた。

不憫な彼女を助けまいといきり立った正義感が急角度で萎えていた。

平民になれば不幸だと何故思ったのか。
平民の幸せを守る事のが国王の役割の一つであったというのに。

彼女は不幸でも不憫でもなかった。

自分は何をしにここまで来たのだったか。

知らず知らず、彼女の不幸を確認したかったのかもしれない。
そして、優しく手を差し伸べ不幸から救い出せば感激して戻ってくると疑わなかった。


「………城へ、」

帰城を指示した。

従者が遠視筒を片付けようと動く。

持っていた投影板の最後の映像は、
水槽の中で漂う海藻のように、窓に映る白い足先がゆらゆらと揺れていた。

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