セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

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魔物外交編

希望の惑星セジアス

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「キャプテン、まもなく惑星セジアスに到着します」
 女性の声が、何処からか聞こえて来て、俺は目を開けた。同時に、ブルと俺は身震いし、身体がガタガタと震えだす。
 ここは何処だ。すりガラスから光が注いでいるが、真っ白な狭い空間に閉じ込められている。
 意識が朦朧としていてここが何処かすら分らなかったが、直ぐに状況を飲み込めた。ここは宇宙船ヘリオスの棺桶の中で、俺は人類の存続を掛けた大事な任務を負っている。
 因みに棺桶とは、コールドスリープ装置のこと。人間を仮死状態にして保存する技術で、体温を二十度程度まで下げ、細胞の活性を抑え込み、長時間寝ていても、筋力低下等の問題が起きなくする。
 凍結して解凍蘇生するという本来の意味のコールドスリープは、未だ人間では成功していないが、これは既に医療等でも使われていて、数多実績のある技術だ。
 とはいえ、宇宙での使用は今回が初めて。訓練でなんども経験し、全く問題なかったが、百年以上も使い続けたのは初めての事。何か副作用が起きていないか心配だ。
「ご安心下さい。バイタル値は全て正常です。それと訂正しておくと、キャプテンが睡眠されれていた時間は、185日と3時間21分で、過去に何度も実績のある範疇です」
 アテーナが、俺の思考を読んで応えて来た。本人曰く、「観察と思考パターン、行動心理に基づいての推論で、決して思考を読んだ訳ではありません」と言うが、人の意識が読めているとしか思えない。
 それに、人工知能の分際で、人間である俺を小馬鹿にしている節もある。
「もしかして、私の言葉で気分を害されたのでしょうか。申し訳ありません。睡眠時間を知らせるためのジョークです。モロウキャプテンが、特殊相対性理論を御存じないとは思っておりませんから。私は皆様の忠実な下僕です」
 絶対、思考を読んでいる。それに、黒執事セバスチャンの様な科白を言いやがって、憎たらしいったらない。でも、彼女無しでは何もできないのは事実で、仲良くやっていくしかないのだが……。

 そんな事を考えていると、陰部を覆う排泄装置が自動撤去されていき、前面のスモークガラスが透明に変わった。
「もう誰か起きてるのか?」
「いいえ、セシルさんの意識が戻りつつありますが、後の二人はまだ深い眠りから覚めていません」
 その会話の最中に、周囲を覆う様にすりガラスの衝立がせり上がってくる。そして、棺桶の蓋が開いた。
「そうか。ありがとう」
 俺は、装置からひょいと全裸で飛び出して、服を着る。無重力空間だと、服を着るのも一苦労だ。
 着終わると、パーティションは自動的にが下がっていく。いちいち面倒だが、監視カメラ画像は全て地球に送られているので、猥褻物を管制塔の皆に見せなくする配慮だ。
「ところで今日は何日だ?」
「地球時間に換算すると、西暦2502年3月20日です」
「えっ、どういうことだ。もう地球が滅んでいる年じゃないか」
 予定では190年後の西暦2456、7年には到着できる事になっていた。それが235年も掛かったという。これは計算誤差で済ませられれる問題ではない。
「申し訳ございません。ワープ走行中にいろいろと問題が発生し、当初より45年程余計に、時間がかかってしまいました」
 それを聞いて、怒りが爆発しそうになる。重大トラブルが発生したのに、艦長の俺になんら相談せず、勝手な判断で行動して、大幅遅れを起こしたのだ。
「ですが、任務に支障はないものと判断します。地球でのグラニウムコアの使用は、当時の四分の一程に激減しており、あと二百年以上は崩壊しないものと、予想されます。出発時の最新予測では2703年となっていました」
 その上、平然と言い訳までする。俺だって、その程度は知っている。だが、当初西暦2500年に地球が爆発すると大騒ぎになったのは確かだし、大幅遅延した事実を責め立てるために敢えてそう言っただけの事だ。
 なのに勝手な判断で大幅遅延させといて、任務に支障はないとは何様のつもりだ。
 地上の判断を仰げる状態でないのは分るが、俺を起こせばいいだけの話。報連相は組織行動の基本で、それをしないのは許せない。
『この無能なAIめ』と、心の中で思いそうになって、それを別の思考で打ち消した。
 アテーナは心を読めるだけでなく、多少の感情も備えている節がある。機嫌を損ねると、業務に支障を来す恐れもあるので、扱いには注意が必要だ。
 艦長は、部下どころかAIにも気を使う必要があり、本当に大変だ。
 だから、頭の中には、別の懸念を巡らせた。最近、報告されたグラニウムのエネルギー源についての報告だ。
 この宇宙船ヘリオスは、二キログラムもの巨大グラニウム鉱石を核とする光速加速エンジンを搭載している。これによりハイパワーで常時加速することが可能となり、秒速二十五万キロメートルの速度で走行できる。今迄の内燃機関ロケットエンジンは、最速で秒速二百キロメートルだった事からも、グラニウムが如何に凄いエネルギー源かがうかがえる。
 因みに、ワープ走行とは、その亜光速走行状態の事。SF小説の様な超光速の瞬間移動や、ワームトンネル移動の事では無い。通常の低速航行ではなく、光の速度の六分の五の速度で、飛んでいる状態の事だ。
 そんな状態でのトラブル発生は致命的になる。だから、全てを想定して万全を尽くしてある。ワープ時のトラブルは全て想定内の筈で、予測を大幅にずれる要因にはならない。
 だとすれば、やはりエンジン出力の低下。地球からエネルギー抽出するというのは、正確には誤りだと我々は判断したが、それが誤りだったのか?
「エンジン出力の低下が起きたのか?」
「まさか、冗談ですよね。船内時間では185日と3時間21分と申し上げましたが……」
 確かに150光年の旅で、半年しか経過していないのなら、ほぼ光速で、移動していたという証拠である。確かに俺が馬鹿だった。
 だが、船長の俺にそこまでいう事はないではないか。やはり『この無能なAIめが』と考えた事を読まれたのか。
 いかん、今のは完全に、アテーナに読まれた。
「今現在もグラニウムコアに何ら異常は見られず、出力低下はありません」
 あえて知らない振りをする配慮まであるなんて、本当に優秀だよ。
 あえてそう強く念じてフォローする俺。
「キャプテンが懸念しているのは、ガリバー・ウイルソン博士のグラニウムのエネルギー発生原理の事かと推察しますが、150光年離れたこの地でも、全く性能劣化はみられませんでした。私の推測でしかありませんが、グラニウムは、周囲の星からニュートリノを徴収し、エネルギー変換しているものと推察します」
 アテーナも俺らと同じ意見らしい。グラニウムはあくまで近い星から星の生命エネルギーを奪う鉱石。地球上で観察する限り、それは地球となるが、宇宙で使えば、周囲の星々から、エネルギーを奪うだけの事。
 そんな事はどうでもいい。問題は、なんで、大幅遅延となったかの理由。

 いちいち、質問して説明を聞くのも面倒なので、近くの端末にプラグを差し、ケーブルのもう片方のプラグを、俺の首の裏にある端子に差し込んで、「トラブル記録の再生」と命じた。
 この方が、端末を操作して記録を調べるより、倍以上高速に情報処理できる。


 脳裏に浮かんだトラブル記録は、なんと三十件もあった。全て航行経路上に隕石が存在したというものだ。
 だが、これなら全て想定内のトラブル。大幅遅延する理由にはならない。
 ワープでは、事前に彗星、惑星、衛星軌道を計算し、量子コンピュータで最も安全な経路軌道を導出する。隕石群は元より、隕石がありそうな環境予測までも、計算にいれており、航路上に障害物は現れないことになっている。
 それでも、トラブル記録にあるように、計算外の隕石が存在することはある。
 そういう場合に備えて、障害物回避排除システムがある。回避とは文字通り、発見次第フル加速で走行軌道をずらし隕石との衝突を回避するものだが、亜光速走行では、回避に成功するのはまれだ。だからほとんどの場合は、隕石排除処理が取られる。
 障害物に中性子砲を発射して、その物体を塵に変える。中性子砲を発射するには約二分の粒子加速時間が必要だが、常時荷電粒子を加速状態に維持しておくことで、瞬時に放つ事が可能となる。それを保つには膨大なエネルギーが必要となるが、それもグラニウムコアにより可能となった。
 だが、一件ずつ、詳細内容をチェックしていると、その排除対策が不十分で、二割もに当る六件もで、機体破損を起こしていたと分った。
 塵になっていたとしても、三十ミリ機関砲を浴びる様なものなのに、小石程度の隕石屑が残るケースが多発していた。ほんの小石程度の隕石屑でも、光速走行時には、ロケット弾以上の威力となる。防御シールドも超甲合金の防御壁も容易に貫通し、機体を損傷させる。
 その度に、低速走行まで減速して修理し、再度、航路計算をし直してワープするを繰り返していた。
 そのため、当初予定の最短経路を通れなくなり、予定より45年余分も掛かったということだ。
「アテーナ、悪かったな。随分頑張ってくれたみたいなのに」
 俺は首のプラグを引き抜くと、一応、謝っておいた。
「気にしないで下さい。私には心などありませんので」
 いや、感情、あるだろう。今のは皮肉った嫌味だし、良く拗ねて返事をしなくなる。その上、嘘だって着く事を俺は知っている。


 そして、手摺りつたいで、制御室コントロールルームに移動しようとすると、セシルの棺桶の蓋が透明になった。俺は思わず腕で急ブレーキをかけ、その場に停止する。
 セシルは気が強い三十二歳の白人女性だが、紅一点のアイドル的存在。その彼女が一糸まとわぬ全裸でいる。
 彼女の棺桶の周囲に、パーティションがせり上がって来て、視界を阻まれてしまったが、一瞬だったが、はっきりと見えた。
 それにパーティションがあっても、曇りガラスなので、シルエットは見える。間も無く起き出して来て、着替えを始める筈だ。
「性的興奮を確認。セシルさんに言いつけます」
「頼む。それだけは止めてくれ」
「危険人物が徘徊しているのに、妨害に遅れた私にも、落ち度もあります。なので、今回は不可抗力として、見逃します。ですが、これ以上の滞在は、故意とみなします」
 セシルが起き出す姿は見たいが、彼女はこの宇宙船の船医。彼女に嫌われたら、それこそ生命の保証すら脅かされれかねない。
 俺は素直にその場を立ち去ることにした。



 制御室のモニタには、青く輝く綺麗な惑星が映し出されていた。まだセジアスのある恒星系の末端に到着したばかりだが、ズームアップして映し出されている。白い雲も沢山あるが、海が大半で、ぼんやりと大陸も見える。
「本当に地球みたいだ。これなら生命体も沢山いそうだな」
「直径は公転軸方向に6538キロメートル、横方向に6543キロメートルで、地球の約四分の一の大きさです。殆どが海で、陸地面積比は十分の一以下です」
 地球は陸地が三十パーセント程なので、人類が生存できそうな場所は、当初の想定よりかなり狭い。幾ら大型宇宙船を急ピッチで量産したとしても、百二十億人全員を収容できないと思っているが、移住する人類の選別は不可欠という結論になりそうだ。
 頭が痛い問題だが、それは俺には関係ないこと。
「知的生命体の存在は、まだ不明ですが、陸地に街影らしきものを何か所か確認しております」
 やはり、知的生命体もいるらしい。街を築いているとなると、文明もそれなりに有るという事だ。
「その街影を映せるか?」
「確認しているもので、今現在ズーム可能なものは残念ながら存在しません。記録画像ならありますが……」
「ではそれを頼む」

 モニタにズームアップした画像が映し出された。
 正直、ここからのカメラ分解能では、建物の確認は困難だ。それでも、なんとなく人為的に道路区画されている様には伺える。
 それらを次々と確認していると、セシルが遣って来た。
「やはり知的生命体がいるのね。どの程度の文明を持ってるのかしら。興味深いわ」
「文明? どんな生物がいるかしか興味ないんじゃないのか?」
 セシルは、医師であると同時に生物博士でもある。なので、興味があるのは、宇宙人の生態の筈だ。
「それは当然だけど、外交に来て、解剖なんて出来ないでしょう。それは諦めてる。それより、文明の進歩具合が気がかり。想像上の危険な生命体で、私達と敵対する事も有り得るでしょう。高度な建造物はなさそうだけど、肉体的に危険度が高い生物の可能性はあるもの」
「私の勝手な予測ですが、その可能性は低いと思われます。セジアスの重力は地球の三分の一。肉体的に、この惑星の生物が地球上の生物以上に筋力発達している可能性は低いです」
「でも、巨大昆虫ならどう。人間なんかより桁外れに強くなるはずよ」
「セシルさん、御冗談でしょう。小さいからこそ、強靭な体力を保てるのです。あのままスケール倍すれば、自重で身動きすらできなくなります」
「そんなの分ってるわよ。でも、エイリアンなら、何がいてもおかしくないでしょう」
「言い分は理解しました。街の形状から判断して、象等の巨大生物ではなく人型生命体と推察しておりますが、小型恐竜種の街である可能性は否めません。可能性は限りなく少なくとも、危険生物が支配している惑星の可能性は否定できませんから」
 喧嘩になるかと、恐れていたが、アテーナが折れてくれて(?)助かった。単に嫌みを言っただけかもしれないが、セシルは特に気にしていなさそうで、結果オーライ。
 まあ、どういう生物が支配しているのかは、セジアスに近接すれば分る事なので、今、ここで議論しても致し方ないことだ。

 でも、これからその生物と交渉しなければならないと思うと、俺も不安になってきた。
「なあ、アテーナ。超能力を備えた宇宙人の可能性はどの程度あるんだ」
「超能力は、未だに解明されていない能力のため、何とも言えません。ただ、懸念されているような重量物を投げ飛ばす様な強大なエネルギーを発生することは困難と断言できます。危惧するとすれば、精神攻撃マインドコントロール。これだけは耐熱防護服でもどうにもなりませんから」
 つまり、肉体的にとんでもない強者がいるというわけではないが、油断はならないという結論になる。

 じゃあエルフや獣人の可能性は? と訊こうとして、二人から馬鹿にされる気がして、我慢した。
 でも、折角ならファンタジーワールドであって欲しい。

「それで、これからどうするの? 私、お腹がペコペコなのよ」セシルが話を変えて来た。
 俺も空腹だ。ガスパとケビンが目覚めてから、皆で食事をしようと思っていたが、何か軽くおやつを食べる位なら許されるかも知れない。
「アテーナ。二人が一時間以内に目覚める可能性は?」
「目覚めるとすると、ガスパールさんですが、今から一時間以内であれば、15%程度の確率です」
 その回答を聞いて、俺達は軽くおやつを内緒で食べる事に決めた。
 あいつ等には悪い気もするが、なかなか目覚めないあいつらの方が悪い。
 それに、ここで我慢する様に言って、セシルは恨まれたくはない。
 仲間との仲良くするのは大事だ。
 セシルに気に入られたいだけだろうって。そんな事はない。多分……。
 否定はしないが、男なら皆そんな気持ちを持っているものだ。

「その前に、髭でも剃ったら?」
 セシルに言われて、顔を触ったら、髭がボウボウ。コールドスリープ状態でも、髭は延びるらしい。
「有難う。アテーナが教えてくれなかったから、気づかなかった」
「私は、髭が有る方が船長らしく見えると判断したまでです」アテーナがまた言い訳した。
 だが髭が有った方が船長らしいという言葉にはうなずけるものがある。
 こんなに髭を長く伸ばした事はなかったし、剃るか否かは、鏡を見てからにしよう。

「モロウには似合わない。以前から思ってたけど、あなたアテーナに遊ばれているわよ」
 髭を擦りながら満悦の表情を浮かべていたのか、セシルがそんな事を言って来た。
「キャプテンをからかうなんて、そんなこと私はしません」
「本当? なら、もしかして、モロウキャプテンの事、好きなんじゃない」
「違います。指摘しようとした時、セシルさんが覚醒し、強制退避させるために、何も言わなかっただけです」
 やはりアテーナも髭は似合わないと思っているらしい。
 それより、内緒にする約束だったのに、何してくれてんねん。
「モロウ、まさか見たりしてないわよね」
「見てません。本当です。信じて下さい。アテーナ、お前からもちゃんと説明してくれ」
「…………」
 その後、セシルが俺を冷たい目で見るようになり、暫らく、口を聞いて貰えなくなったのは言うまでもない。


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