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魔物外交編
囚われのセシル
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セシルは、モールガン王都の文化施設にて、五十人程の鬼の前で、教鞭を取っていた。
タブレットを操作しながら、プロジェクタでそれを壁に映し、流暢なセジアス語で講義している。
既にペラペラで翻訳器など不要。ただ、この国には医学専門用語があまりに少ないので、単語にはかなりの英語(厳密にはドイツ語が多い)が混じっている。
彼女以外のクルーは、皆、自分の仕事に一段落を付け、普通の生活に戻っているが、彼女だけは、未だに医師の育成に励んでいる。
一応、三カ月で、必要な医療行為が最低限できる医師を育成するという無茶なミッションはクリアしたが、それでも圧倒的な人材不足の為、第二陣の人材育成もすると、セシル自信が言いだしたのだ。
最初は、なんでそんなことしなくてはならないと、不満に思ってたセシルだが、生徒が先生、先生と敬い、病院の医師達からも、先生の医学を教えて欲しいと頼られると、悪い気がしなくなっていった。
それに病院なら、いろんな種族の鬼人の身体を調べられる。それが、セシルの喜びにもなっていた。
そんな授業の最中に、独りの子供の一角鬼が入ってきた。否、頭がツルツルで老け顔なので、ゴブリンだ。
「セシル先生、先生の協力を仰ぎたいので、先生を呼んでくるようにと言われまして……」
どうやら、王都病院からの使者らしい。
良く病院の医師から、患者の治療を依頼されるが、こんな所まで呼びに来るなんて初めての事。よほどの急患で、処置の難しい患者に違いない。
「わかりました。今行きます」そして、生徒の方に向き直る。
「今日は、これで自習にします。ですが宿題を出します。顔色が悪く、唇が紫になり、身体に震えがある患者が現れた時、何の病気を疑い、どういう対応をするか、それを考えておいてください」
そう生徒に指示して、そのゴブリンと共に王都病院へと向かった。
「あれ、こっちの道じゃないの?」
「いえ、こっちの方が近道なんです」
ゴブリンはそう言って、大通りを逸れ、薄暗い路地へと入って行った。
少し怪しいとは思い始めたが、それでも彼の後について、病院へと急いだ。
すると、案の上、顔をマスクで隠したゴウモールらしき男が二人現れた。
身長百五十センチ程で、ストレートの髪の毛で、一本角がゴウモール種の特徴だ。
「先生、逃げてください」
ゴブリンの使者はそう言ったが、白々しい演技。私を誘拐しようと誘い出したのは見え見え。
案の上、後ろにはオークかオグルか分らないが、ギグの様な体型のマスクをした黒ずくめまで現れた。
さて、どうしよう。
後ろの鬼の種族が確認できないけど、オークなら互角で、オグルなら私では敵わない。
前は案内人の振りをするゴブリンを含め三人いるけど、こっちはたかがゴウモール。
私は前の三人の方に突っ込んで行き、突破する事に決めた。
人間の身体能力は、オグル以上あるし、重力が三分の一なので、今の私はスーパーウーマン。ゴブリンを付き飛ばし、ゴウモールの一人に回し蹴りを入れて気絶させ、もう一人の肩に手をついて、頭の上を跨いで逃走してやった。
この世界なら、私の足でも、信じられない速さで走れる。しかも、酸素が地球より濃いので、息が切れない。
あっと言う間に彼等を引き離していった。
だが、何処からか網が飛んできて、私はドテッと道に倒れた。直ぐに網から出て逃げないと思うが、その網はベトベトとトリモチの様に絡みつき、どんどん身動き取れなくなっていく。
そして、息を切らせながら、あいつ等が遣って来た。
「手間取らせやがって。ガンツ、良くやった偉いぞ」
ゴウモールの一人が、そういうと、五十センチ以上もある巨大な蜘蛛のモンスターが上から降りて来た。この網は蜘蛛の糸だったらしい。
「耳の通信機を壊して置け。それで何処にいても連絡がとれるらしい」
オークらしき男が、命令し、そのゴウモールが私のイヤホンを奪い、踏み潰した。
その後、もう一人のゴウモールも現われ、私は網から引きずり出された。最悪な事に服が蜘蛛の巣に絡んでいたので、服をナイフで切り裂いて、下着姿にされた。
私はタブレットをポケットから取り出し、連絡機能をオンにする。
「それは何だ。奇妙な道具をもってやがる」
「これはタブレットと言う貴重なものなの。お願いだから、これは壊さないで、授業で使う大事なものだから」
「ええ、確かに講義の時、これを使っていました」
「まあ、いいだろう」
ゴブリンの発言で助かった。これで、何処に連れ去られても、直ぐに助けに来てくれる。
ロープで後ろ手に縛られ、目隠しされ、下着姿の恥ずかしい恰好で、どこかにつれていかれた。
三分程歩いたところで家の中に連れ込まれた。どうやら、ここがアジトらしい。
だが、そこにいたリーダーらしき男が用心深かった。
「それは何だ?」
「授業に使う大切なものだとかで」
「馬鹿野郎。人間の技術力を侮るな。もうここは奴らに知られてるに違いない。廃棄する。まだ何か持ってるかも知れないから、調べてから、つれてこい。仕方がないので、例の隠れ宿に移動する」
私は身体を男達に触られ、死にたいほど悲しかった。
その後、麻袋に入れられ、荷車に乗せられて、暫くガタゴトと移動し続けた。そして、賑やかな繁華街らしき場所にて、荷車が停まり、麻袋のまま抱えられて、どこかに運び込まれた。
変な臭いのする空気の悪い場所だが、そこで、袋から出して貰え、目隠しも取られた。
リーダらしき男は顔全体を隠しているが、彼の着物は高級品。隣のオーガよりも品があり、まちがいなくオグル族。
そして、その部屋にはゴウモールの二人と、ゴブリン以外にも、やつれてやせ細ったホブリンの女が二人寝転がっていた。彼女らの一人は、恍惚の表情でパイプで煙を吹かしている。どうやらここはアヘン窟。着物姿だが、下着を着ていないので、もしかして、この二人は売春婦なのかもしれない。
「ここで大人しくしていろよ。ゴブ、見張ってろ。絶対に変な事するんじゃないぞ」
「わかってやすよ。命はおしいので」
そして、ゴブと呼ばれるゴブリンを残し、皆が出て行った。
しかし、この場所は不味い。部屋中に煙が充満していて、私もアヘンを吸う事になる。
私は、扉の横の外気が流れ来る場所に座ることにした。
そして、閉じ込められれてどれ位経ったのか判らないが、私もアヘンにやられたらしい。頭がぼうっとし始めて、気持ち良くなり、何も考えられなくなっていた。知らないうちに涎まで垂れ流している。
「そろそろ気持ち良くなってきただろう。もっと楽しいことしようぜ」
ゴブはこの環境でも平気なのか、私に近寄って来て、胸を揉んできた。
「触るな外道」私はゴブを蹴りあげてやった。
ゴブはふっとんで倒れた。股間の急所は外れたが、かなり痛そう。
「ちっ、まだ威勢がいいな。だが、いつまでそうしていられるかな。それまで、一発抜いておくか」
そういって、傍にいたホブリンの女の一人と始めてしまった。
私はアヘンで酩酊しているせいか、妖艶な声が私の性欲を刺激し、昂奮してしまう。
上半身半裸のモロウを思いだし、ますます興奮してしまう。
事が終わった時には、もうしたくて堪らなくなっていた。
今度、ゴブがまた抱きに来たら、もう拒める自信が無い。
「モロウ、早く助けに来て」
それからは、何度も念仏を唱える様に、小声で呟き、弱っていく自分の心を戒め続けた。
そして、それから三十分ほどして、再びゴブが私に近づいて来た。
もうどうでも良い気がするし、抵抗する気にもならない。私は涎を垂れ流しながら物欲しげに、ゴブを見つめる。
「流石にもう何も考えられないか」
そう言って、私の胸を揉んで来た。その時だった。
外が突然騒がしくなり、「セシルどこだ」とモロウの声がした。
なのに、嬉しいという感情が湧いてこない。まるで、あの精神操作魔法を掛けられていた時の様。モロウの声だと認識はでき、私を助けに来てくれた事も認識できる。けど、それが何という醒めた状態。
「くそっ。見つかったか。声を出すな」
ゴブが私の背後に回り、口を手で押さえた。そして、私を入口の方に向かせ、首に刃物を当てて来た。
そんな状況なのに、なんで彼がそんなことをするのかすら分らない。
「一体どこにいるんだ。セシル、何か言ってくれ」
「ううっ、ううう」
手が口に添えられていて声にならなかったが、応えなくてはいけない気がして、「私はここよ」と声を上げた。
そして、首に痛みがして、血がポタポタ垂れはじめた。
それを見ている内に、次第に酩酊状態が少し醒めて来た。何とかこの居場所を知らせなければ。
私は一気に立ち上り、ゴブの顎を肩で突き上げてやった。そして、彼に思いっきり蹴りを入れてから、ドアの前で叫ぶ。
「私はここよ。早く助けて」
「この戸棚の裏か」
気付いてくれた。そして、暫らくして、モロウとガスパールが現れた。
「セシル、怪我をしたのか?」
「モロウ。なんで直ぐに助けに来てくれないの」
手が自由にならないけど、私は彼の胸に倒れ込む様にして飛び込んでいた。
ガスパールは私の後ろに回り、手のローブを解こうしてくれている。
「ちょっとセシル」
彼が片手を背中に回し、もう一方の手で顎を持ち上げて来る。
漸く、キスしてもらえるんだ。
嬉しさが湧きあがり、私は目を閉じ、顔を突き出した。
「お暑いですね」
その言葉で、ハッとした。私は何をしてるんだろう。
モロウは単に傷口を確認しようとしただけ。それれなのに私は……。
今は下着姿で、彼に乳房を押しつけている認識も出来てきた。
猛烈に恥ずかしさが込上げて来る。
「見ないで」直ぐにその場に座り込む。
「出血のわりに、傷は深くなさそうだね。はい、これ!」
モロウは顔を横に向けると、手提げ袋を渡して来た。中には私の服が入っていた。
「一旦ドアを閉めるから、着替えたら、教えて」
そう言って、ガスバールもゴブを抱える様にして、出て行った。
独りになると、(廃人二人も一緒だが)ちゃんとモロウが助けに来てくれた嬉しさが込上げて来た。
ズキズキとする首の痛みで、本来の自分に戻って来ている。
やはり、モロウは白馬の騎士。いや、ドンキホーテ・デラマンチャかな。
気を使ってくれたみたいで、抜けている。こんなにアヘンが充満している所に閉じ込めるんだもの。
そんな不満も感じつつも、嬉しさで口元が緩むセシルだった。
外の鬼たちはフチコマ型警備ロボットに捕まっていた。でも、あのリーダーとおぼしき男はいなかった。用心深い男だったので、直ぐにここを離れたに違いない。
セシルは、それをモロウに告げて、外に出た。
太陽がまぶしく、風が気持ち良く、火照った身体を醒ましていく。
無事にこうして、また元通りに戻れたことを、素直に喜ぶ。
「なあセシル、やっぱり講義は別の鬼人に任せないか。いつかは任せなければならない事だし、俺達は一緒にヘリオスから静観しているのが良いと思うんだ」
既に第二期生徒への講義を始めているし、途中で投げ出すのは嫌。だけど、こんな事になってしまった以上、我儘は言えない。
「じやあ、キスしてくれたら、あなたの言う事をきいてあげる」
口にしてから、ハッとする。
「いや、それは……」
「冗談よ。まだ、させて上げる訳ないでしょう」
直ぐに誤魔化したけど、本気でキスして貰いたいと思っていた。アヘンって怖い。
今回の件で、ますますモロウと一緒になりたい気持ちが強くなったセシルだった。
タブレットを操作しながら、プロジェクタでそれを壁に映し、流暢なセジアス語で講義している。
既にペラペラで翻訳器など不要。ただ、この国には医学専門用語があまりに少ないので、単語にはかなりの英語(厳密にはドイツ語が多い)が混じっている。
彼女以外のクルーは、皆、自分の仕事に一段落を付け、普通の生活に戻っているが、彼女だけは、未だに医師の育成に励んでいる。
一応、三カ月で、必要な医療行為が最低限できる医師を育成するという無茶なミッションはクリアしたが、それでも圧倒的な人材不足の為、第二陣の人材育成もすると、セシル自信が言いだしたのだ。
最初は、なんでそんなことしなくてはならないと、不満に思ってたセシルだが、生徒が先生、先生と敬い、病院の医師達からも、先生の医学を教えて欲しいと頼られると、悪い気がしなくなっていった。
それに病院なら、いろんな種族の鬼人の身体を調べられる。それが、セシルの喜びにもなっていた。
そんな授業の最中に、独りの子供の一角鬼が入ってきた。否、頭がツルツルで老け顔なので、ゴブリンだ。
「セシル先生、先生の協力を仰ぎたいので、先生を呼んでくるようにと言われまして……」
どうやら、王都病院からの使者らしい。
良く病院の医師から、患者の治療を依頼されるが、こんな所まで呼びに来るなんて初めての事。よほどの急患で、処置の難しい患者に違いない。
「わかりました。今行きます」そして、生徒の方に向き直る。
「今日は、これで自習にします。ですが宿題を出します。顔色が悪く、唇が紫になり、身体に震えがある患者が現れた時、何の病気を疑い、どういう対応をするか、それを考えておいてください」
そう生徒に指示して、そのゴブリンと共に王都病院へと向かった。
「あれ、こっちの道じゃないの?」
「いえ、こっちの方が近道なんです」
ゴブリンはそう言って、大通りを逸れ、薄暗い路地へと入って行った。
少し怪しいとは思い始めたが、それでも彼の後について、病院へと急いだ。
すると、案の上、顔をマスクで隠したゴウモールらしき男が二人現れた。
身長百五十センチ程で、ストレートの髪の毛で、一本角がゴウモール種の特徴だ。
「先生、逃げてください」
ゴブリンの使者はそう言ったが、白々しい演技。私を誘拐しようと誘い出したのは見え見え。
案の上、後ろにはオークかオグルか分らないが、ギグの様な体型のマスクをした黒ずくめまで現れた。
さて、どうしよう。
後ろの鬼の種族が確認できないけど、オークなら互角で、オグルなら私では敵わない。
前は案内人の振りをするゴブリンを含め三人いるけど、こっちはたかがゴウモール。
私は前の三人の方に突っ込んで行き、突破する事に決めた。
人間の身体能力は、オグル以上あるし、重力が三分の一なので、今の私はスーパーウーマン。ゴブリンを付き飛ばし、ゴウモールの一人に回し蹴りを入れて気絶させ、もう一人の肩に手をついて、頭の上を跨いで逃走してやった。
この世界なら、私の足でも、信じられない速さで走れる。しかも、酸素が地球より濃いので、息が切れない。
あっと言う間に彼等を引き離していった。
だが、何処からか網が飛んできて、私はドテッと道に倒れた。直ぐに網から出て逃げないと思うが、その網はベトベトとトリモチの様に絡みつき、どんどん身動き取れなくなっていく。
そして、息を切らせながら、あいつ等が遣って来た。
「手間取らせやがって。ガンツ、良くやった偉いぞ」
ゴウモールの一人が、そういうと、五十センチ以上もある巨大な蜘蛛のモンスターが上から降りて来た。この網は蜘蛛の糸だったらしい。
「耳の通信機を壊して置け。それで何処にいても連絡がとれるらしい」
オークらしき男が、命令し、そのゴウモールが私のイヤホンを奪い、踏み潰した。
その後、もう一人のゴウモールも現われ、私は網から引きずり出された。最悪な事に服が蜘蛛の巣に絡んでいたので、服をナイフで切り裂いて、下着姿にされた。
私はタブレットをポケットから取り出し、連絡機能をオンにする。
「それは何だ。奇妙な道具をもってやがる」
「これはタブレットと言う貴重なものなの。お願いだから、これは壊さないで、授業で使う大事なものだから」
「ええ、確かに講義の時、これを使っていました」
「まあ、いいだろう」
ゴブリンの発言で助かった。これで、何処に連れ去られても、直ぐに助けに来てくれる。
ロープで後ろ手に縛られ、目隠しされ、下着姿の恥ずかしい恰好で、どこかにつれていかれた。
三分程歩いたところで家の中に連れ込まれた。どうやら、ここがアジトらしい。
だが、そこにいたリーダーらしき男が用心深かった。
「それは何だ?」
「授業に使う大切なものだとかで」
「馬鹿野郎。人間の技術力を侮るな。もうここは奴らに知られてるに違いない。廃棄する。まだ何か持ってるかも知れないから、調べてから、つれてこい。仕方がないので、例の隠れ宿に移動する」
私は身体を男達に触られ、死にたいほど悲しかった。
その後、麻袋に入れられ、荷車に乗せられて、暫くガタゴトと移動し続けた。そして、賑やかな繁華街らしき場所にて、荷車が停まり、麻袋のまま抱えられて、どこかに運び込まれた。
変な臭いのする空気の悪い場所だが、そこで、袋から出して貰え、目隠しも取られた。
リーダらしき男は顔全体を隠しているが、彼の着物は高級品。隣のオーガよりも品があり、まちがいなくオグル族。
そして、その部屋にはゴウモールの二人と、ゴブリン以外にも、やつれてやせ細ったホブリンの女が二人寝転がっていた。彼女らの一人は、恍惚の表情でパイプで煙を吹かしている。どうやらここはアヘン窟。着物姿だが、下着を着ていないので、もしかして、この二人は売春婦なのかもしれない。
「ここで大人しくしていろよ。ゴブ、見張ってろ。絶対に変な事するんじゃないぞ」
「わかってやすよ。命はおしいので」
そして、ゴブと呼ばれるゴブリンを残し、皆が出て行った。
しかし、この場所は不味い。部屋中に煙が充満していて、私もアヘンを吸う事になる。
私は、扉の横の外気が流れ来る場所に座ることにした。
そして、閉じ込められれてどれ位経ったのか判らないが、私もアヘンにやられたらしい。頭がぼうっとし始めて、気持ち良くなり、何も考えられなくなっていた。知らないうちに涎まで垂れ流している。
「そろそろ気持ち良くなってきただろう。もっと楽しいことしようぜ」
ゴブはこの環境でも平気なのか、私に近寄って来て、胸を揉んできた。
「触るな外道」私はゴブを蹴りあげてやった。
ゴブはふっとんで倒れた。股間の急所は外れたが、かなり痛そう。
「ちっ、まだ威勢がいいな。だが、いつまでそうしていられるかな。それまで、一発抜いておくか」
そういって、傍にいたホブリンの女の一人と始めてしまった。
私はアヘンで酩酊しているせいか、妖艶な声が私の性欲を刺激し、昂奮してしまう。
上半身半裸のモロウを思いだし、ますます興奮してしまう。
事が終わった時には、もうしたくて堪らなくなっていた。
今度、ゴブがまた抱きに来たら、もう拒める自信が無い。
「モロウ、早く助けに来て」
それからは、何度も念仏を唱える様に、小声で呟き、弱っていく自分の心を戒め続けた。
そして、それから三十分ほどして、再びゴブが私に近づいて来た。
もうどうでも良い気がするし、抵抗する気にもならない。私は涎を垂れ流しながら物欲しげに、ゴブを見つめる。
「流石にもう何も考えられないか」
そう言って、私の胸を揉んで来た。その時だった。
外が突然騒がしくなり、「セシルどこだ」とモロウの声がした。
なのに、嬉しいという感情が湧いてこない。まるで、あの精神操作魔法を掛けられていた時の様。モロウの声だと認識はでき、私を助けに来てくれた事も認識できる。けど、それが何という醒めた状態。
「くそっ。見つかったか。声を出すな」
ゴブが私の背後に回り、口を手で押さえた。そして、私を入口の方に向かせ、首に刃物を当てて来た。
そんな状況なのに、なんで彼がそんなことをするのかすら分らない。
「一体どこにいるんだ。セシル、何か言ってくれ」
「ううっ、ううう」
手が口に添えられていて声にならなかったが、応えなくてはいけない気がして、「私はここよ」と声を上げた。
そして、首に痛みがして、血がポタポタ垂れはじめた。
それを見ている内に、次第に酩酊状態が少し醒めて来た。何とかこの居場所を知らせなければ。
私は一気に立ち上り、ゴブの顎を肩で突き上げてやった。そして、彼に思いっきり蹴りを入れてから、ドアの前で叫ぶ。
「私はここよ。早く助けて」
「この戸棚の裏か」
気付いてくれた。そして、暫らくして、モロウとガスパールが現れた。
「セシル、怪我をしたのか?」
「モロウ。なんで直ぐに助けに来てくれないの」
手が自由にならないけど、私は彼の胸に倒れ込む様にして飛び込んでいた。
ガスパールは私の後ろに回り、手のローブを解こうしてくれている。
「ちょっとセシル」
彼が片手を背中に回し、もう一方の手で顎を持ち上げて来る。
漸く、キスしてもらえるんだ。
嬉しさが湧きあがり、私は目を閉じ、顔を突き出した。
「お暑いですね」
その言葉で、ハッとした。私は何をしてるんだろう。
モロウは単に傷口を確認しようとしただけ。それれなのに私は……。
今は下着姿で、彼に乳房を押しつけている認識も出来てきた。
猛烈に恥ずかしさが込上げて来る。
「見ないで」直ぐにその場に座り込む。
「出血のわりに、傷は深くなさそうだね。はい、これ!」
モロウは顔を横に向けると、手提げ袋を渡して来た。中には私の服が入っていた。
「一旦ドアを閉めるから、着替えたら、教えて」
そう言って、ガスバールもゴブを抱える様にして、出て行った。
独りになると、(廃人二人も一緒だが)ちゃんとモロウが助けに来てくれた嬉しさが込上げて来た。
ズキズキとする首の痛みで、本来の自分に戻って来ている。
やはり、モロウは白馬の騎士。いや、ドンキホーテ・デラマンチャかな。
気を使ってくれたみたいで、抜けている。こんなにアヘンが充満している所に閉じ込めるんだもの。
そんな不満も感じつつも、嬉しさで口元が緩むセシルだった。
外の鬼たちはフチコマ型警備ロボットに捕まっていた。でも、あのリーダーとおぼしき男はいなかった。用心深い男だったので、直ぐにここを離れたに違いない。
セシルは、それをモロウに告げて、外に出た。
太陽がまぶしく、風が気持ち良く、火照った身体を醒ましていく。
無事にこうして、また元通りに戻れたことを、素直に喜ぶ。
「なあセシル、やっぱり講義は別の鬼人に任せないか。いつかは任せなければならない事だし、俺達は一緒にヘリオスから静観しているのが良いと思うんだ」
既に第二期生徒への講義を始めているし、途中で投げ出すのは嫌。だけど、こんな事になってしまった以上、我儘は言えない。
「じやあ、キスしてくれたら、あなたの言う事をきいてあげる」
口にしてから、ハッとする。
「いや、それは……」
「冗談よ。まだ、させて上げる訳ないでしょう」
直ぐに誤魔化したけど、本気でキスして貰いたいと思っていた。アヘンって怖い。
今回の件で、ますますモロウと一緒になりたい気持ちが強くなったセシルだった。
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