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魔物外交編
ペダルの思い
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洞窟に戻ったペダルは、独り自室に籠り、思案を続けていた。
ロシナント王国の南東部辺境地区とはいえ、この地方を統治する統括議員長である彼女には、皆の安全を守ると言う義務がある。
人間という未知なる生命体に、圧倒的な文明差を見せつけられ、難民を受け入れざるを得ない状況だが、彼等を受け入れた後の未来に、彼女は疑念を抱いていた。
勿論、これはロシナント王国の問題で、彼女が悩むべき問題ではないのだが、女王陛下に問題を丸投げするのを、ペダルは良しとは思わない。それぞれのケースを分析し、起こり得る影響をあげ、そうならないための対策案もまとめ上げる。そこまでした上で女王陛下に報告すべきだと考えている。
だが、幾ら考えても、受け入れ拒否した場合の、戦争回避対策の妙案が浮かばない。
既に夜中になっていたが、ペダルは、四人の議員達と、同行したガバル、ガジル、ギル、バズを召集し、今後の対応を相談することにした。
ペダルが会議室に顔を出すと、既に眠そうな顔の面々が集まっていた。呼ばれた理由に関しては、皆、予想がついているはずだが、ペダルは召集した理由を皆に告げる。
「夜分に集まって貰い恐縮だが、例の巨人族の件で、皆の意見を聞きたいと集まって貰った。議員の皆も、話は聞いていると思うが、彼等は巨人族ではなく、人間という空の向こうからやってきた異世界人だった。我々の世界にない圧倒的な技術を持ち、抗う事は困難だろう。そして彼等は、我らの国への移住を希望している。それを受け入れるべきか、否かを議論したい」
「その前に、手土産が何だったのか、教えて頂けませんか」
第一師団長のガバルが手を上げて、質問してきた。
「はい、私の方で開封し、中味を分析中ですので、説明させて頂きます」
同行した参謀官のバズが応え始めた。
「手土産の品は、包丁とロープと小さな布きれでした。ただ、包丁は金属製では無く、白色の未知なる物質で出来ています。とても軽く鋭利で、堅いものを切っても、何ら刃こぼれしません。ロープは黒色の細いものですが、これも未知の素材で、信じられな程の強度を誇ります。試しに端を刀で切り取ろうとしましたが、刀の方が刃こぼれする程の強度でした。布の強度は大した事ありませんが、吸水性が極めてよく、その肌触りは信じらない程にすべすべです。全て瞠目に値する品々で、我々の遠く及ばない技術のたまものと思われます」
「後で、我々も、それを見させてもらう事にしよう。それで話を戻すが、ガバル、ガジル、貴公らは、あの偵察機なるのもを、どう思った」
「どうにもこうにも、驚愕の一言。未だに信じられません。あんな鉄の塊が、空に浮き、信じられない程の速度で移動できるのです。剣や槍では傷一つ付けられず、歯が立ちません。兵器に関しては一切見せて貰えませんでしたが、恐らく爆裂魔法以上の破壊兵器も搭載しているものと思われます。正直、ロシナント王国の魔法師団をもってしても、あの速度では、魔法を当てる事すら困難でしょう。我らなんか、何時でも簡単に蹂躙できるというデモンストレーションだったと考えています」
「私は、イングラシア帝国を押さえるのに有効ではと判断しました」
ガバルに続き、ガジルが話し始めた。
「イングラシアの飛龍部隊は脅威ですが、あの偵察機の前では霞みます。我がロシナント王国は、遠方なので被害は有りませんが、イングラシアは海を渡り、ガルシア共和国の領土を侵略し始めていると聞いております。ですが、あの偵察機を見れば、彼等も和平に簡単に応じるのではないかと推察します」
「ペジルはどう思った?」
「和平の為に使うと言うのは、思い至りませんでしたが、協力関係を築いておいても損はないと思いました。ペダル様は、余りの技術差に懸念を抱いている様子ですが、窓口を統括議会のみとし、庶民には害のない技術だけを分け与えればいいのではないでしょうか」
「本当に棲み分けが可能ならば、それも出来るかもしれない。だが、協定なんて破られるのが常。イングラシアも、おのが領土の制圧が完了すると、あっさり不可侵条約を破り、ガルシアへの侵略を始めたではないか。そして、その脅威が、イングラシア帝国の比では無いということが問題なのだ」
皆も漸く、ペダルの懸念を理解した。
「お恐れながら、意見を言わせて頂きたい」
だが、ガバルだけは、反論がある様子で、切り出した。
「確かに、彼等が約束を違え、戦争になる可能性は否めません。しかし、あの技術が他国に行く事の方が脅威です。我々が断れば、別の国と交渉する可能性が高いと考えます。もし、イングラシアにその技術が行けば、悲惨な未来になるのは目に見えています。ここはリスクがあっても、最悪の事態を避ける意味から、彼等の移民を受け入れてはいかがでしょうか」
「他国との交渉を避けたいのであれば、幾らでも方法はある」
議員の一人が、ガバルの意見に反対した。
「例えば世界トップ会談で、受け入れ拒否が決まったとか、嘘をつけばいいだけだ」
「それじゃ、信じて貰えないでしょう。私なら、ダメ元で、直接交渉に出向くと思うし」
「そもそも、それ程の脅威なんですか? 私達は、実際に空飛ぶ船を見ておりませんので、何とも言えませんが、その船を行動不能にする手立ては、本当にないのでしょうか」
皆、勝手な意見を言い始め、収集がつかなくなっていく。
ペダルはそれを見かねて、「静粛に」と勝手な発言をやめさせた。
「他国にあの技術が行くのは問題外で、それは絶対に避けねばならないと分っている。この世界の統一見解として、移民拒否を信じ込ませることも、頭を使えば可能かもしれない。それが出来なくとも、あの船を行動不能にし、他国に行けない様にする事はできる。停泊している状態なら、爆裂魔法を当てる事ができるからな。だが、彼等が斥候に過ぎないという事実を忘れているのではないか? 本体には、沢山の船が、いや、あれ以上の物を保有している可能性が高い。事前に送り込んだ使者が戻らなければ、彼等は怒り狂い、侵略を始める。そうなれれば、我らは簡単に蹂躙され、奴隷となる道しか残されていない。かといって、難民を受け入れる約束をしても、約束が守られないのも、またしかり。だから、なるべく穏便に、この地への移住を諦めて貰える手立てを探りたいのだ。この宇宙なるものには、またまだ沢山の似た様な星があるという。そっちに移住する様に説得し、穏便に帰って貰いたいというのが、私の考えだ。こうして集まって貰ったのは、彼らの機嫌を損ねることなく、穏便に、移住を諦めて貰う手だてを考えて貰う為なのだ」
それを聞いて、皆沈黙する。そんなアイデアなんてある訳ない。
「アイデアではありませんが、彼等『人間』は温厚な種族だと判断されます。言葉が分らないと知らず、捕獲翌日に拷問して、やってきた目的を聞こうとしたのですが、その事ですら、不問に帰してもらえました。ですから、この地への移住は受け入れられないと、正直にその事情を誠意を持って話せば、別の星に行って貰えるのではないでしょうか」
「私も、彼等から戦争をする意志は感じられませんでした。あくまでも平和的に交渉したいと我々を招待したのだと思います」
「それは、目的を遂行するためのポーズ。重大な任務を帯びてやって来たのに、喧嘩する訳にはいかぬであろう。我慢したのはそう言う事。だが、その任務が遂行できないと判れば、態度を豹変する可能性は高い。だから頭が痛いのだ」
結局、そんなアイデアなどでる訳もなく、女王陛下の意見を求めるという結論になった。
ペダルは会議が終わって独りになると、一人のリザードマンを呼びつけた。
「コンロの森のナーシャ殿を探し、呼んで来い。あやつに頼みたいことがある」
「はっ、御意」その男は直ちにその場を立ち去った。
ロシナント王国の南東部辺境地区とはいえ、この地方を統治する統括議員長である彼女には、皆の安全を守ると言う義務がある。
人間という未知なる生命体に、圧倒的な文明差を見せつけられ、難民を受け入れざるを得ない状況だが、彼等を受け入れた後の未来に、彼女は疑念を抱いていた。
勿論、これはロシナント王国の問題で、彼女が悩むべき問題ではないのだが、女王陛下に問題を丸投げするのを、ペダルは良しとは思わない。それぞれのケースを分析し、起こり得る影響をあげ、そうならないための対策案もまとめ上げる。そこまでした上で女王陛下に報告すべきだと考えている。
だが、幾ら考えても、受け入れ拒否した場合の、戦争回避対策の妙案が浮かばない。
既に夜中になっていたが、ペダルは、四人の議員達と、同行したガバル、ガジル、ギル、バズを召集し、今後の対応を相談することにした。
ペダルが会議室に顔を出すと、既に眠そうな顔の面々が集まっていた。呼ばれた理由に関しては、皆、予想がついているはずだが、ペダルは召集した理由を皆に告げる。
「夜分に集まって貰い恐縮だが、例の巨人族の件で、皆の意見を聞きたいと集まって貰った。議員の皆も、話は聞いていると思うが、彼等は巨人族ではなく、人間という空の向こうからやってきた異世界人だった。我々の世界にない圧倒的な技術を持ち、抗う事は困難だろう。そして彼等は、我らの国への移住を希望している。それを受け入れるべきか、否かを議論したい」
「その前に、手土産が何だったのか、教えて頂けませんか」
第一師団長のガバルが手を上げて、質問してきた。
「はい、私の方で開封し、中味を分析中ですので、説明させて頂きます」
同行した参謀官のバズが応え始めた。
「手土産の品は、包丁とロープと小さな布きれでした。ただ、包丁は金属製では無く、白色の未知なる物質で出来ています。とても軽く鋭利で、堅いものを切っても、何ら刃こぼれしません。ロープは黒色の細いものですが、これも未知の素材で、信じられな程の強度を誇ります。試しに端を刀で切り取ろうとしましたが、刀の方が刃こぼれする程の強度でした。布の強度は大した事ありませんが、吸水性が極めてよく、その肌触りは信じらない程にすべすべです。全て瞠目に値する品々で、我々の遠く及ばない技術のたまものと思われます」
「後で、我々も、それを見させてもらう事にしよう。それで話を戻すが、ガバル、ガジル、貴公らは、あの偵察機なるのもを、どう思った」
「どうにもこうにも、驚愕の一言。未だに信じられません。あんな鉄の塊が、空に浮き、信じられない程の速度で移動できるのです。剣や槍では傷一つ付けられず、歯が立ちません。兵器に関しては一切見せて貰えませんでしたが、恐らく爆裂魔法以上の破壊兵器も搭載しているものと思われます。正直、ロシナント王国の魔法師団をもってしても、あの速度では、魔法を当てる事すら困難でしょう。我らなんか、何時でも簡単に蹂躙できるというデモンストレーションだったと考えています」
「私は、イングラシア帝国を押さえるのに有効ではと判断しました」
ガバルに続き、ガジルが話し始めた。
「イングラシアの飛龍部隊は脅威ですが、あの偵察機の前では霞みます。我がロシナント王国は、遠方なので被害は有りませんが、イングラシアは海を渡り、ガルシア共和国の領土を侵略し始めていると聞いております。ですが、あの偵察機を見れば、彼等も和平に簡単に応じるのではないかと推察します」
「ペジルはどう思った?」
「和平の為に使うと言うのは、思い至りませんでしたが、協力関係を築いておいても損はないと思いました。ペダル様は、余りの技術差に懸念を抱いている様子ですが、窓口を統括議会のみとし、庶民には害のない技術だけを分け与えればいいのではないでしょうか」
「本当に棲み分けが可能ならば、それも出来るかもしれない。だが、協定なんて破られるのが常。イングラシアも、おのが領土の制圧が完了すると、あっさり不可侵条約を破り、ガルシアへの侵略を始めたではないか。そして、その脅威が、イングラシア帝国の比では無いということが問題なのだ」
皆も漸く、ペダルの懸念を理解した。
「お恐れながら、意見を言わせて頂きたい」
だが、ガバルだけは、反論がある様子で、切り出した。
「確かに、彼等が約束を違え、戦争になる可能性は否めません。しかし、あの技術が他国に行く事の方が脅威です。我々が断れば、別の国と交渉する可能性が高いと考えます。もし、イングラシアにその技術が行けば、悲惨な未来になるのは目に見えています。ここはリスクがあっても、最悪の事態を避ける意味から、彼等の移民を受け入れてはいかがでしょうか」
「他国との交渉を避けたいのであれば、幾らでも方法はある」
議員の一人が、ガバルの意見に反対した。
「例えば世界トップ会談で、受け入れ拒否が決まったとか、嘘をつけばいいだけだ」
「それじゃ、信じて貰えないでしょう。私なら、ダメ元で、直接交渉に出向くと思うし」
「そもそも、それ程の脅威なんですか? 私達は、実際に空飛ぶ船を見ておりませんので、何とも言えませんが、その船を行動不能にする手立ては、本当にないのでしょうか」
皆、勝手な意見を言い始め、収集がつかなくなっていく。
ペダルはそれを見かねて、「静粛に」と勝手な発言をやめさせた。
「他国にあの技術が行くのは問題外で、それは絶対に避けねばならないと分っている。この世界の統一見解として、移民拒否を信じ込ませることも、頭を使えば可能かもしれない。それが出来なくとも、あの船を行動不能にし、他国に行けない様にする事はできる。停泊している状態なら、爆裂魔法を当てる事ができるからな。だが、彼等が斥候に過ぎないという事実を忘れているのではないか? 本体には、沢山の船が、いや、あれ以上の物を保有している可能性が高い。事前に送り込んだ使者が戻らなければ、彼等は怒り狂い、侵略を始める。そうなれれば、我らは簡単に蹂躙され、奴隷となる道しか残されていない。かといって、難民を受け入れる約束をしても、約束が守られないのも、またしかり。だから、なるべく穏便に、この地への移住を諦めて貰える手立てを探りたいのだ。この宇宙なるものには、またまだ沢山の似た様な星があるという。そっちに移住する様に説得し、穏便に帰って貰いたいというのが、私の考えだ。こうして集まって貰ったのは、彼らの機嫌を損ねることなく、穏便に、移住を諦めて貰う手だてを考えて貰う為なのだ」
それを聞いて、皆沈黙する。そんなアイデアなんてある訳ない。
「アイデアではありませんが、彼等『人間』は温厚な種族だと判断されます。言葉が分らないと知らず、捕獲翌日に拷問して、やってきた目的を聞こうとしたのですが、その事ですら、不問に帰してもらえました。ですから、この地への移住は受け入れられないと、正直にその事情を誠意を持って話せば、別の星に行って貰えるのではないでしょうか」
「私も、彼等から戦争をする意志は感じられませんでした。あくまでも平和的に交渉したいと我々を招待したのだと思います」
「それは、目的を遂行するためのポーズ。重大な任務を帯びてやって来たのに、喧嘩する訳にはいかぬであろう。我慢したのはそう言う事。だが、その任務が遂行できないと判れば、態度を豹変する可能性は高い。だから頭が痛いのだ」
結局、そんなアイデアなどでる訳もなく、女王陛下の意見を求めるという結論になった。
ペダルは会議が終わって独りになると、一人のリザードマンを呼びつけた。
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