セジアス 魔物の惑星

根鳥 泰造

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魔物外交編

慈善活動

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「なんで俺が、そんなロボットを作らなければならないだよ」
「そうよ。薬品は製造マシーンでは作り出せないの。なんで貴重な薬品を使って、知らない人たちの治療をしなきゃならないわけ?」
 モールガン王国の治安回復に必要な項目をアテーナがまとめ、それを割り振ろうとした途端、皆が不満を言いだした。
「今更なんだよ。昨晩、皆で納得の上、引き受けた事じゃないか」
「そうだけど……」
 二人とも、それで黙ってはくれたが、不満を抱いているのは明らかで、嫌な空気に包まれる。
 やれやれだが、飛んでも無い事を引き受けてしまったと、俺自身も頭を抱えた。


 どうしてこうなったかと言うと、狸親父のギネ国王に、ものの見事にしてやられたのだ。

 ヘリオス見学会の後、アヘン工場を壊滅させたお礼を、国王から尋ねられた。
「麻薬は、毒以外の何物でもなく、それを潰すは、我々の望む所でもあります。当初の約束通り、話を聞いて頂けただけで十分です。それ以上の礼はいりません」
 そう断ったら、「では歓迎パーティーはどうだろう。君たちを王宮のパーティーに招待したい」と言ってきた。
 また何か罠に嵌める気ではと警戒したが、虎穴に要らずんば虎児を得ず。その招待を受けることにした。
 そして、念入りに打ち合わせして、様々な防護対策を取って準備し、ヘリオスで直接王宮に乗り付けた。
 
 その立食パーティーには、貴族や大臣、王都の顔役等が多数集まっていた。オルネー公やキキの家族も出席していた。
 その席で、国王は、我々の事を英雄の様に紹介し、我々を国賓として向えると宣言した。
 そして乾杯の音頭と共に、次々と人が集まって来て、質問攻めにあった。
 皆、ロシナント王宮事件や、王族を宇宙船に招待したことも知っていて、ロシナントでの事や、我々の異世界の話を、あれこれ質問してきた。
 貴族の屋敷に招待もされたし、異世界の品を売りたいと商談を言いだす者もいた。中にはお色気たっぷり誘惑してくる、困った(嬉しいというべきか)ご婦人方もいた。
 我々の持つ貴重な品が目当てだったみたいだが、敵意は感じられなかった。
 それでも、何をしてくるか分らないので、酒も控え、周囲の警戒をしていた。
 だが、俺が念話で【要注意人物は見つかったか】とアテーナさんに聞いてから、状況が変わった。
【己が利益で親睦を謀っておこうという輩は多数いますが、危害を加えようとか、計略に嵌めようと言う人物はこの中にはいないようです。ですが、念の為、酒は控え、注意は怠らない様にお願いします】
 アテーナが、そう警告したにもかかわず、それからは皆、お酒も勧められるままに飲んで、羽目を外し、酔っ払っていった。
 俺も何度も念話で注意したが、そのうち、杞憂だのにそこまでする事は無いかという気になり、俺も楽しい時間を過す様になっていった。
 それが国王の謀略だったとも知らずに。

 そんな訳で、パーティーは御開きになった時には、すっかり酔っぱらって、いい気分になっていた。
 そして、帰ろうとしたところで、ギラ王子が、「人間の移住受入れの件で、お話したいのですが、良いですか」と切り出して来た。
 酔っぱらった状態で、大事な話なんてするべきではないが、いい気分だったこともあり、全員でその会談に臨むことになった。
 
 むこうは、国王、ギラ王子、大臣四人で、六対五の会談だったが、そこで国王が涙ながらに訴えて来た。
「我々としては、例え二百万人であろうと、人間種を受け入れたいと思っておる。だが、正直、今の我が国の状態では困難なのじゃ」
「ですから、当面は四人だけ。十年後には一人か二人だけと説明したでしょう」
「それも理解しておる。その四人を守るだけの安全確保も難しい。これだけ国内が腐敗し、治安が悪化してしまうと困難なんだ。国賓として公表する事で、守る努力はしているが、正直、今の我々には貴公らを守れるだけの余力はない」
「我々を守る必要はありません。自分達の事は自分達で守るつもりですから」
「それが問題なのだ。貴公らは、二度と刃向かう気が起きなくなるまで、制裁を続けるであろう。それが一回だけで済むのなら、多少の騒ぎが起きても問題ない。だが、再三にわたり、そんな事件が起きると、現状では国家存亡の危機に匹敵する事態になるのじゃ」
「ですが……」
「そこで、提案なのだが、我が国の治安回復に協力して頂けないだろうか。一任してもいい。それさえできれば、国力も回復することができる。貴公らの受け入れ協定に調印すると約束する。どうだろう」
 協力要請があるとはいえ、それは内政干渉に当るし、治安回復には我々の文明技術を投入する必要がある。
 俺が応えずに悩んでいると、セシルが言って来た。
「受け入れて貰えるのなら、それ位の協力をしても良いんじゃない」
「うん、困っている人を助けるのは当然のことだし……」ガスパも賛成した。
【私は反対します。既存知的生命体に、技術公開せず、文化交流も持たない方針に決めた筈です】
「アテーナさんは、心が狭い。度量が足りんぞ」
「俺も、害にならない程度の文化交流ならありだとおもう」ケビンも賛成。
 そんな訳で、国王の策略にはまり、治安回復の達成が、人類受け入れの交換条件になってしまったという訳だ。



「まあまあ、引き受けちゃった以上、ここは頑張るしかないじゃないか」
 ケビンが重い空気にいたたまれれなくなり、そんな事を口にした。
「そうそう。我も出来る事があれば、手伝う故」
「あんたたちは何も苦労しないじゃない」セシルが切れた。
「いや、俺だって、防犯カメラシステムなんて慣れないソフト作りをするし」
 ケビンがそう言ってギグに視線を送ると、一斉に彼に視線が集まった。
「だから、我に出来る事があればと」
「脳味噌まで筋肉で、何もできないじゃない」
 ギグはしゅんとする。
「セシルさん、言い過ぎです。私が反対したのに、仲間にすると言い張ったのはあなた方じゃないですか。しかも、今回の件も、私の忠告を無視して、治安回復まで約束したんですから。つべこべ言わずに、私の計画通りに働いて下さい」
 じっと沈黙を保ってきたアテーナの一言で、セシルもガスパも、諦めてくれた。
 やはりアテーナさんは最強だ。

 因みに、俺にもちゃんと仕事がある。王宮で何もしないで威張っている鬼人どもを指図して、各地に病院や診療所という箱を作らせることと、警察と言う新たな組織を構築する仕事。
 命令するだけで、何もしてないって。
 いや、人を使うと言うのは人間力も必要で、実はかなり大変なんだよ。これが……。

 治安回復で、何で病院までつくるのかって? 
 それはアテーナの分析に基づく、深い考えがあってのこと。

 現在、この国の治安を乱しているのは、暴力と麻薬と性病。性病が何で治安の悪化に繋がるのかと思うかもしれないが、それは我々が梅毒モドキと勝手に命名した致死の病だから。特効薬のないこの世界では、不治の病で、毒性が強く僅か五年程で死に至る。発症して性病だと気づいたものの多くが、犯罪に走りはじめる。
 だから、暴力と麻薬と性病を根絶する必要がある。

 暴力事件を多く引き起こしているのは暴力団。暴力団は、無数に存在するが、大きな力を持つのは、反政府ゲリラと五つのマフィア組織。配下の暴力団組織や、何処にも所属しない暴力団も多数存在する。そのマフィアは自分の勢力を拡大しようと、抗争しているので、暴力事件が後を絶たない。一般人も巻き込まれ、被害にあう。
 反政府ゲリラも資金調達の為、村を襲ったり、山賊紛いに荷馬車を襲ったりするし、マフィアとも揉めて、戦闘行為を行っている。
 このため、死傷者が多数出ている状況だが、病院は大都市にしかない。薬草の類も流通不足で手に入らない。痛み止め代わりにアヘンが使われ、大量の麻薬中毒患者を生み出し、マフィアの資金源になっている。
 それともう一つの資金源が売春。買春そのものは止めようがないが、何処からか性病が持ち込まれ、現娼婦の多くは性病持ち。そのため、国民に性病を広げる結果となり、自分も死ぬのかと絶望してやけになり、犯罪に走ったり、アヘンに手をだす人が急増している。
 そんな訳で、誰もが怪我や性病の治療ができる環境を整えなければ、治安回復はできないというのが、アテーナの結論。
 確かに巨大マフィアを潰したところで、もぐら叩きだし、梅毒モドキが蔓延してしまえば、この国が崩壊するのも間違いない事実。
 また薬物中毒患者の対応も必要。大口の麻薬入手ルートは潰したが、手に入らなくと価格が高騰し、犯罪増加に繋がる。そうならないように麻薬患者の治療も必要で、病院が必要となる。
 そんな訳で、頼まれていない医療施設の充実も我々がするという事になった訳だ。
 因みに、この国には裁判制度も警察組織も存在しない。国王が神で、国民の動向を見守り、目に余る犯罪が起きると、国王が逮捕・殺処分命令を出し、モールガン国軍が悪党退治に出向くという治安管理を取っていた。
 こんなのでは、例え、アヘン流通がなくても、治安悪化は起きていたと予想する。
 裁判所や消防署等まで、作るつもりはないが、一応、気づいた事は国王に伝えておくつもりだ。







 それから三カ月は馬車馬の様に働く日々だった。
 俺は国王や大臣の説得に動き、警察組織や病院・診療所設立の約束を早々に取り付けたし、ガスパも、三種類の警備ロボットの開発を済ませた。
 セシルは、王都の病院の医師に、性病診断と治療の仕方を教え、次々とやってくる看護師や医師の卵に、毎日講義や特訓をして、医療従事者育成に追われている。
 アテーナも、皆の健康管理、宇宙船の保守点検等の大変な通常業務と、皆のサポートや雑用を熟したうえ、偉業も成し遂げた。梅毒モドキにペニシリンが効くのは分っていたが、薬品庫のペニシリンでは圧倒的に不足している。そこで、セジアスの菌種からペニシリンを作り出せと、セシルから難題を押付けられていたのだ。菌種採取には、俺やギグも協力したが、アテーナが試行錯誤を繰り返し、ペニシリンではないが、類似の特効薬をつくりだし、見事に量産ラインまで作り上げた。
 ケビンに関しては、作ったプログラムがバグだらけで、ガスパが殆ど作り直す事になり、落ち込んでしまっていたが、防犯カメラの最適配置の導出や、その設置管理任務を与え、頑張って貰った。
 そして、ギグにも期待以上に頑張って貰えた。この地での顔が広さを生かし、警察組織・病院設立での働く人材集め、協力支援者集め、資材調達等で、八面六臂の大活躍してくれた。
 
 やっぱり、俺だけ殆ど働いてないって? 確かに一カ月程で全ての手配が済んだけど、それは俺が優秀だからだし、ケビンのフォローを始め、クルーの不満を聞いたりして、結構大変だったんだ。ただ酒を飲んでいただけでは、決してない。


 そして、各地の病院・診療所開業と、交番型警察組織の運営か開始した。
 防犯監視ドローン、フチコマ型追跡捕獲ロボット、ターミネータの様な鬼人型戦闘ロボットが早速大活躍して、次々と犯罪者を逮捕して行った。
 刑務所はこの国の牢屋で賄えると準備しなかったが、あっという間に、牢屋は逮捕者で埋め尽くされた。
 アテーナもそれ位、シミュレーションしておけと言いたい。
【最初に助言しました。牢屋は既にあるから不要だと、楽されたのはどなたでしょう】
 今は通信コネクタは外しているのに、やはり俺の心が読まれているのは間違いない。

 病院・診療所も大繁盛。混雑防止の意味から、薬代とは別に薬草程度の金額の診察料を取る様にしたのに、長蛇の列ができた程。特効薬が底をつくという問題まで起きた。アテーナの予想以上に、梅毒モドキに感染した患者がいたみたいだ。


 こうして、一日目に早くも多くの問題が浮き彫りになり、その対策に俺が奔走するしていた三日目、新たな事件が起きた。
 セシルが何者かに誘拐されたと、アテーナが緊急通信で連絡して来たのだ。
 誘拐も想定し、常に監視ドローンでモニタし、護衛を付ける様にしていたのに、その仕組みが機能しなていなかった。突然、彼女の通信機から悲鳴が聞こえ、連絡がとれなくなったのだとか。
 その連絡を受けると、俺は首に通信コネクタを填め、アテーナに八つ当たりしていた。
【なんで、フチコマを護衛に付けなかった】
【申し訳ありません。警察の援助要請があり、まだ講義中の時間でしたので、つい……】
【それで今の状況は】
【細い路地に居て、ここからでは状況を視認できません。ですが、タブレットにて居場所の特定は、できております。移動中ですが、マップを送ります】
 脳内にマップが展開された。文化施設の傍だが、ここから走っても二十分は掛る距離だ。
【すくに、フチコマをそこに向わせろ】
【既に、手配しておりますが、到着まで少し時間がかかります】
 俺は、そのマップを頼りに、直ぐにフチコマと共に助けに向かった。
 だが、俺が到着した時には、既にそこは蛻の殻。割れて壊れたタブレットが転がっていただけだった。
 治安回復なんて引き受け、皆で別行動さぜるを得なくなっていた事が招いた惨劇。
「くそっ、何処につれていかれた」おもわず独りで愚痴をいう。
【本当に申し訳ありません。直ちに全カメラにて居場所を特定する様に努力します】
【心配するな。やつら、俺達に何かをさせる積りで、誘拐したに違いない。何もしたりしないさ。俺も直ぐに向かうから】
 ガスパが慰めてくれた。
 俺もそう思うが、居ても経ってもいられない。もしもの事があったらと、気が気でない時を過ごした。



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