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四
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先程の暴走をすっかり鎮火させたミファセスは、愛想もなく「ついて来てください」とすたすた歩き出したアトラクトの後を、大人しくついていく。
スラリと背の高いアトラクトは、魔法師団の師団長を父に持つ子爵家の三男だ。
兄二人はすでに魔法師団に入団し、部隊を個々に持っているらしい。
若くして部隊を任されている程実力はあるようで、どちらが父親のあとを継いでも不思議はないと聞く。
そんな有能な血筋の魔法師家系の子息が同じ学園に居ると知って、ミファセスは面識もない彼の元に押しかけたのだった。
アトラクトの後をついていきながら、ミファセスは冷静になってきた。
初対面の人間にあのような図々しくとり縋られ、不快にならないわけがない。
感情的になってうまく状況を説明できた自信もない。
それでも、ミファセスの力になってくれようとしているアトラクトに、申し訳無さと期待を抱いた。
「ここなら誰も来ないので」
学園には騎士科や魔法科の為に実地用の訓練設備がある。
そこに併設された治療室の奥。
なんでもない壁にアトラクトが手を付けば、壁に枠が現れ、扉のように開いた。
驚くミファセスに、「在学中に親父が作ったものなんです」とアトラクトは短く説明した。
ミファセスが部屋に足を踏み入れ、続いてアトラクトも部屋に入る。
アトラクトが扉を閉めると、扉などなかったようにそこはただの壁に戻った。
部屋の真ん中に置かれたソファに促されてミファセスは腰掛けた。
「人目のある場所で『魅了魔法』などと口にしないように。禁術を求めるなんて犯罪を企てていると勘ぐられますよ」
「そうね、考え無しでごめんなさい…」
ミファセスの謝罪にアトラクトは面食らったような顔をする。
「…あーいえ。謝罪させたかったわけでは。以後ご注意を」
アトラクトは座るミファセスの側に立っていて、こちらを見下ろしていた。
「…隣よろしいですか?」
「え?ええ…」
正面のソファに座るのだろうと思っていたミファセスは、慌てて一人分隣に移動した。
アトラクトはミファセスにピタリとくっつく様に隣に腰を下ろす。
「あ、の…?」
婚約者でもない異性との距離間ではない。
少し距離を取ろうと腰を浮かせば、素早く腕を回され引き寄せられた。
勢いの余り、アトラクトの腿に半分腰掛けるような体勢になってしまっている。
「ちょっ、」
「ああ。これだ」
アトラクトはじいっとミファセスの瞳を見下ろし眺めている。
言葉遣いが粗雑なものに戻る。
先程の怒声からみても恐らく此方の口調が素なのだろう。
「『魅了魔法』はすでに廃術となっている。構築に関わる文献も残っていないが、…これは『魅了体質』なのだろうな」
アトラクトの言葉がわからず、ミファセスは眉を寄せた。
その顔を見て喉を鳴らすアトラクトは黒い笑みを湛えた。
「あんた自身が『魅了魔法』そのものだ」
スラリと背の高いアトラクトは、魔法師団の師団長を父に持つ子爵家の三男だ。
兄二人はすでに魔法師団に入団し、部隊を個々に持っているらしい。
若くして部隊を任されている程実力はあるようで、どちらが父親のあとを継いでも不思議はないと聞く。
そんな有能な血筋の魔法師家系の子息が同じ学園に居ると知って、ミファセスは面識もない彼の元に押しかけたのだった。
アトラクトの後をついていきながら、ミファセスは冷静になってきた。
初対面の人間にあのような図々しくとり縋られ、不快にならないわけがない。
感情的になってうまく状況を説明できた自信もない。
それでも、ミファセスの力になってくれようとしているアトラクトに、申し訳無さと期待を抱いた。
「ここなら誰も来ないので」
学園には騎士科や魔法科の為に実地用の訓練設備がある。
そこに併設された治療室の奥。
なんでもない壁にアトラクトが手を付けば、壁に枠が現れ、扉のように開いた。
驚くミファセスに、「在学中に親父が作ったものなんです」とアトラクトは短く説明した。
ミファセスが部屋に足を踏み入れ、続いてアトラクトも部屋に入る。
アトラクトが扉を閉めると、扉などなかったようにそこはただの壁に戻った。
部屋の真ん中に置かれたソファに促されてミファセスは腰掛けた。
「人目のある場所で『魅了魔法』などと口にしないように。禁術を求めるなんて犯罪を企てていると勘ぐられますよ」
「そうね、考え無しでごめんなさい…」
ミファセスの謝罪にアトラクトは面食らったような顔をする。
「…あーいえ。謝罪させたかったわけでは。以後ご注意を」
アトラクトは座るミファセスの側に立っていて、こちらを見下ろしていた。
「…隣よろしいですか?」
「え?ええ…」
正面のソファに座るのだろうと思っていたミファセスは、慌てて一人分隣に移動した。
アトラクトはミファセスにピタリとくっつく様に隣に腰を下ろす。
「あ、の…?」
婚約者でもない異性との距離間ではない。
少し距離を取ろうと腰を浮かせば、素早く腕を回され引き寄せられた。
勢いの余り、アトラクトの腿に半分腰掛けるような体勢になってしまっている。
「ちょっ、」
「ああ。これだ」
アトラクトはじいっとミファセスの瞳を見下ろし眺めている。
言葉遣いが粗雑なものに戻る。
先程の怒声からみても恐らく此方の口調が素なのだろう。
「『魅了魔法』はすでに廃術となっている。構築に関わる文献も残っていないが、…これは『魅了体質』なのだろうな」
アトラクトの言葉がわからず、ミファセスは眉を寄せた。
その顔を見て喉を鳴らすアトラクトは黒い笑みを湛えた。
「あんた自身が『魅了魔法』そのものだ」
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