セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

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魔物外交編

国王との謁見

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 俺とギグとなぜかキキも一緒に、モールガン王国王宮の大広間に案内された。
 奥の壇上に座っている男が、ギネ・モールガン国王らしい。
 年齢は九十三歳だそうだが、オルネー公同様に若々しい。
 やはり例の変わった着物を着ていて、その上に上質のマントを羽織っている。
 
 ギグと共に壇下に進み、ギグと同じように片足を付いて跪く。
「ギグ、元気そうでなによりだ。話はギルから聞いた。苦労したようだが、無事でよかった」
「すべて、隣にいるモロウ殿達のお蔭です」
「うむ聞いておる。そなたがギグを救出してくれたモロウ殿か。面をあげよ」
 俺は言われた通りに、帽子を胸に抑えたまま、顔を上げる。
「何か礼をしたいのだが、望みのものがあれば言うがいい」
「それでは、この国に我々人間が暮す街の建設許可と、居住の許可とを頂きとう御座います」
「その様な事なら、たやすいことだが、どの位の土地が必要じゃ」
「この王都二つ分程の土地を頂きたい」
 ざわざわと周囲のものが騒ぎ出す。
「勿論、平原の必要はありません。森林伐採も許可頂けるのなら、未開の地で構いません」
「未開の地なら構わぬが、それ程の土地とは、一体、何人が暮らすつもりじゃ」
「最低で二百万人です」
 それを聞いて、周囲の人だけでなく、ギグまでもが驚いていた。
 でも、これはほんの一握りで、裏側の島々にも百万人単位のベースキャンプを十個作る予定だ。
 取り敢えず、地上には一千万人規模の厳選した開拓者を降ろす。
 これがアテーナのはじき出した最低限度の人数だ。
 それでも世界人口百二十億人を考えれば、0.1パーセントに過ぎない。
「今、二百万人と申したか? 我が国とて女子供合わせても百万人程しかおらぬ。馬鹿をいうでない」
「高層建築にて収容しますので、それだけあれば十分に賄えます」
「そういう問題では無い。食糧・薬草・木材、全てが今迄の三倍必要になるという事ではないか。流石にそのような事は飲めん」
「最初は四人、いえ実質一人分だけの提供で構いません。百年を掛けて、食糧・物資等を自給自足できる環境を整え、三百年後から三百五十年後に、二百万人が移住することになります。それまでの収穫物は無償提供させて頂いても問題ありません」
「空の彼方から来た異世界人というのは信じ、話を聞く気でいたが、まさか、そんな絵空話をしてくるとは思わんかった。失望したぞ」
「絵空話ではありません。詳細な……」
 ギグが手を広げ、俺の話を制した。
「国王陛下、このものの船に一度、乗船してみて下さい。考え方が変わります。我も二百万人もの移住計画だったとは知りませんでしたが、『ロボット』なる不思議な自動機械や、『棺桶』なるいつまで老いずに眠り続けられる装置もあります。それらを使い、彼等は都市を開拓する算段なのだと思います。それに、『地球』という彼等の異世界には、『高層ビル』という百層にも連なる住宅や、『軌道エレベータ』なる天にまで聳える高い塔も存在します。実物は残念ながら見ておりませんが、それらの『写真』という絵も見せて貰い、本当に存在するものだと確信しております。ですので、先程彼が話した事は、嘘、偽りのない真実。完璧に計算尽された計画なのだと確信しています。どうか、『宇宙船』という彼等の船を見てから、判断して頂きとう御座います」
 王は暫く悩み、大臣らしき人物を呼び寄せて、耳打ちした。
【何かまた悪巧みしてる気がするわね】
【馬鹿、ギグにも聞こえてるということを忘れるな】
「よし、分った。モロウ殿、息子の恩人でもあるにも関らず、無碍にして悪かった。取り敢えず、食事の支度をさせてある故、食事でもしながら、もう一度、詳しく話を聞こう。以上じゃ」
「控えよ」 何処からか声がして、俺は再び深々と頭を下げた。





「父上が何か考えているのは確かだろうが、我が国王ギネは、マリルの様な悪党では無い。話せば必ず理解してもらえる。必ず、説得して見せる故、我に任せてはくれまいか」
 控室に戻ると、ギグが頭を下げて来た。
【うん、信じても良いけど、こっちもそれなりに対策は考えておかないとな】
【ギグ、御免ね。悪気はないの。基本、ギグに任せるつもりだけど、こっちもそれなりの準備をしておかかないと、不安なのよ】
 ということで、どう相手が出て来るかを予想し、それぞれの対策を相談し始めた。
 でも、十五分もせずに、執事が呼びに来て、晩餐となった。議論が白熱し、未だ何も決まっていないが、時間切れ。こうなれば、行き当たりばったりで対応するだけだ。
 食堂には既に王族の家族全員が集まっていた。初めて顔を見る王妃と第一王子もいる。
「ギグ、心配したぞ」
「牢獄生活は辛かったでしょう」
 王子と王妃とが、座ったまま、現れたギグに話し掛ける。
 この食卓は、少し長めのテーブルに三人、三人が向き合って座る形式。奥が王子、中央に国王、手前に王妃の順で座っている。そして、こちらは俺が奥の左端で、中央がギグ、右端がキキと言う順で座った。

「では、始めようか。ここでは堅苦しい礼儀は無しだ。無礼講でやってくれ」
 そして乾杯の後、家族の団欒が始まった。許婚のキキも楽しそうに話しに混じっていて、俺だけが門外漢だ。
 それでも食事が美味しければ、黙々と食べるのだが、美味しかったのはローストビーフの様な少量の肉料理だけ。見た目こそ、オルネー公爵家よりましだが、味も食感も不味い料理ばかり。
 だから、この晩餐の時間は、とても辛い時間だった。
「ところでギグ。ロシナント国内で、麻薬製造工場を見たと言うのは本当か?」
「はい、一面に芥子畑が広がり、その横で、アヘンの製造をしていました」
「やはり、麻薬の入手ルートはロシナントだったんですね」
「どの辺りか、分るか」
「済みません。ロシナント南部のミザリー村から徒歩で一日程の所ですが、道に迷って、偶然見つけたので、はっきりとは分りません」
【正確な位置を特定できますが、如何いたしましょう】
 流石は、アテーナさん。
【分った。現在の衛星映像も準備してくれ。それとタブレット画面を壁に投影する方法はないかな】
【私には分りかねます】
【無理だね。この部屋の物でプロジェクタの代用品は作れない】
【分った。ならいい。先ずはこの王宮を中心にズームしといてくれ】
「その件で、少し、良いですか」
「モロウ殿は、なにか、ご存じなのですか?」
「ええ、我々には神の目があります。空から見えるものなら、何処であっても、見る事ができます。小さい画面で恐縮ですが、こちらをご覧下さい」
「おいモロウ。見えないぞ」
【あんたは良いの。見たいなら、向こうに回りなさい】
 セシルがなぜか切れた。くわばら、くわばら。
 そして、ギグはキキも誘って椅子を持って向こう側に移動した。俺も国王の目の前の中央に移動する。

「いまここに映っているのが何処だか分りますか?」
「我が国の王宮」
「凄い。実物みたいにそっくり」 キキが感激し、
「否、実物だ。これが写真というものだ」 ギグが自慢する。
「残念ながら、これは写真ではありません。現在のここをそのまま宇宙船から見ています。その証拠に、誰か窓から手を振って頂けますか」
 俺は更にズームアップして、この部屋を中心に映す。
「嘘だろう。紛れもなく今の我だ。こんな事もできるのか」
「なにかトリックがあるのではなくて?」 冷静な王妃も、おどろきを隠せない。
 そして各自、次々と窓から手を振り始める。
「凄い技術じゃな。だが、それがどうしたと言うのじゃ」
「はい、では次に進みます」
 今度はどんどん縮小して行く。
「国王陛下は世界地図を御存知ですね。ではこれが何だ変わりますか」
「神の大地か。いったい、なにがしたい」
「これも今現在の画像です」
【アテーナ。センタリングを頼む】
「いま、少し移動したのが分りましたでしょうか。これをどんどん、拡大して行きます」
「これは、ロシナント南部じゃな。意図がわかったぞ」
「流石は国王陛下。間も無く、芥子畑が見えてくる筈です」
「おおっ、そうだ。あれがアヘン工場だ」ギグが興奮している。
「どこどこ」
「あの上にあるやつ」
「リザードマンが何かを運び入れておる」
「どうですか。月明かりなので暗いですが、紛れもなく芥子畑はここにあります」
「モロウ殿済まぬがもう一度、ミザリー村が見えるぐらいに拡大して貰えぬか? ギラ、直ぐに、ロシナント南部の地図を持ってこい」
 それは縮小だし、ミザリー村が何処かも分らないが、要望の航空写真を表示して上げた。
「どうなさる気ですか。ここから遠征するつもりなら、条約の話も絡みますし、戦争になりかねませんが……」
「勿論、戦争覚悟よ。なあ、父上」
 だが、国王は腕組みして、考え込んでしまった。
「国王陛下、アヘンをばら撒いて国民を堕落させただけでなく、ギグ王子を幽閉していたんですよ。このまま何もしないなんてありえないでしょう」
「キキは黙ってなさい。陛下にはいろいろと深いお考えがあるの」
 王妃の一言でキキはしゅんとしてしまった。
「提案なんですが、明日、我々の船にお越しになりませんか? よろしければ、その船でこの辺り一帯を、焼け野原に変える所をお見せできますが……」
「おお、それがいい。父上、人間仕業なら、戦争にも成りませぬ」
 それでも国王は腕組みしたまま思案を続ける
「地図を持って参りました」
 そこに第一王子のギラが戻ってきた。そして、食器を押しのけて広げる。
「ええっと、ここがミザリーだから……。こんな所に道ができているのか。ウム。凄い」
 タブレットと見較べながら、ペンでそこに至る経路を書き込んでいった。
「良し分った。明日、明後日はどうしても開けられぬ用事があるが、三日後なら何とか時間を作る。だから、是非、ご協力を御願いしたい。ただし、移住の件は、それとは別にして欲しい。図々しいお願いだが、それ以外の報酬なら、いくらでもだす。それで勘弁して欲しい」
【うん、足がかりとしてはありかな】
【私も賛成】
「父上、何でですか? 資材も物資も不要。土地だけ提供するだけではないですか」
「ギグ、お前は黙ってろ。父上には、この国民を守る責任があるのだ」
「了解しました。この件は、我々の開発計画を、ちゃんと聞いて頂けるという条件で、協力させて頂きます」
「聞くのは良いが、承諾するとは限らんぞ」
「構いません」

 そういう事で、急遽、三日後の午前中、ヘリオスにこの晩餐の同席者全員を招待することになった。

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