眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝

文字の大きさ
3 / 7

しおりを挟む
「体調はどうだ」
「…ウェル兄上…」
「寝ていないのか?眠れないのか?医者を呼ぶか?」

父の年の離れた弟ウェルスタはアドバンズの叔父にあたる。
アドバンズとは五つしか年が離れていない為、叔父というよりも兄のような関係だった。
この兄はよく弟のようなアドバンズを心配していた。

それを煩わしく思う方が多分にあったが、不安を抱える今は安心を感じる。
自分勝手だという自覚はある。

長い眠りから目覚めたせいか、アドバンズは丸一日眠らなかった。
目が冴えていたせいもあったが、眠りにつくことに恐怖を覚えていたのだ。

「…眠りたくない」
「何故…?」

「次に目覚めるのはいつになるのかという恐怖が」

はたまたもう目覚めることはできないのではないか、と。

「それならもう大丈夫だろう。妖精の気が済んだようだからな」

「、え?」

「お前が妖精の祝福を受けた婚約を破棄したから、機嫌を損ねた妖精がお前を眠らせただけなのだぞ。
眠りから目覚められたということは、妖精の気持ちが治まったと言う事だろう」

目の前の兄代わりの男の言葉をアドバンズは理解できなかった。

妖精…?

今もまだ夢の中なのだろうか。
生真面目なウェルスタ兄上がこのような妄言を語るのだから。

「その間抜けな顔を止めるんだ。思っていることが顔に出やすいのは子供の頃と変わらないな」

「ウェル兄上いや叔父上。子供扱い…弟扱いは止めてくれ。俺は、いや私はもう成人済みなんだ」

幼子を見る目をアドバンズに向けられて、何時もの苛立ちがやって来た。
兄、いやこの叔父はいつもアドバンズを小さな子どものような扱いをすることに腹立たしく思っていた。

「そうか。ならばそのように対応しよう」

何時もの甘い顔を仕舞い込み、兄上は王弟の顔をした。

「眠りのせいで記憶が混濁しているのかわからないが、ニーディアとお前が婚約した際、『妖精の祝福を受けた』と騒ぎ出したのは幼かったお前だ。あの頃お前は妖精の姿を見聞きしていた」

「妖精…?まさか」

おとぎ話の中の存在を信じている叔父を訝しげに見つめた。

「お前が妖精の存在を否定するようになるとはな…」

いつしか、アドバンズが妖精の話を口にしなくなっていったが、国王達はとくに問題にはしていなかった。
第一王子の未来は次期国王に決まっていた。
妖精視の能力を持っていても邪魔にはならないが、失っても問題はなかった。

ただ、妖精の祝福を受けた婚約を破棄するなど馬鹿なことをしなければ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。

オーガスト
恋愛
 イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。  ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。  突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒  全力で報復する事にした。  ノーリアリティ&ノークオリティご注意

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

わたくしへの文句くらい、ご自分で仰ったら?

碧水 遥
恋愛
「アンディさまを縛りつけるのはやめてください!」  いえ、あちらから頼み込まれた婚約ですけど。  文句くらい、ご自分で仰ればいいのに。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

処理中です...