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第一章 フィオレンツァと愉快な乙女たち
04 ツンデレ令嬢ロージー
しおりを挟む次の日、フィオレンツァは早速パトリシアからもらったドレスを纏って授業に出た。
今日はこの国についての歴史の授業だ。執務用の机と椅子が用意された部屋に入ると、先に席についていた人物がいた。
「ロージー嬢、ごきげんよう」
「あら、フィオレンツァ嬢じゃない。昨日は大活躍だったわね」
「恐れ入ります」
歴史の教科書を見ていたロージー嬢は、礼をしたフィオレンツァに対してわざわざ立ち上がって礼を返す。
でも目は相変わらず怖い。今日はまだビームは出ていないが…。
「昨日の活躍であなたの株は上がったわよ。でも調子に乗らないことね」
「調子に乗るなどとんでもございませんわ」
「ふーん。まあいいわ。あの無礼な子爵令嬢よりかはあなたは大分ましだもの」
「はあ…」
「あの子ったら、あの時バーンスタイン夫人の質問に答えられなくて恥をかいたでしょう?それを帳消しにしようとして、わざと紅茶をこぼして被害者を装ったのよ。私見ていたもの」
「やっぱりそうでしたか」
こぼした瞬間は見ていなかったが、そんなことだろうと思っていた。スーザン嬢は自分が注目されていないと気が済まないタイプなのだろう。
やだなー。昨日のことで、絶対に目の敵にされている。
「あなた、昨日のことで絶対に目の敵にされるわね」
そーですね、ロージー嬢。
「パトリシアのように紅茶をかけられないよう、せいぜい注意することね!」
ん?
「…ご心配いただき、ありがとうございます」
「別に心配したわけじゃないわよ!」
んん?
「あんたがどうなろうが、私が知ったことじゃないんだからね!」
真っ赤になってそう言うと、ロージー嬢はぷいっとそっぽを向いて席に戻ってしまった。
あー、これあれだわ。漫画やゲームのキャラクターでよくある、ツンデレさんですな。
ちらっと教室の隅に控えているロージー嬢の護衛と侍女さんに目をやると、生暖かーい目で主を見ている。いつもの光景なんですね。これ以上話しかけるとまた怒られてしまいそうなので、席に着こうとする。
と、そこでようやくあることに気づいた。
「…席が四つしかない」
「パトリシアとあのおバカ令嬢は来ないわよ」
ほとんど独り言だったが、ロージー嬢はわざわざ答えてくれた。やはりいい人だ。
「パトリシアは大事をとって一日お休み。おバカ令嬢は騒ぎを起こした罰として三日間謹慎ですって」
「一日目から謹慎ですか。ある意味大物ですね」
ちょっと皮肉ってやると、ロージー嬢がぷっと噴き出した。目がまた合ったので笑いかけると、また顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。かわいいなー、ちょっとつり目だし、猫みたい。
そうこうしているうちにスカーレット嬢がやってきて、また挨拶をする。スカーレット嬢からも「昨日は素晴らしかったわ」とお褒めいただいたが、やっぱり眩しくて目を合わせるのに苦労した。
最後にエステル嬢もやってきたが、すぐバーンスタイン夫人が到着したので話す機会もなく席に着く。
「授業を始めます」
歴史の授業の課題は単純、我が国ルーズヴェルトの建国から今日までの歴史の教科書の暗記だった。
授業開始すぐに、課題をきちんとしているかの小テストが実施される。正直言って余裕だ。なぜなら、ルーズヴェルト王国は建国300年。前世では2000年に渡る世界史と日本史を勉強させられた記憶を持つフィオレンツァにとって、300年くらいなら大した情報量ではない。
小テストの後は、建国時の歴史が掘り下げられた。
「ルーズヴェルト王国は、ドウェイン・ルーズヴェルトが当時この地を治めていたノルベルト王国を滅ぼして建国しました。フィオレンツァ嬢、詳しい経緯を言えますか?」
「…はい。ドウェイン・ルーズヴェルトは、ノルベルト王国の貴族出身です。しかし王国上層部の圧政に苦しむ民を憂い、一族と共に挙兵し、当時のノルベルト王に退位を迫りました。二年に渡る戦いの末、ノルベルト王は敗北を悟り、自分の娘を次の王の妃にすることを条件に退位しました」
「そこまで。ロージー嬢、続きを」
「はい、先生。ノルベルト王の娘を娶って即位したのは、ドウェインの従兄弟にあたるマテウスです。しかしマテウスは即位すると堕落し、奸臣と共に政治を混乱させました。ドウェインは必死にマテウスを諫めますが、マテウスは自分よりも優秀で人望のあるドウェインに嫉妬し、彼を排除しようとします。それでもドウェインはマテウスを正そうとしますが、最愛の兄を殺されてとうとう離反を決意、同士を集めて再び挙兵しました」
「いいでしょう。次は…スカーレット嬢」
「はい。ドウェインとマテウスの戦いは半年で決着しました。ドウェインは勝利し、マテウスを処刑します。そして圧倒的な支持を集めてドウェインが即位し、ルーズヴェルト王国の初代王として善政を敷きました。彼の晩年に最大の反乱が起こりますが、これを鎮圧したことでルーズヴェルト王国は国家として安定し、今に続く発展を遂げることになります」
「最後にエステル嬢、ルーズヴェルト王国の王家の紋章は翼のついた竜ですね。その由来を答えなさい」
「は、はい…。その…翼のついた竜はワイバーンと言って、ですから、その……。すみません…」
「この問題は少し難しかったみたいですね。分かる方はいますか?」
ロージー嬢が手を挙げた。
「ルーズヴェルト家の紋章はもともと盾と剣のみでした。即位したドウェインの正妃の生家の紋章は竜を使用していて、正妃を愛していた彼は新たな王家の紋章に竜を使用することにします。彼はルーズヴェルト王国がさらなる飛躍を遂げるようにと翼が付いた竜・ワイバーンを採用しました。以後、ワイバーンは我が国の象徴となっております」
「その通りです。皆さん、よく勉強してきていますね。テストの点数も良かったですよ」
「ありがとうございます」
よかった。今日の授業は何事もなく終わった…。
フィオレンツァは令嬢たちに挨拶をしながら片づけをして教室を出る。妃候補の令嬢たちは護衛と侍女を付けているが、フィオレンツァは基本一人で行動している。アガタはフィオレンツァの専属侍女というわけでなく、他の仕事もしているからだ。だから他の令嬢が侍女たちに手伝わせてさっさと教室を出ていく中、フィオレンツァは自ら教科書を片付け、机と椅子を整えて最後に部屋を出た。
時間はまだ夕方の4時を回ったばかりだった。
お昼から三時間半ほど集中すればいいのだから、フィオレンツァにとってこの授業は苦ではなかった。前世では学生は朝から夕方までみっちり勉強し、社会人ともなればそれこそ朝早くから夜遅くまで必死に働いた。その記憶とついつい比べてしまうので、この世界はまったりしてるなーと思ってしまう。それでも世界は回っているのだから、前世はどうしてあんなに忙しかったのだろう。
貧乏なホワイトリー領ではさすがに労働三時間というわけにはいかなかったが、朝があまり強くないフィオレンツァはいつもゆっくり準備をして父の手伝いをしていた。
記憶を取り戻して感じたのは、この世界では時間に追われることがあまりないということだ。それでも前世出身者としてはつい時間を気にしてしまうもので、フィオレンツァは時計を探して時間を確認するくせがついていた。
王宮といえど時計は数えるほどしかない。この西館には重臣たちが集まる大会議場に一つあるだけだ。だから西館で働く者たちは、庭にある日時計を確認する。フィオレンツァもそうしようと、日時計がよく見える廊下に出た。
するとそこには先客がいた。
「ロージー嬢…?」
ロージー嬢が窓の外を険しい顔で見下ろしていた。声をかけようかかけまいか迷っていると、ロージー嬢はぱっと身をひるがえして行ってしまった。護衛たちがそれを慌てて追いかけていく。
フィオレンツァもロージー嬢が見ていたであろう庭を覗き込んだ。そこには…。
「スーザン・アプトン…?謹慎のはずなのになんで庭に…」
日時計の前に置いてあるベンチに、部屋で謹慎しているはずのスーザンがいた。今日もフリルたっぷりの可愛らしいドレスを纏い、とても謹慎中のようには見えない。
しかも彼女は一人ではなかった。騎士の装いをした一人の青年と一緒だったのだ。ロージー嬢の険しい顔の理由もこれだろう。傍目にはまるで逢引の一幕のようだった。
なんだか嫌な予感がするなぁ、と思ったところで、庭に辿りついたロージー嬢がスーザンに何やら話しかけ始めた。声は聞こえないが険悪なムードだ。
フィオレンツァは居ても立っても居られず、ロージー嬢の後を追いかけた。
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